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一章
2 一日目 銀髪少女との時間 土曜日
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銀髪少女が大量の紙袋を持って店から出てきた。
「そんなに買ってきて持ってやらないからな!」
「自分で持つから大丈夫!」
意気込みは良いが既に両手からあふれそうになっている。
「で? 帰るか?」
「むー。何で帰りたがるの?」
「重そうだし.......」
「ソラ、やっぱり良い人!」
「気のせいだ」
単純に持つのが嫌なだけだ。絶対に俺が持つ事になる気がする。しかもあれ、女性物の下着だぞ。絶対やだろ。
「ソラ、何食べたい?」
「ほー。作ってくれるのか。だがそれは無理だぞ、内は火も水も電気もつかないからな」
「むー。なら全部買う!」
生活費を払ってくれるのは約束だから良いとして。
「お前ちょっとは貯金しろよ。流石にもったいないぞ」
「でも、料理したいもんっ」
「ほーう。ならば金を貸せ」
「はい」
ぽいっとカードを渡されて困惑する。
「え? 何なの? お前。そんなに簡単にわたしちゃっていいの?」
「ソラだから良い!」
謎の信頼を持っている銀髪少女にため息をつく。俺今日、意識的に好感度を下げまくったんだけどな~。流石にこれをどうにかする勇気は無い。死ぬより恐ろしい自体になりそう。そもそも、これ億単位でお金が使えるんだよな、そんな怖いもの持ちたくねー。
ということで慌てて銀髪に返す。
「良いか! 絶対に俺に渡すな! つうか誰にも渡すな! 良いな」
「分かった。じゃあこっち」
ぽんと何処からか出したのは札束。それを俺に渡してきた。
「うぉおおおお! 変なカードよりこっちの方がテンション上がるわ!!」
「本当! ならあげる!」
欲しい! 喉から手が出るほど欲しいが。今度も銀髪少女に返す。
「いい加減にしろ!! お前の金銭感覚どうなってるんだよ! 誰にでも金を渡すのか!!」
「むー。ソラだからだよ」
コイツの俺に対する信頼は何なんだよ! それにしてもこうも毎回、大金をちらつかせられたら、そのうち使ってしまうかも知れない。
「良いか!! お金は人に渡すな! 親父さんと約束したんだろ、好きな人の為だけに使うって。だったら渡しちゃいけ無い」
「ソラが貸してって言ったのに~」
「常識を考えろ! 馬鹿。貸してって言われたからって貸すな!」
「むー。ソラの意地悪」
よしこれで良いだろう。なんか周りの視線が気になるな。
「ちょっとお前近くにこい」
「ん」
近くにこいって言ったらめっちゃ近くに来た。鼻息が当たるぐらい近くに来た。
クリリとした大きな銀眼。そして白いまつげ。心臓がドクンとなる。
「って近いから! お前のパーソナルスペース近すぎるだろ」
はてなマークを浮かべている銀髪少女には少しマニアック過ぎたかと、ため息、その息が全て銀髪少女の顔にかかって
「ソラ、くすぐったいよ」
「悪い......ってつい謝っちまった」
駄目だ。落ち着け。さっきから高鳴っている心臓落ち着け!
