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本編

10. 完治

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 そーっと包帯を外すと、女かと突っ込みたくなるくらいきめ細やかな白い肌が現れた。軽く押してみると弾力がある。

「うん、完治」

「……そうか」

 男は特に感慨もなさそうに頷くとさっさと服を着た。私の方は達成感で頬がニヤついているのだが、共有はできなさそうだ。しょうがない。

「ねえ、ケーキを作ってよ」

「ケーキ?」

「お祝い事に奮発して食べるものって聞いたよ。もう胃も全快したんだし、作ってみてよ」

「作り方は知らないが……」

「え、そうなの?」

 それは困った。

「私も知らない」

「それでは作れないな」

「そっか……」

 肩を落としたが、仕方ない。

「食べてみたかったんだけどな」

 独り言を呟くと、ちょうど立ち上がった男が振り向いた。

「食べたことがないのか?」

「あ、うん」

「……」

 男は何か考えている。

「どうしたの?」

「……いや、何でもない」

 男は動き出した。

「鶏小屋の雪かきをしてくる」

「ああ、ありがとう」

 分厚い上着と帽子と手袋を持ち、出て行く男を私はソファに座ったまま見送った。

 さて、残念がっても無駄な時間だ。魔族に効く薬を作れたし、あれだけ派手な重体を完治させたんだぞ。患者から感謝の欠片も感じられなくても私が嬉しい。よく頑張ったと自画自賛してもいいはずだ。

 だからちょっと、少しだけ自分にご褒美をあげたいから、後で香り付きの蝋燭を焚こう。
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