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決意
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「さて、ここからはわしの考察じゃ。丹羽家の家紋を掲げた戦船が筑前が支配下にある長浜領の飯浦に着船している事実を見て分かるように筑前は湖北を含めて琵琶湖の海上警備哨戒の任を丹羽殿に任せておることは自明であり、この観点から見ても筑前と丹羽殿は協力関係にあると断言してもよかろうと言える・・・わしは先程、義太夫に丹羽殿は積極的に筑前に加勢はせぬであろうと申したが、何かの出来事がきっかけとなり出兵となる懸念は絶対に無いとは言えぬのだ・・・。それ故にじゃ、湖北山岳地帯で柴田、羽柴両軍が激突する最中、【賤ヶ岳】更には余呉湖周辺に陣取るそれぞれの部隊が柴田方か、羽柴方かその時になってみなければ分からぬが、これだけは断言しうる。万が一、丹羽殿が出兵を決断しその旗下の水軍衆を大挙率いて飯浦の渡し沖に姿を現さば・・・羽柴方なら狂喜乱舞し、反対に柴田方ならば浮足立つであろうと・・・。柴田方の軍勢であれば大挙到来する丹羽殿の軍勢を見て、すわ、羽柴方へ加勢か? と考えるであろうそして、丹羽家直違紋を目の当たりにすれば【敦賀】が丹羽殿に抑えられる!!・・・退路を断たれると想像するであろうよ。その結果、琵琶湖側に面する余呉湖付近の柴田方の軍勢は撤退しようとし、それが契機となり戦線が崩れやがて修理殿の軍団は雪崩を打って瓦解するであろうと・・・これが、わしの見立てじゃ・・・」
一益の言葉を一同は皺ぶきの音ひとつも上げずに聞き入っている・・・
後日になるが一益のこの予想は幸か不幸か的中することになり、実際の史実においても丹羽長秀は勝家来たるの報を受けるや海津から西近江路経由で塩津街道に兵を進めさせ、国境を封鎖し勝家に街道を利用させないようにしてしまう。更にはいかなる理由か判明していないが、長秀は深夜自らが水軍衆を率い夜間渡航を決行し琵琶湖を横断し飯浦の渡しの南に位置する山梨子の地に旗下の軍勢を上陸させるや、その時分に余呉湖東岸に位置する岩崎山、大岩山の両山砦を陥落させ更に余呉湖南に位置する羽柴方の【賤ヶ岳】の山砦をも落とそうとする柴田方の佐久間盛政、柴田勝政の両部隊に対し、銃口を向け羽柴方への加勢の意思を示したのである。その後両軍の睨み合いの膠着状態から木之本に秀吉本隊の到着がもたらせられるや、佐久間、柴田の両隊は権現坂砦に向けて退却を始める。その時、権現坂砦の近くの茂山には前田利家が佐久間、柴田の両隊の後詰として陣を構えていたのであったが、退却してきた両隊から賤ケ岳方面の戦況を聞いた利家は長秀自身が当地に来着し秀吉方での参戦の意思表明を知り、また秀吉本隊の木之本到着の報を受けるや自らの全部隊に峰越えを告げ、その姿勢に困惑する佐久間、柴田両隊を尻目に強引に陣払いを敢行し塩津街道を抜け、敦賀方面へ脱出したのであった。利家戦線離脱は、一益の予想通り勝家傘下の与力の将達の離脱が始まり、文字通り勝家の北陸軍団の瓦解に繋がったのである。利家の胸中を推し量れば、長秀自身の参陣によって退路の遮断の恐れが生じたばかりか、大垣に滞陣しているとばかり思っていた秀吉本隊の着陣を見てこの戦に分はないと判断した結果が利家にこのような行動を採らせたのであろうと考えられる。
「叔父御の話しを聞けば聞くほど修理殿の分が悪く感じるのう・・・特にじゃ、丹羽殿が筑前殿について参戦したならば、そこで勝負がつくではないか・・・?」
義太夫益重が思ったままの感想を一益に吐露する・・・
