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本編
22. 領主
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目が覚めると石造りの牢の中だった。
頬を床につけたまま自分の体を確認する。肌着以外全部剥ぎ取られて、色々隠し持っていた薬も全部没収されているようだった。両手と両脚に付けられた枷が重い。というか寒い。
ただ、色んな箇所が痛みによる熱を持っている。幸い折れた骨が肺や心臓に突き刺さるという事態は避けられたようだ。他の内臓は、多分どれか傷ついてるけど。
楽な体勢を取ろうとのろのろ動いていると、ガチャガチャ五月蝿い足音が聞こえてきた。
「起きているのか」
「はっ、ですが問題ありません。あの怪我では起き上がることすらままならないでしょう」
鉄格子の方に視線を向けると、松明の逆光で顔は見えないが、やたら太った体躯が数人の兵と鎧を着ていない人間を連れてそこにいた。
「ほう……本当に子どもの姿をしているのだな」
「領主様、お気をつけください。見かけはああでも恐ろしい薬を作る魔女です。中身は狡猾な老婆に違いありません」
んなわけあるか。私が男みたいに姿形を変えられるなら、筋力のある成人の男か、もっと人受けする顔の女になる。好き好んで貧相な子どもの格好なんぞするわけないだろ。
「それで、魔王はどこへ消えた」
「それが、まだ……」
「馬鹿者! 騎士が真相を嗅ぎつける前に、さっさとアレの首を持って来ぬか!」
「申し訳ございません!」
……? 真相って何のことだ。
「しかし、策はございます。魔王はこの魔女を庇うような素振りを見せ、我らが魔女を捕らえたときには取り返そうとしておりました。此奴を囮にすればおびき出すことができるかもしれません」
「ほう? それほどの価値がある魔女なのか……?」
「確実にそうとはわかりませんが……どちらにせよ、この魔女は領民の前で処刑することをお勧めします。魔王が現れずとも悪しき魔女を罰した領主様の名声は世に轟き、魔王が現れればそれを討ち取ることで更に高まるでしょう」
「うむ、うむうむ。それは良いな」
うげぇ、と唾を吐き出してやりたい気分だ。
殺されるのか、私。どうしよう……。
恐怖も浮かばないほどぼんやりしている頭で考えに集中しようとしたとき、聞こえてきた言葉のせいで意識が覚醒した。
「聖石の武器は用意ができておろうな?」
「勿論です。領主様のご指示で、西の鉱山より内密に……魔女の処刑の際には、兵の装備はすべて聖石で揃えられましょう」
何だって?
聖石とは、魔族が触れてはならない金属の名前だ。非常に稀少なもので、それで作られた武器は国のエリート騎士しか持てないほど。それをこいつらは、大量に持っている?
駄目だ気になる。それに西の鉱山って、あんまりちゃんと覚えてないけど、確か男が棲んでいた城も西の方じゃなかったか。あいつが倒されたことで、西の方との交易が盛んになったとか言ってなかったか。
血流が速くなっている自覚がある。私の頭じゃよくわからない。でも、なんか、物凄く嫌な予感がする。
「ふははっ……魔王の首をこの手に持つのが楽しみだ。魔王は人を喰っていないかもしれないなどと、あの騎士どもめ……昔から気に喰わなかったのだ。魔族など、その存在こそが悪! 魔王など序の口に過ぎん、今に根絶やしにしてくれる!」
興奮したらしい領主が、見張りの兵から槍を奪った。それを逆手に持って鉄格子の隙間から私を突いてきて、腹に食い込む感覚に血を吐いた。
「ぐふっ……」
「ふはははは、無様なものだなぁ!」
デブの体重を乗せられてはたまらない。避けたいが、力が入らない。顔に柄を叩きつけられたり、脛を突かれたり、もうどこが痛いのかわからない。
せめて睨んでやろうと――視線を上げたとき、さっきは見えなかった領主の顔が見えた。
「――!!?」
見覚えのある、顔だった。
そいつは――私の知る限り、以前は騎士の鎧を纏っていたはずだ。そして、槍ではなく仰々しい装飾がなされた剣を持っていた。
「!」
痛みではない、別のもので奮い立つ全身で覆い被さるように、槍を押さえ込む。体力はないようで領主はゼェゼェ言いながら弱々しく引っ張った。
「貴様……放せ!」
「はな、せ……?」
放せだと?
「おまえ……自分がはなさなかった、くせに……たしが、放すと……?」
「は? 何を言っている」
そうか、覚えていないのか。
……そうか。
「わたし……は、おまえのかお……一日も、忘れたこと、なかったぞ……!」
「何だと?」
「るさいっ……! 人殺しっ!」
叫ぶほどに頭に響く。喉が破れそうだ。でも堪えられない。
「私は、お前が二年前に殺した、薬師の弟子だ――!!」
ピタリと……槍を動かそうとする領主の手が止まった。
「………ああ。まさか……貴様、あの教会の魔女か?」
ぽかんと呆気に取られたような声。
……が、人とは思えない歪な形に口元が歪んだかと思うと、思い切り槍を引き抜かれた。
「ふはははははは! そうか、あのときの弟子の方か! これは素晴らしい! 貴様のせいで私は、魔女を一人殺した功績と、魔女を一人取り逃がした失態とで随分悩まされたものだ!」
「ぐぁっ……!」
「薄汚い格好は相変わらずだなぁ? まさか私の領地でのうのうと生きているとは! 気づかなかったぞ! しかし、よくやったと誉め称えてやろう! 時を経て、貴様は再び私の元へ栄誉を運んでくるのだからな!」
「りょ、領主様、それ以上は……処刑の前に死んでしまいます!」
側の者に止められ、やっと領主は私を打ち据えるのをやめた。
「フン……その金色の目、まるで魔物のようだ。いや、魔物だったな? 処刑の前にはその眼球をくり抜いてやる。楽には死なせてやらんから覚悟するといい」
豚のような鼻息を撒き散らしながら、領主は去った。
少しでも身じろぎすれば全身を痺れが駆け抜ける。既に痛みは通り越していた。
あのクソ豚野郎の思う通りになどなるものかと歯を食いしばったが、目を閉じてしまった瞬間、風に攫われるように意識が遠のいていった。
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