魔女のような人間と、人間のような魔王

三原透

文字の大きさ
9 / 30
本編

9. そのあと

しおりを挟む
 男が魔王だということ自体には特に何も思わないと言った私だけど、一つだけ期待外れというか残念なことはあった。

 せっかく正体を明らかにして魔法も使い放題なのに、男は滅多に魔法を使わないのだ。

「元々は魔力が回復するまでと思っていたが、体を動かすのも悪くない」

 そんなことを言っては掃除や料理に精を出す。綺麗になるし美味しいし別にいいんだけど、もうちょっと魔法を見たいなあとか思ったり。これじゃ魔王じゃなくてただの主夫だ。

 間違えた患者だった。

 もうほぼ完治した傷に今日の薬を塗り終えて、服を着始めた男に聞いてみた。

「ねえ、城に住んでたんだよね」

「? ああ」

「しばらくここにいるけど、大丈夫なの? 心配する人いるんじゃない」

 城、と言うならせめて使用人とかはいそうだ。魔王はただ力が強いだけでそう呼ばれてるから国とか政治とかはないし、気にするとしたら人間関係くらいだろう。

「問題ない。必要なことは魔力で作った使い魔にやらせていたから、俺がいなくなって困ることはない」

「まさかのひとりぼっち生活」

「お前に言われたくはない」

 確かに。

 ……あれ?

「治ったら、どうするの?」

 あと、多分数日。男の傷は痕まで綺麗に消える。

 ここにいる理由がなくなる。

「……考えていなかったな」

「……帰るんじゃないの?」

 自分で思うより、何だか情けない声が出た。……何でだろ。

 でも、多分城はここよりずっと広くて、便利だろう。

 ボタンを留め終えた男はすんと澄ました顔で私を見た。

 何だその顔。

「何……?」

 気まずくて無意識に身を引いてしまう。

「……帰らなければならないか?」

 真顔でそんな子どもみたいなことを言われた。

 意表を突かれたので思わず目を丸くして、思考が上手く働かなかった。だからよく考えずに言っていた。

「……帰りたくないなら、帰らなきゃいいんじゃないの?」

 多分私も真顔だ。

 お互い妙な沈黙の中で見つめ合って、まるで時間が止まったように感じる。

 それを破ったのは男だった。

「なら、ここにいよう」

 視線が外れてはっとした。男は平然とした態度で立ち上がり、残された私はぽかんと後ろ姿を見送った。

 いや、「ここにいよう」って。確かに私は帰らなきゃいいんじゃないとは言ったけど、ここにいていいとは言ってない。なのに何でさも許されたかのような顔をしてるんだ?

 え?

 何これ、私が「いてほしい」って言ったみたいになってるの?

 何か変だと思ったけど、それを言ったら逆に認めるような気がして何と文句を言ったらいいかわからない。

 結局その後男があまりに普通にしているから、ついにタイミングを逃してしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

君を探す物語~転生したお姫様は王子様に気づかない

あきた
恋愛
昔からずっと探していた王子と姫のロマンス物語。 タイトルが思い出せずにどの本だったのかを毎日探し続ける朔(さく)。 図書委員を押し付けられた朔(さく)は同じく図書委員で学校一のモテ男、橘(たちばな)と過ごすことになる。 実は朔の探していた『お話』は、朔の前世で、現世に転生していたのだった。 同じく転生したのに、朔に全く気付いて貰えない、元王子の橘は困惑する。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

処理中です...