サ帝

紅夜蒼星

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「これで福良と古井の一騎打ち。話の内容までは聞こえんが、これもお前の思惑通りか、蒼?」
「そうね。概ね思惑通りよ。古井君が遊びすぎないといいけど」
「あいつは年下と仲がいいしな。教育係にはあいつが適任ではあるんだが」
 視聴覚室に、運営委員である滝部長と蒼はいた。
 この高校の視聴覚室は本校舎の三階にあり、運営委員のGTS部や生徒会の面々が画面を注視していた、
 横浜中央高校はGTS公式戦でも使えるように、サウナルームと水風呂の空間にカメラを設置してある。「生徒の安全を守るため」と尤もらしく主張し備え付けさせたのは蒼であるためか、GTS以外で使われる機会はそう多くない。
 しかしながら、GTSの公式戦同様に選手の動向は確認できる。
「そういえば言い忘れてたわね。私が何故彼を強く推薦したか」
 そして広い視聴覚室の最後方に陣取りながら、蒼は隣の滝に話かけた。
 いつもならばそんな無理やりなお願いなどして来ないはずの蒼が滝へと「お願い」したのは、先週のことだった。
「「帝王」を連れてくる。お前はそう言ってたな」
「えぇ。GTS部の活動にとって最後の一ピースとなりえる人よ」
 滝はなんとなしに、蒼からモニターへと視線を移す。
 会話こそ聞こえないが、何やら古井と福良が話し込んでいる様子が確認できた。
 「最後の一ピース」となりえるのかは、古井との対決次第ではあるが。
「彼、皇帝と一緒なのよ」
 皇帝。
 サウナを、GTSをする者にとって、避けて通れぬ偉大な男。
 今や行方も知らぬ人だが、このサウナ時代を作り上げたといっても過言ではないとある人物だ。
 サウナに絶対はない。
 しかし彼こそが、紛れもない「絶対」であることは違いなかった。
「笑っていた、か?」
 蒼から何度も、それこそ飽きるくらいに聞いたことがある。彼女がGTSに熱を上げる理由ともなったエピソードだ。
 体を襲い来る熱波と湿度を、すべて受け入れていたのだと。
 全てを味わい、笑っていたのだと。
「サウナの中で、しかもあろうことか中体連の全国決勝で。信じがたいほどの重圧と熱波の中で、そう過ごせる人はなかなかいない」
 そして蒼は、モニターに映る推薦人、「福良大海」も同じ人間であるという。
 全ての熱と湿度と、重圧すらも己のととのいの糧とする。
 だからこそ、横浜中央高校GTS部には福良大海が相応しいのだと。彼女は主張した。
「私、何事も楽しんでいる人が好きなの」
 蒼の口癖ともなっている言葉だ。
 ととのいなくして勝利なし。楽しみなくしてととのいなし。
 何かを楽しんでこそ、その先のととのいはある。勝利はある。彼女の根幹にある考えでもあった。
「蒼……」
「うん」
「俺もGTS、めっちゃ楽しいぞ」
「うん」
「俺もサウナ、めっちゃ好きだぞ」
「滝君」
「はい」
「ワンチャンは、ないわ」
 ワンチャンは、ないわ。
 その言葉は彼の心に、どんな冷たい水風呂よりもダメージを与えた。
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