「お前いまいくら持ってる?」
「いっぱい」
まあ、諭吉をまとめて渡して来る奴だ正確に知らなくても仕方ないだろう。
「良いか! いくら日本でもそんな大金をこんな繁華街で見せびらかしてたら危ない。だから絶対に外で出すな」
「殺されるの?」
「運が悪ければな」
銀髪少女の大きな瞳がうるうると湿っていく。
「ううっう。やだ。死にたくなよ」
「だったらそんなもん持ち歩くな馬鹿!」
「お父さんが肌身離さずもっときなさいって言ったもん」
「銀行に預けろよ!」
「銀行?」
あれ? 金利とか言って無かったか? 何で銀行を知らないんだ? カードと銀行は別なのか? よくわからん上に知りたくない。
「まあ、そこら辺の相談は親父にしろよ」
「分かった。.......ソラ」
「なんだよ」
「死にたくないよ!」
どうやら相当びびっているようだ。これは良い。俺はコイツに適度に嫌われてさっさとおさらばしたいのだ。というか部屋から出て行ってほしい。
「俺は何もしてやれない諦めろ」
「ソラ~」
「じゃあ、帰るか」
「.......料理作りたい」
「死ぬより料理作りたいのかよ。まあ良いや。ほらついて来い、ガスやら水道やらを払いに行くぞ」
「ソラ~待って」
光熱費をさっさと払ってガス、電気、水の復活を果たした。家に戻る。
「持ってくれた!」
俺が荷物を持ったらそんなことを言い出した。銀髪少女の手から血が出てたのでもっただけなのだが。
「痛かったなら言えよ馬鹿。怪我したなら持ってやるだろ」
「自分で持てると思ったんだもんっ」
「買い過ぎなんだ」
そんなことを言って歩いてたら銀髪少女が立ち止まった。銀髪少女の視線の方に目を向けると子供が両親に手を繋いでもらってるところだった。
「あれは、その内、子供が反抗期になって家族崩壊する典型だ。羨ましがる必要は無いぞ」
「ソラはひねくれ者」
「うるせー、ほら帰るぞ。お前の家に」
「ソラ! 大好き!」
「なぜに!?」
銀髪少女との初めてのお出かけだった。
家に戻ると、銀髪少女が台所を使い始めたので五月蝿くてしょがない。
コトコト、グツグツ、コトコト。
イライラゲージが溜まる。仮にも一ヶ月の間一人で暮らしてきたので他の音が予想以上に耳障りだ。しかも、食欲を刺激する良いにおいが部屋を満たすから余計にイライラする。今月入ってから水しか食べてなかったのに.......
「出来た!」
うんしょうんしょと、卓に運ぶのをついつい視線で追ってしまう。
「.......」
何故か黙って座っている銀髪少女が気になる。しかも俺をめっちゃ見てる。
「食べ無いのかよ! 冷めるぞ」
ついに沈黙に我慢できなくなって声をかける。すると銀髪少女は
「ソラが食べるまで待ってる」
イライライライラ。
「俺は良いから早く食べてさっさと寝ろ」
「ソラが食べるまで食べ無い」
嘘だろ! イライラを通り越してしまった。笑いが出て来る。
「馬鹿。俺は二千円しかないの、お前と違うの、毎日食べてたらすぐに無くなっちゃうの。分かったか?」
「何で.......ソラの為に作ったのに」
「は?」
最初銀髪少女の言っている事の意味が分からなかった。
が、言葉通りだと言うことにすぐに気がついた。最初から銀髪は俺の料理を作っていたのだ。さっき俺に何食べるのか聞いていたっけ? 色々ありすぎて忘れていた。
だが。
「何でお前俺の分まで作ってるの?」
コイツとの約束はコイツが生活費を払うことだ。それは料理を作ることは当てはまらないだろう。そもそも、食費って生活費に入るのか? 何が何処まで入るのか全く分からない。
「ソラに食べてほしいから」
「お前。どこまでが生活費か分かってる?」
「ん? 全部じゃないの?」
「絶対違うから! 多分食費は別だから」
そういうものだと思い込んでたし。ファミレスの時にもそんなふうに言われたし。
「じゃあ食べないの?」
銀髪少女がしゅんとした。だから俺は言った。
「食べん」
その時。グーッと俺のお腹がなった。
「と思ったけど。良く考えたら俺もお前にキャベツをあげたし。別に良いな、うん」
