寒暁

繚乱

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 考察

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「早う、致せ!」

 一益は、渋々立ち上がりこちらに来ようとする慶次郎を脇目にしながら一同に補足説明する。

「実は、わしと慶次郎で師走の暮れに修理殿と筑前との予想合戦場となりうる長浜付近をこの目で見に参ったのだ・・・そこでわしは目のあたりにした光景に驚いたのだが・・・うむ、ここから先は慶次郎、そちが申せ!」

「いや・・・さすがに、これは・・・叔父御、やはりそれがしでなく」

「慶次郎、やるのじゃ・・・」

 一同の注視を浴び、困り果てた表情の慶次郎に一益からドスのきいた声が容赦なく突きつけられる・・・

「わかり申した! では僭越ながらそれがし前田慶次郎利益が語らせていただきます・・・」

 慶次郎は観念したように大きく息を吸い、そしてゆっくりと息を吐くと瞳に力を籠め、注視する一同に語り始める。

「大垣から、垂井、関ケ原を抜ける道中から感じたのですが、美濃方面から西へ佐和山方面に向かう人馬の数が異常に多いと・・・何台もの荷車が連なり西へ西へと、この様な有様はそれがしは初めて見もうした。関ケ原より緩く下りながらやがて左手に佐和山城が望まれるようになると、もうすでにその地点で佐和山城下に入ろうとする人々の数でごった返しておったのです・・・北国街道から来る人馬の流れ、更には安土、佐和山方面から来る人馬の流れのため付近は大渋滞になっており、佐和山城主堀秀政殿の御家来衆達がそれこそ息をつく暇もなく通行の整理をしておりました。東・・北・・そして南、更には湖を利用して水運で西から運ばれる荷駄の数・・・それが全て佐和山の城下に集積されていく様子を見ながら、それがしは鳥肌が立つ思いがしたものです・・・今、この時代はこの佐和山の城下で動いているのだと・・・」

「ほお・・・」

 誰ともなく、嘆息する声が上がる・・・

「やっとの思いで佐和山城下に入ると目についたのが新しく建てられたばかりの蔵の集まりでございました・・・蔵、蔵、蔵・・・蔵だけが数百も並んで林立しているのですよ。皆様方、少し想像してくだされ、蔵だけの集合地にござるよ? ありえませぬ。いったいどれだけの食糧をはじめとする様々な物資をこの地に集積しようとしておるのか・・・」

 慶次郎はそこで話しを止めると(これで良いのでしょうか?)と言わんばかりの視線で一益を見る・・・一益はそれに応じるように黙って頷く・・・

 慶次郎はそれを見て、再び語り始める。

あふれかえるような、東西南北から集う人々の息づかいや彼らの生気に満ちた瞳を眺めながらそれがしは感じたのです・・・羽柴殿は、この地で天下を睨んでおると・・・この地で幾数万の兵を抱えても、半年や一年は優に駐留させられるのだという自らの強い意志をまるで体現しているようにそれがしの瞳には映りもうした・・・」

「それほどの賑わいか、佐和山は?」

「はい・・・」

 義太夫益重は、慶次郎の返事にそっと腕を組み、考え込む風情になる・・・

 慶次郎はそんな益重の様子から視線を外すと続ける。

「次に長浜ですが、こちらはいかにも予定戦場に最も近い出城といった雰囲気をかもし出しておりました。北国街道から南下する勢力に対しこの長浜城は最前線で戦う部隊のための兵站集積場であり、負傷した兵達の傷の治療場も数多く設立されており、また戦場に荷物を運ぶための荷車も多数並べられ、それを曳く馬の厩舎が新しくあちこちに建てられておりました。なかでも特別に目を惹いたのが、長浜城の目前にある湖畔に数多あまたの伐り出された材木が浮かんでいた事でござる。いったいどれだけの数を揃えたものかと・・・数えるのも馬鹿馬鹿しくなり止めましたが・・・。これら湖面を埋める材木の数に羽柴殿はひょっとしてあの長篠の合戦のように強大な馬防柵でも構築するのか・・・と、考えてみたりしましたが?」

 慶次郎は問うように一益を見る。

 一益は、ニヤリと笑うと、そのまま続けろとばかりに顎をしゃくる・・・

「その後、長浜を後にした我らは北国街道沿いを北上し木之本という地に入ると、そこで大掛かりな陣を構築している様子が視野に入ってきたのです。恐らくは羽柴殿はこの地を本陣にするのではないかと予想した次第にござる。そして・・・それがしはその陣の前方に構築されつつあるものを目の当たりにし、絶句したのです! そこには北国街道を挟む両側の山、田上山と大岩山を結ぶように長大な土塁が北国街道を遮断するように築かれつつあったのです。その高さは私の身の丈よりはるかに高く、掘られた地面の底から換算すると一丈(約3m)は優に超えておったかと・・・この土塁は決して馬では越えられぬ・・・それがしはこの土塁を見、羽柴殿の強い決意のほどを垣間見た気持ちになりもうした。羽柴殿は柴田殿の軍勢を一兵たりとも北近江の平地に入れるつもりはないと・・・」

 慶次郎はそこで、言葉を止め注視する一同をゆっくりと見回すと自らの考察の結論を談じる。

「羽柴殿は・・・野戦を考えておりませぬ!」



 

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