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後編: 鳥籠の中の少女
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目を覚ましたときには、既に日は一巡りして銀色の月が輝いていた。
髪を梳くように撫でられる感覚。うっすらと瞼を持ち上げればそこにいるのは、縹木の婚約者だ。
「起きたか?」
「……」
言葉を発するのが億劫で、瞬きをして答えた。くすりと笑う声が聞こえ、髪を撫でていた手が頬に移る。
指の背でくすぐるように触れられるのが心地良く、縹木はすり寄るように身じろぎをした。微かに冷たい繊細な指先は、紅月の好きなところの一つだ。
「……冬哉」
「何だ?」
「……もう少し、寝たい。ここにいて」
自分から紅月の胸に顔を寄せれば、紅月はとても穏やかな声で言った。
「お前がここにいてくれるなら」
ああ、この声もまた好きな一つ。
頬を撫でていた手は背に周り、縹木の体を抱き寄せる。しっとりした肌から互いの体温が伝わって、縹木はそっと息を吐いた。紅月の瞳が柔らかく細められるのがわかる。
指も声も、しなやかに鍛えられた体も、さらりとこぼれ落ちる赤い髪も好きだ。しかし何よりも好きなのは瞳だった。本能のままに自分を求める金色も、愛しさに溢れたワインレッドも。――いっそくり抜いて、誰の目にも触れないようにしてしまいたくなるほどには。
けれどそうしてしまったら、もう一方の輝きは二度と見られないから。指先や声が自分に向けられなくなってしまうから。
だから縹木は逃げるのだ。誰も知らない、遠い遠い街まで逃げて、紅月が捕まえに来るのを待っている。そのときだけは、紅月は煩わしい血筋も仕事も周囲の他の女たちも見ずに、自分だけを見てくれるから。
髪を梳くように撫でられる感覚。うっすらと瞼を持ち上げればそこにいるのは、縹木の婚約者だ。
「起きたか?」
「……」
言葉を発するのが億劫で、瞬きをして答えた。くすりと笑う声が聞こえ、髪を撫でていた手が頬に移る。
指の背でくすぐるように触れられるのが心地良く、縹木はすり寄るように身じろぎをした。微かに冷たい繊細な指先は、紅月の好きなところの一つだ。
「……冬哉」
「何だ?」
「……もう少し、寝たい。ここにいて」
自分から紅月の胸に顔を寄せれば、紅月はとても穏やかな声で言った。
「お前がここにいてくれるなら」
ああ、この声もまた好きな一つ。
頬を撫でていた手は背に周り、縹木の体を抱き寄せる。しっとりした肌から互いの体温が伝わって、縹木はそっと息を吐いた。紅月の瞳が柔らかく細められるのがわかる。
指も声も、しなやかに鍛えられた体も、さらりとこぼれ落ちる赤い髪も好きだ。しかし何よりも好きなのは瞳だった。本能のままに自分を求める金色も、愛しさに溢れたワインレッドも。――いっそくり抜いて、誰の目にも触れないようにしてしまいたくなるほどには。
けれどそうしてしまったら、もう一方の輝きは二度と見られないから。指先や声が自分に向けられなくなってしまうから。
だから縹木は逃げるのだ。誰も知らない、遠い遠い街まで逃げて、紅月が捕まえに来るのを待っている。そのときだけは、紅月は煩わしい血筋も仕事も周囲の他の女たちも見ずに、自分だけを見てくれるから。
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