「いかにもだな。だが、戦はやってみなくてはわからぬ。例えばだが湖北山岳地帯での戦の折に長浜城主である柴田勝豊殿の部隊が旧主である修理殿の軍勢を目にし寝返らぬとはかぎらぬぞ、もし合戦の最中に寝返りがあれば逆に秀吉方の軍勢が瓦解するやもしれぬぞ・・・また丹羽殿が本当に参戦するかどうかもだ、あくまでもわしの予想に過ぎぬ」
「まあ、そうじゃが・・・」
「・・・して、殿の存念は? いかがされるので・・・?」
義太夫益重の言葉を継いで忠澄は一益に問う
一益は暫しの間、うつむきながら考え込む風情であったがやがて決然とした表情で忠澄に答える。
「わしは、修理殿に付こうと思う」
おお!! と、一同からどよめきの声が上がる。
「なかなか、分の悪い賭けかとそれがしは考えますが・・・。殿、当家を家宰する家老としてあえて申し上げる。ここは、丹羽殿、池田殿をお頼りになって筑前殿に頭を下げ、かの御仁の傘下に与されたほうが当家の行く末にとってよろしいかと、愚考致しますが・・・?」
「すまぬのう、又左・・・」
一益は、苦し気に忠澄に答える・・・
「分の悪い賭けと重々承知しておるのだ・・・わし自身は所領の大小はもう気にはならぬが、今の当家の現状を顧み長年わしに付き従ってきたそなた達に少しでも報いてやりたいとわしは強く思う。ここは、一度勝負してみようと・・・。いや・・・言葉を費やし、いろいろ取り繕うよう言うたが本音を言えばわしは大人になりきれぬのであろうな フフフ・・・」
一益は自嘲気味に笑いを浮かべる・・・
「又左よ、わしはあ奴に 秀吉に頭を下げ臣従するような真似はしたくないのだ・・・これは、わしの我儘にすぎぬ。・・・もしそなたが納得しかねる、当家から暇を請うとなればわしが責任をもってそなたが他家に仕官できるよう努めるつもりじゃ。勝手な言い草ではあるが、これで勘弁してくれ・・・」
一益は上座から忠澄に頭を下げる・・・
「殿、それがしの事を思われるのであれば、直ぐにお顔をあげられよ!」
一益は、忠澄に言われるがまま、面を上げる
「フッフッフ・・・殿、最初からそう申せばよいのですよ。筑前殿に、いいえ、秀吉に頭を下げたくないと! それがしに、いや我らに忖度せず自分がこうしたいから俺の命に従えと・・・のう、皆の衆!!?」
「おうさ、又左殿の申す通り!! 叔父御はのう、今までどおりふてぶてしく我らに命ずればよい!」
忠澄の呼びかけに義太夫益重が応じるや周りの者達からも、そうじゃ! そうじゃ! と同意の声が上がり続ける・・・
慶次郎は、その様子を一座の後方から眺めながらそっとつぶやくのであった
(良き、家臣をお持ちになられましたな、叔父御・・・)
一益の言葉を一同は皺ぶきの音ひとつも上げずに聞き入っている・・・
後日になるが一益のこの予想は幸か不幸か的中することになり、実際の史実においても丹羽長秀は勝家来たるの報を受けるや海津から西近江路経由で塩津街道に兵を進めさせ、国境を封鎖し勝家に街道を利用させないようにしてしまう。更にはいかなる理由か判明していないが、長秀は深夜自らが水軍衆を率い夜間渡航を決行し琵琶湖を横断し飯浦の渡しの南に位置する山梨子の地に旗下の軍勢を上陸させるや、その時分に余呉湖東岸に位置する岩崎山、大岩山の両山砦を陥落させ更に余呉湖南に位置する羽柴方の【賤ヶ岳】の山砦をも落とそうとする柴田方の佐久間盛政、柴田勝政の両部隊に対し、銃口を向け羽柴方への加勢の意思を示したのである。その後両軍の睨み合いの膠着状態から木之本に秀吉本隊の到着がもたらせられるや、佐久間、柴田の両隊は権現坂砦に向けて退却を始める。