空腹には勝てなかったので契約とかはまあ良いよね。実は細かい契約書を貰ってるから見たらわかるけど見ないで良いことにしよう。そもそも銀髪少女が言っているんだ問題ない。
「よし。だったら早く食べよう。冷めちゃうからな。実は美味そうだと思ってたんだよ」
「うんっ。ソラと食べる!」
卓に着きあぐらをかいて座り。クリームシチューを一口食べる。
「どう?」
「.......まずい」
クリームシチューの筈なのに何故かオニオンスープの味がする。激まずである。
「初めて作ったのに.......」
「味見したか?」
「まだ」
「しろよ! まあ良いけど。食べてみろよ」
「うん」
銀髪が恐る恐るスプーンですくう。スプーンの持ち方が違うがまあ良いだろう。
それをパクリと食べた。
「.......まずい」
「だろうな。激まずだ」
ぱくぱく食べながら感想を口にする。
「.......ないで」
「ん?」
「もう食べないで!」
顔を真っ赤にして涙を浮かべる銀髪は叫んだ。
「甘い! 俺に一度出したものを下げられると思うなよ! もう全部食べた」
「まずかったのに.......」
「まずかったけど、悪くは無かったって事だな」
「え?」
「俺のために作ったんだろ? なら俺が全部食べるのは当たり前だ。ありがとう気持ちは美味かった」
残したら失礼という物だ。食材にそもそも腐ったキャベツしか食ってなかったからそれよりはマシだった。というか全然腐ったキャベツよりは美味かった。
銀髪は溢れ出る涙を拭いて赤くなった目を大きく開いて、飛びつかれた。
「ソラ、やっぱり大好き!」
「気のせいだ。離れろ」
親に先立たれて一人、親戚を回された少女の心境など俺には分からない。
「お前何で日本に来たんだ? いやそもそもそんなに金があったら一人で生きていけるだろう。こんなぼろアパートに住む必要は無いと思うんだけど」
「ソラに会いたかったから」
やっぱり会ったことが有るのだろうか? 全く覚えが無い。
「まあ良いや。明日はバイトあるからもう寝る」
「ならリスティーも寝る!」
「その前に食器洗えよ。.......俺がやるか」
「ソラはやらなくて良いよ。後でやるから!」
「寝るんだろ?」
「ソラが寝たらやるもんっ」
寝無いのかよ。
「じゃあ風呂入って来るから、片しといて」
「うん!」
久しぶりお湯だ、体に染みる。銀ロリを居候させるのも悪くないな。
「いや、立場的に俺が居候なんだが」
小さい浴槽の中で今日の怒涛の展開を思い出す。いきなり押し付けられた銀髪碧眼の少女。何故か好感度がマックスなので下げるように努力している。が効果が見られないし。
ガサガサと浴室のドアを開けようとする音がした。甘い! 俺はラッキースケベな展開は求めない。普通に鍵をかけてやったり。
「ソラ。開けて!」
「今。出るから待って」
そしてここで食い下がらないさっさと体拭いてお風呂を出る完璧だ。ニヤリ。
「ソラ。トイレ漏れちゃう!」
「な!」
まさかの催しだったらしい。なんか突撃される気がして警戒してたが全然違って普通にトイレを使いたいとは.......
ぼろアパートなのでもちろんトイレとお風呂は共同だ。嫌かもしれないがこれがなれると気にならないものだ。だってお風呂入るとおしっこしたくなるもん。シャーって音の威力は相当だと思う。
「ソラ! 漏れちゃう!」
「待てって!」
現実逃避をしてても始まらない。さっさと服を着なければ。濡れたまま服を着る。
そして鍵を開ける。
銀髪ロリがすぐに入ってきてトイレに座る。
「ソラ。見ないで!」
ついつい銀色の髪を視線で追ってしまう。さっさと風呂場を後にして扉を閉める。タオルで頭を拭きながら一息ついてると。
シャーシャー。
「ハァーっー、もうっソラのエッチ」
普通に音がだだ漏れだった。
今まで一人暮らしだったから気付かなかったけど、どうやら防音性能は相当に低いらしい。つまり。銀髪少女は俺のシャワーの音で催した訳か。
ぽちゃり。
「んっ! んっ! んー」
