魔女のような人間と、人間のような魔王

三原透

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本編

閑話. 『  』

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 物心ついたときから、私は教会の孤児だった。

 その村は豊かではなかったが、作物がよく育つ土壌で飢えることはない平和な村だった。村人のほとんどは農業に従事し、その子どもたちと孤児たちも仲が良く、畑作業を手伝う傍ら鬼ごっこをする声が響くのが日常だった。

 ただ私は、その輪に馴染めずいつも村外れの薬屋に入り浸っていた。



『ししょー、薬のこと教えて』

『なんだ、君また虐められてきたのかい?』

『いじめられてない。ハブられただけ』

『何が違うんだか』

 薬屋の主人――私の師匠は白髪と皺の滲み始めた女で、若い頃はさぞ美人だったのだろうと思える容姿をしていた。しかし世を斜に構えたような物言いが口元にも現れていて、常に小馬鹿にするような笑みが貼り付いていた。

『金色の目は魔物の目って。私は子どもに化けてる魔女だから、髪もババ臭いんだって』

『何言ってるんだ。髪なんざ年喰ったらもっと汚いムラのある色になるよ。それに君の目はいいものの色だ』

『いいもの?』

『ああ。君の名前はね、その瞳と同じ色の花から名付けたんだよ』

 師匠はゴリゴリと薬草をすり潰しながら同じ器具と薬草を渡してきて、私も同じことをしながら話を聞く。

『小さいけれども沢山の花を咲かせる、とても良い香りがする美しい木だ。その上胃に優しい薬にもなる。遠い東の地に生えるものだから馴染みはないだろうが』

『うん。変な名前って言われる』

『ふはは、変なだけで害がないならいいだろう。それでな、その花には【真実】という意味があるんだよ』

『真実?』

『そうだ。君を拾ったとき、あんまり真っ直ぐ私を見るものだから驚いたんだよ。こいつは何者で、自分をどう扱う人間なのか? と、じっと観察されている気分だった。神父様のところへ連れていく間も、泣き声一つ上げずに私を見つめていたよ』

『へえ……覚えてないけど』

『だが私の目に狂いはなかったな。君は真実を見る目を持っている。今だってこの薬が何でできているか、どんな効能があるのか、解き明かそうとしている君にぴったりの名前だろう?』

『……その前に、このボロ薬屋が廃業しないといいけどね』

『君はその憎まれ口をどうにかしないと、せっかく薬師として一人立ちしても魔女と呼ばれ続けるだろうなあ』

『お互い様でしょ』

 自身のネーミングセンスに胸を張る師匠に、何となく素直に頷いてやるのは癪だった。だからそのときは適当に返事をしたが……そんな捻くれた私に気分を害さない師匠の傍は、なかなか居心地が良かったのだ。

 だから、師匠と同じように『魔女』と呼ばれることも、実はそんなに嫌いではなかった。
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