サ帝

紅夜蒼星

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「生徒会主導の今大会は、あくまで生徒同士の交流とサウナ文化のさらなる発展のために考案されました」
 昨日の帰り際、蒼との会話を思い出しながら、俺は体育館で交流戦の開会式に参加していた。
 特に面白みもない午前の授業を終えた後、午後一で始まる全校集会。生徒会長や校長のよくわからない話を聞いた最後に、参加者のみが体育館に残され、開会式が執り行われている。
 部活対抗戦と銘打っているわけではないが、部活ごとに整列し直したため、なんとなくそういう気持ちにもなってくる。
 俺はGTS部の一員として参加する都合上GTS部の列の最後方に並んではいるが、雅也と裕介の間にいるため景色は特に変わった気配はない。
 少し遠くのテニス部の列には淳介の姿も確認でき、サウナ好きでもないのにご苦労なことだと適当な感想を抱く。
「我慢しすぎないこと。勝利だけを目的としないこと。この二つは気を付けて、よりよいサ活に励んで下さい。ではGTS部部長滝くん。ルール説明をお願いします」
 生徒会の挨拶も終わり、壇上には昨日とんでもない邂逅をしたばかりのGTS部部長が姿を現した。
 というか名前すら知らなかった事実に今更ながら震える。
「本大会はGTSエキスパートルールに準じます。おおまかにルールは四つです」
 簡単なあいさつの後、昨日俺に消す宣言をしてきた滝部長が、小さくはない体育館にもよく響く声でルールを説明する。
「各試合において指定された時間を、サウナルームへの入室からセットポジションへの着席まで過ごすこと。今回は全試合統一で九分間となります」
「――セットポジションって何すか?」
「ととのい椅子のこと。水風呂から出たとき休むやつ」
「あれセットポジションって呼んでんだ。無駄にかっけぇ」
 隣の列のバスケ部がこそこそと話す声が聞こえる。
 GTS経験者なら分かることだが、たしかにGTSのワードは無駄に格好つけたものが多かったりする。
 このスポーツの親である「彼」は、そういうのが好きだったのだろうか。 
「水風呂から出て三十秒以内に、セットポジションへの着席を完了させなければ失格となります」
 試合の指定時間には毎回違いがあるが、この水風呂からの着席時間は基本三十秒から動くことはない。
 サウナからも、水風呂からも上がった、全てから解放された状況下で時間稼ぎをすることはととのいから遠ざかる行為であるからだ。
 水風呂からととのい椅子に向かうまでの経路は、シンプルであればシンプルであるほどいい。
「無理やりサウナルームから出すなどの、他者への直接的な接触行為は失格となる」
「まぁ当然だよな、レスリングじゃないんだし」
 左隣のレスリング部の列が、苦笑するように小声で話している。
 彼らの言うように、接触行為が許されるのであればそれは最早違うスポーツだ。GTSでは一発で失格となる最悪のルール違反と言っていい。
 相手のととのいを力ずくで邪魔する行為は、ルールでも当然禁止はされているのだ。 
「入室から着席までの時間が指定時間に最も近い者が勝者となる」
「時間は過ぎても大丈夫なの?」
「あくまで設定時間に近い人が勝ちだから、過ぎようが過ぎていなかろうがどっちでも大丈夫だよ」
「はぁ~意外と考えることがあるな」
 どこからか話声が聞こえてくる。
 そう。このスポーツは厳密にはタイムアタックではない。時間を過ぎたらドボンという、バラエティの企画でもない。
 指定された時間に対し、どれほど自分の力のみで近づけるか。
 ととのいへと、上り詰められるのか。
 そういったことが求められている。
「細々としたルールはもちろんありますが、今日はそこまで気にしないで結構です。それではよいサウナライフを」
 滝部長が一礼し、壇上を降りた。
 と同時に運営が入れ替わり壇上に立ち、戦うグループと開始予定時刻を発表していく。
 俺のグループは十二人で、時間は今から一時間後に始まるグループ。
 まさかの同じグループ内に、淳介と裕介、そして雅也が出ている。知り合いが多い当たり、何か作為的な何かを感じるが。
 あとは――古い先輩か。
「おっ一緒だねぇ。よろしく~」
 古井先輩が人懐っこそうな笑みを浮かべて、列の前の方から手を振ってきた。
  
 
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