鈴鳴りの森の魔女

カイリ

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魔女のいる世界

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 世界の歴史を語る上でけっして切り外せない存在。
 それは――――【魔女】。
 幾度も民たちを脅かしてきた畏怖すべきものたちは、半世紀ほど前に行われた退魔大戦の後も、ひっそりと、あるいは泰然と、存在している。


 が、この退魔大戦での我ら最大の功績は、悪名高き大魔女・ウォーリアを封ずることが出来た点である。
 世界各地に存在する魔女の筆頭である彼の魔女を抑えたことで、今日の我らの満ち足りた生活が成り得たと言っても過言ではない。
 現在存在する魔女の多くは、純血種たる原初の魔女とは格段に劣る能力であり、各国の名だたる魔導師達の敵ではないことをここに書き記すものである。


   ~サージェス国王宮魔導師長・ガーランド=オルキエス ~



 闇夜の中で、その威光をあまねく示さんばかりの煌々とした光が漏れる王宮を遙か上空から見下ろす女がいる。
 風にバサバサと揺れるのは闇にまぎれる黒衣。
 頭には尖った三角帽子、ほうきに跨った足にはつま先が尖ったブーツ。
 見るからに私は魔女だという恰好の女だ。


「なぁ―にが、我ら最大の功績よ。笑わせてくれるわ」

 鼻先で笑い飛ばし、手にした駄文――彼女曰く――を発現させた炎で燃やすと、その魔女特有の、真珠の光沢を帯びた眼を細める。

「・・・・全部あの子の犠牲のおかげじゃない。これだから、人間って奴は・・・・」

 あの煌びやかな王宮で晩餐を楽しむ愚者どもは、分かっていないのだ。
 彼女の犠牲で成り立つ平穏には、期限があるのだということを。

 ・・・・腹立たしい。
 きりっと奥歯を噛み締め、女は矢のように双眸を尖らせるけれど、震える手は、わななく唇は、打ち据える魔法を発動させることはない。

 なぜならば、約束したからだ。
 これは、彼女の願い――――彼女の望み。
 たった一つだけ彼女がこの世界に残した、宝物の為の平穏なのだから。
 友人である自分が壊すわけにはいかないのだ。
 たとえどれほど、腹に据えかねようとも・・・・。

 女は硬く双眸を閉じ王宮の上空から、飛び去った。



 後世の歴史書は記す。
 退魔大戦後、封じられた邪悪なる魔女はこの後目覚めの時を迎えることとなると。
 魔女の名はウォーリア。
 かつて一つの大陸を氷で覆い尽くし、多大なる犠牲を強いたもっとも冷酷で最強の魔女の名前である。
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