今度は大の方か.......静かな部屋だから余計に響く。
「これ。罪悪感が凄いな」
銀髪少女に人並みの羞恥心があるならば現状を知ったら死にたくなるだろうと思う。
とりあえず。聞いているのもいろんな所に悪いのでコンビニにでも行こうと思って扉を開けたら。
「ソラ!? どこ行くの? 待って!」
その音すらも聞こえているのか、すぐに呼び止められた。
「ちょっとコンビニ行ってくる。アイスでも買ってきてやるよ」
「待って! 行くから! ワタシも行く!」
待つつもりなんて無かったけど。銀髪少女が早かった。
コロコロコロコロ、さらさらさらさらさらさら、ジャー
とここまで三秒でやって出てきたのだ。
「ソラ。待って! 今行くから」
そして白いワンピースに今日買ったピンクのジャケットを羽織ってすぐに支度を終わらせた。
「コンビニ、行こう!」
「.......お前ちゃんと拭いたか?」
「ぶー。綺麗だもんっ」
「ちゃんと拭かないと後で痛くなるからな後悔するぞ! 待っててやるから拭いて来い」
「綺麗だもん!」
三秒で出てきた奴の言葉を真に受ける訳ではないが、まあ後悔するのは銀髪ロリだ。俺には関係ない。
「ん? 行かないの?」
「.......良く考えたら金が無い」
あるにはあるが二千円を使う訳には行かない。罪悪感から出かけようとしただけだしもうトイレを使わないなら出かける必要も無い。夜も遅い。
「むー。ワタシが持ってるもんっ」
「五月蝿いな。お前の金は好きな人の為に使うんだろ? 無駄遣いするな!」
「ソラの為なら無駄じゃないもんっ」
「無駄だ」
それでもぶーぶー五月蝿いので。
「行きたければ一人で行ってこいよ」
「ソラが行かないなら行かない」
すぐに引き下がった。
「お前まさか恐いのか?」
「怖くないもんっ」
「じゃあ一人で行ってこいよ」
「ソラ、大っ嫌い!」
ちょっとからかったらこれだ。別に銀髪ロリに嫌われようが構わないがキーキー五月蝿いのだ。女の声は高いからイライラする。
「まあ良いや。寝るか」
「寝る~」
明日は朝9時から夜9時までだ。早く寝ないといけない。
が、再び問題が発生した。
「布団なんて一つしかねーぞ。お前風呂で寝ろ」
「ぶー。布団が良い」
「ふふふ、一ヶ月洗ってないぞ!」
「ソラのだから気にしない」
奥の手をあっさりかわされた。
だがまだ作戦はある。
「俺が風呂で寝ても良いけど鍵閉めるぞ」
ピクリと銀髪ロリが反応した。
「たとえ閉めなくても俺がいる中、出来ないだろ、外は夜使えない、コンビニまで行かないと無いぞ」
よし。このまま。とか思ってたらカウンターを喰う事になった。
「一緒に寝るんじゃ無いの? ソラはリスティーと寝たくないの?」
「待て、それは無い」
どうだろうか? 従妹とはいえ男女で同じ布団で寝るのは間違っているだろう。
「なんで?」
「よし分かった。お前は明日布団を買ってこい。今日は俺の布団を貸してやる」
「ソラは?」
「床で寝る。同じ部屋なのはもう諦めよう」
「別に一緒に寝ても良いのに.......」
ぐちぐち五月蝿いので奥の手を使う事にする。
「お前。さっき、四回転分トイレットペーパーを使ったろ」
「え?」
「しょん便するときハァーって言ってたろ」
「!?」
「まだあるぞ。大便するときは.......ぐぅ! お前」
殴られた。
「ソラのエッチ」
「知るか馬鹿。これからは俺がいる時にはトイレを使わないことだな。出て行っても良い。つうか出ていけ!」
「馬鹿! ソラの馬鹿! もう知らないもんっ」
そうしてようやく静かになった部屋で眠りに着くことが出来た。
「そんなに買ってきて持ってやらないからな!」
「自分で持つから大丈夫!」
意気込みは良いが既に両手からあふれそうになっている。
「で? 帰るか?」
「むー。何で帰りたがるの?」
「重そうだし.......」
「ソラ、やっぱり良い人!」
「気のせいだ」
単純に持つのが嫌なだけだ。絶対に俺が持つ事になる気がする。しかもあれ、女性物の下着だぞ。絶対やだろ。
