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本編
9. そのあと
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男が魔王だということ自体には特に何も思わないと言った私だけど、一つだけ期待外れというか残念なことはあった。
せっかく正体を明らかにして魔法も使い放題なのに、男は滅多に魔法を使わないのだ。
「元々は魔力が回復するまでと思っていたが、体を動かすのも悪くない」
そんなことを言っては掃除や料理に精を出す。綺麗になるし美味しいし別にいいんだけど、もうちょっと魔法を見たいなあとか思ったり。これじゃ魔王じゃなくてただの主夫だ。
間違えた患者だった。
もうほぼ完治した傷に今日の薬を塗り終えて、服を着始めた男に聞いてみた。
「ねえ、城に住んでたんだよね」
「? ああ」
「しばらくここにいるけど、大丈夫なの? 心配する人いるんじゃない」
城、と言うならせめて使用人とかはいそうだ。魔王はただ力が強いだけでそう呼ばれてるから国とか政治とかはないし、気にするとしたら人間関係くらいだろう。
「問題ない。必要なことは魔力で作った使い魔にやらせていたから、俺がいなくなって困ることはない」
「まさかのひとりぼっち生活」
「お前に言われたくはない」
確かに。
……あれ?
「治ったら、どうするの?」
あと、多分数日。男の傷は痕まで綺麗に消える。
ここにいる理由がなくなる。
「……考えていなかったな」
「……帰るんじゃないの?」
自分で思うより、何だか情けない声が出た。……何でだろ。
でも、多分城はここよりずっと広くて、便利だろう。
ボタンを留め終えた男はすんと澄ました顔で私を見た。
何だその顔。
「何……?」
気まずくて無意識に身を引いてしまう。
「……帰らなければならないか?」
真顔でそんな子どもみたいなことを言われた。
意表を突かれたので思わず目を丸くして、思考が上手く働かなかった。だからよく考えずに言っていた。
「……帰りたくないなら、帰らなきゃいいんじゃないの?」
多分私も真顔だ。
お互い妙な沈黙の中で見つめ合って、まるで時間が止まったように感じる。
それを破ったのは男だった。
「なら、ここにいよう」
視線が外れてはっとした。男は平然とした態度で立ち上がり、残された私はぽかんと後ろ姿を見送った。
いや、「ここにいよう」って。確かに私は帰らなきゃいいんじゃないとは言ったけど、ここにいていいとは言ってない。なのに何でさも許されたかのような顔をしてるんだ?
え?
何これ、私が「いてほしい」って言ったみたいになってるの?
何か変だと思ったけど、それを言ったら逆に認めるような気がして何と文句を言ったらいいかわからない。
結局その後男があまりに普通にしているから、ついにタイミングを逃してしまった。
せっかく正体を明らかにして魔法も使い放題なのに、男は滅多に魔法を使わないのだ。
「元々は魔力が回復するまでと思っていたが、体を動かすのも悪くない」
そんなことを言っては掃除や料理に精を出す。綺麗になるし美味しいし別にいいんだけど、もうちょっと魔法を見たいなあとか思ったり。これじゃ魔王じゃなくてただの主夫だ。
間違えた患者だった。
もうほぼ完治した傷に今日の薬を塗り終えて、服を着始めた男に聞いてみた。
「ねえ、城に住んでたんだよね」
「? ああ」
「しばらくここにいるけど、大丈夫なの? 心配する人いるんじゃない」
城、と言うならせめて使用人とかはいそうだ。魔王はただ力が強いだけでそう呼ばれてるから国とか政治とかはないし、気にするとしたら人間関係くらいだろう。
「問題ない。必要なことは魔力で作った使い魔にやらせていたから、俺がいなくなって困ることはない」
「まさかのひとりぼっち生活」
「お前に言われたくはない」
確かに。
……あれ?
「治ったら、どうするの?」
あと、多分数日。男の傷は痕まで綺麗に消える。
ここにいる理由がなくなる。
「……考えていなかったな」
「……帰るんじゃないの?」
自分で思うより、何だか情けない声が出た。……何でだろ。
でも、多分城はここよりずっと広くて、便利だろう。
ボタンを留め終えた男はすんと澄ました顔で私を見た。
何だその顔。
「何……?」
気まずくて無意識に身を引いてしまう。
「……帰らなければならないか?」
真顔でそんな子どもみたいなことを言われた。
意表を突かれたので思わず目を丸くして、思考が上手く働かなかった。だからよく考えずに言っていた。
「……帰りたくないなら、帰らなきゃいいんじゃないの?」
多分私も真顔だ。
お互い妙な沈黙の中で見つめ合って、まるで時間が止まったように感じる。
それを破ったのは男だった。
「なら、ここにいよう」
視線が外れてはっとした。男は平然とした態度で立ち上がり、残された私はぽかんと後ろ姿を見送った。
いや、「ここにいよう」って。確かに私は帰らなきゃいいんじゃないとは言ったけど、ここにいていいとは言ってない。なのに何でさも許されたかのような顔をしてるんだ?
え?
何これ、私が「いてほしい」って言ったみたいになってるの?
何か変だと思ったけど、それを言ったら逆に認めるような気がして何と文句を言ったらいいかわからない。
結局その後男があまりに普通にしているから、ついにタイミングを逃してしまった。
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