その時、権現坂砦の近くの茂山には前田利家が佐久間、柴田の両隊の後詰として陣を構えていたのであったが、退却してきた両隊から賤ケ岳方面の戦況を聞いた利家は長秀自身が当地に来着し秀吉方での参戦の意思表明を知り、また秀吉本隊の木之本到着の報を受けるや自らの全部隊に峰越えを告げ、その姿勢に困惑する佐久間、柴田両隊を尻目に強引に陣払いを敢行し塩津街道を抜け、敦賀方面へ脱出したのであった。利家戦線離脱は、一益の予想通り勝家傘下の与力の将達の離脱が始まり、文字通り勝家の北陸軍団の瓦解に繋がったのである。利家の胸中を推し量れば、長秀自身の参陣によって退路の遮断の恐れが生じたばかりか、大垣に滞陣しているとばかり思っていた秀吉本隊の着陣を見てこの戦に分はないと判断した結果が利家にこのような行動を採らせたのであろうと考えられる。
「叔父御の話しを聞けば聞くほど修理殿の分が悪く感じるのう・・・特にじゃ、丹羽殿が筑前殿について参戦したならば、そこで勝負がつくではないか・・・?」
義太夫益重が思ったままの感想を一益に吐露する・・・
「いかにもだな。だが、戦はやってみなくてはわからぬ。例えばだが湖北山岳地帯での戦の折に長浜城主である柴田勝豊殿の部隊が旧主である修理殿の軍勢を目にし寝返らぬとはかぎらぬぞ、もし合戦の最中に寝返りがあれば逆に秀吉方の軍勢が瓦解するやもしれぬぞ・・・また丹羽殿が本当に参戦するかどうかもだ、あくまでもわしの予想に過ぎぬ」
「まあ、そうじゃが・・・」
「・・・して、殿の存念は? いかがされるので・・・?」
義太夫益重の言葉を継いで忠澄は一益に問う
一益は暫しの間、うつむきながら考え込む風情であったがやがて決然とした表情で忠澄に答える。
「わしは、修理殿に付こうと思う」
おお!! と、一同からどよめきの声が上がる。
「なかなか、分の悪い賭けかとそれがしは考えますが・・・。殿、当家を家宰する家老としてあえて申し上げる。ここは、丹羽殿、池田殿をお頼りになって筑前殿に頭を下げ、かの御仁の傘下に与されたほうが当家の行く末にとってよろしいかと、愚考致しますが・・・?」
「すまぬのう、又左・・・」
一益は、苦し気に忠澄に答える・・・
「分の悪い賭けと重々承知しておるのだ・・・わし自身は所領の大小はもう気にはならぬが、今の当家の現状を顧み長年わしに付き従ってきたそなた達に少しでも報いてやりたいとわしは強く思う。ここは、一度勝負してみようと・・・。いや・・・言葉を費やし、いろいろ取り繕うよう言うたが本音を言えばわしは大人になりきれぬのであろうな フフフ・・・」
一益は自嘲気味に笑いを浮かべる・・・
「又左よ、わしはあ奴に 秀吉に頭を下げ臣従するような真似はしたくないのだ・・・これは、わしの我儘にすぎぬ。・・・もしそなたが納得しかねる、当家から暇を請うとなればわしが責任をもってそなたが他家に仕官できるよう努めるつもりじゃ。勝手な言い草ではあるが、これで勘弁してくれ・・・」
一益は上座から忠澄に頭を下げる・・・
「殿、それがしの事を思われるのであれば、直ぐにお顔をあげられよ!」
一益は、忠澄に言われるがまま、面を上げる
「フッフッフ・・・殿、最初からそう申せばよいのですよ。筑前殿に、いいえ、秀吉に頭を下げたくないと! それがしに、いや我らに忖度せず自分がこうしたいから俺の命に従えと・・・のう、皆の衆!!?」
「おうさ、又左殿の申す通り!! 叔父御はのう、今までどおりふてぶてしく我らに命ずればよい!」
忠澄の呼びかけに義太夫益重が応じるや周りの者達からも、そうじゃ! そうじゃ! と同意の声が上がり続ける・・・
慶次郎は、その様子を一座の後方から眺めながらそっとつぶやくのであった
(良き、家臣をお持ちになられましたな、叔父御・・・)
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