寒暁

繚乱

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 長島

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(フッ・・・今思えば ちとやり過ぎたか・・・フフフ・・・)

 天正十一年正月元旦 滝川一益は彼の居城である伊勢長島城の天守から小雪が舞う中、薄明かりの朝日を眺めながら今から三か月ほど前の出来事を思い出していた・・・

「何を一人で思い出し笑いをしておられるのですか叔父御おじご

 その時、背後から声を掛けられる・・・

「うん? 慶次郎か」

「ええ、慶次郎ですよ。少しはばかられましたが、還暦を過ぎた爺様が新年早々の朝日に向かって一人笑いをしている構図はなかなか見るに堪えないものでしたからな、つい声を掛けてしまいました。フフフ、それで何を思い出されておったので?」

「こ奴め、言うわ! クックック・・・。うむ・・・大徳寺での信長様の御葬儀の事よ」

「ああ・・・あの時の」

 慶次郎こと前田慶次郎利益は、思い出したのか鉄砲を構える仕草をとると

「ダッア~~~ン、でしたかな?」

 一益は慶次郎のその仕草が可笑しかったのか大きな声で笑う

「ハッハッハ!!! そうじゃ、その時の事ぞ、クックック ガッハッハ!!!」

「その時の様子を是非とも見たかったものですな。叔父御の啖呵の切り方や、羽柴殿の狼狽ぶりやその有様を見守る周りの人々のくるくる変わる表情をまことに見たかった・・・とても残念です」

 心底残念そうな表情で話す慶次郎の姿を見て一益は胸中にてつぶやく・・・

(本当に困った奴じゃ・・・利久殿のもとに居ればよいものを・・・)

 利久殿というのは、慶次郎の養父前田利久のことでありこの人物はこの時期尾州荒子に居を構えていた。当時能登の国主であった前田利家はこの利久の実弟である。慶次郎は前田家に養子に入ってからも自由気ままに自分の本家筋にあたる一益のもとに事あるごとに身を寄せており、あろうことか一益が上州厩橋うまやばしにて関東を治めるため赴任した時も慶次郎はそれに付き従いその結果この時期から半年ほど遡った時期に起きた本能寺の変に乗じた北条勢との神流川かんながわの合戦の折にも一益の軍勢の先手として奮闘したが破れ、その後信濃、美濃を経て伊勢に戻るまでの苦難の道中にも一益に従い共に帰還した経緯があったのだ。

「・・・して慶次郎。そなた、何ぞ用があったのではないか?」

「おっ! そうでした。叔父御、一同もう揃っており新年の挨拶を待っております」

「そうか、もうそのような時刻か・・・では、参るか」

「はっ」

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