公爵さまの家宝

カイリ

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ごっくん、しちゃいました

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白い光の筋が注ぐ厳粛な儀式の中、あたしはお嬢様に駆け寄った。
清廉なユリの香が漂う祭壇の前、華奢なその身体が後方に傾ぐ。
両手を伸ばして受け止めようとしたけど、悲しいかな、緋毛氈に足を取られて前のめりに蹴躓いた。

ぎゃあ!?

視界に映る全てが、酷くゆっくりと感じた。
倒れ込むお嬢様と、煌々と輝く司祭様のおでこと、逆光に立つ影と――――日差しに輝くきらきらした玉と。
だ、駄目。
間に合わない。
お嬢様に届かない手が空しく宙に浮く。
すると、開いていた口の中に何か落ちてきた。

――――ごっくん。

「んぐぅっ」

顎が割れるような痛みと同時、喉が詰まるほどデカイ異物を飲み込んで、両目に生理的な涙が滲んだ。
何が起こったのかわからない。
主役を見守っていた人々の悲鳴が響く中、茫然自失で見上げた先で、お嬢様を抱きとめている男の人と目が合った。
早咲き菫の様な色の瞳が少しだけ驚いたように大きくなってる。
よ、よかった。
受け止めてくれてる。
がくがくする足と手に力を込めて立ち上がろうとしたら、ふいに喉の奥が熱くなった。
あ、あれ?
異変を感じて、喉を押さえる。
……熱い。
熱い、熱い、熱いっ!!
我慢できないくらい、喉が焼けただれたみたいに痛いっ。
きつく喉を押さえて、床の上を転げまわる。
痛くて苦しくて、どうしようもない。
呼吸がぜえぜえ耳障りな音を立てる。
滲んだ涙で視界が曇る中、誰かが近づいてくるのが見えた。

「————、————?」

何か話しかけてくる。
けど、答えられるような状態じゃなかった。
次第に意識が遠くなってきて、全ての感覚が現実感を失っていく。



あたし、何でこんな目に遭ってるんだろ……。
……ああ、そっか。
断らなかったからだ。


思えば、あれが全ての元凶だった。





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