「ソラ、何食べたい?」
「ほー。作ってくれるのか。だがそれは無理だぞ、内は火も水も電気もつかないからな」
「むー。なら全部買う!」
生活費を払ってくれるのは約束だから良いとして。
「お前ちょっとは貯金しろよ。流石にもったいないぞ」
「でも、料理したいもんっ」
「ほーう。ならば金を貸せ」
「はい」
ぽいっとカードを渡されて困惑する。
「え? 何なの? お前。そんなに簡単にわたしちゃっていいの?」
「ソラだから良い!」
謎の信頼を持っている銀髪少女にため息をつく。俺今日、意識的に好感度を下げまくったんだけどな~。流石にこれをどうにかする勇気は無い。死ぬより恐ろしい自体になりそう。そもそも、これ億単位でお金が使えるんだよな、そんな怖いもの持ちたくねー。
ということで慌てて銀髪に返す。
「良いか! 絶対に俺に渡すな! つうか誰にも渡すな! 良いな」
「分かった。じゃあこっち」
ぽんと何処からか出したのは札束。それを俺に渡してきた。
「うぉおおおお! 変なカードよりこっちの方がテンション上がるわ!!」
「本当! ならあげる!」
欲しい! 喉から手が出るほど欲しいが。今度も銀髪少女に返す。
「いい加減にしろ!! お前の金銭感覚どうなってるんだよ! 誰にでも金を渡すのか!!」
「むー。ソラだからだよ」
コイツの俺に対する信頼は何なんだよ! それにしてもこうも毎回、大金をちらつかせられたら、そのうち使ってしまうかも知れない。
「良いか!! お金は人に渡すな! 親父さんと約束したんだろ、好きな人の為だけに使うって。だったら渡しちゃいけ無い」
「ソラが貸してって言ったのに~」
「常識を考えろ! 馬鹿。貸してって言われたからって貸すな!」
「むー。ソラの意地悪」
よしこれで良いだろう。なんか周りの視線が気になるな。
「ちょっとお前近くにこい」
「ん」
近くにこいって言ったらめっちゃ近くに来た。鼻息が当たるぐらい近くに来た。
クリリとした大きな銀眼。そして白いまつげ。心臓がドクンとなる。
「って近いから! お前のパーソナルスペース近すぎるだろ」
はてなマークを浮かべている銀髪少女には少しマニアック過ぎたかと、ため息、その息が全て銀髪少女の顔にかかって
「ソラ、くすぐったいよ」
「悪い......ってつい謝っちまった」
駄目だ。落ち着け。さっきから高鳴っている心臓落ち着け!
「お前いまいくら持ってる?」
「いっぱい」
まあ、諭吉をまとめて渡して来る奴だ正確に知らなくても仕方ないだろう。
「良いか! いくら日本でもそんな大金をこんな繁華街で見せびらかしてたら危ない。だから絶対に外で出すな」
「殺されるの?」
「運が悪ければな」
銀髪少女の大きな瞳がうるうると湿っていく。
「ううっう。やだ。死にたくなよ」
「だったらそんなもん持ち歩くな馬鹿!」
「お父さんが肌身離さずもっときなさいって言ったもん」
「銀行に預けろよ!」
「銀行?」
あれ? 金利とか言って無かったか? 何で銀行を知らないんだ? カードと銀行は別なのか? よくわからん上に知りたくない。
「まあ、そこら辺の相談は親父にしろよ」
「分かった。.......ソラ」
「なんだよ」
「死にたくないよ!」
どうやら相当びびっているようだ。これは良い。俺はコイツに適度に嫌われてさっさとおさらばしたいのだ。というか部屋から出て行ってほしい。
「俺は何もしてやれない諦めろ」
「ソラ~」
「じゃあ、帰るか」
「.......料理作りたい」
「死ぬより料理作りたいのかよ。まあ良いや。ほらついて来い、ガスやら水道やらを払いに行くぞ」
「ソラ~待って」
光熱費をさっさと払ってガス、電気、水の復活を果たした。家に戻る。
「持ってくれた!」
俺が荷物を持ったらそんなことを言い出した。銀髪少女の手から血が出てたのでもっただけなのだが。
「痛かったなら言えよ馬鹿。怪我したなら持ってやるだろ」
「自分で持てると思ったんだもんっ」
「買い過ぎなんだ」
そんなことを言って歩いてたら銀髪少女が立ち止まった。銀髪少女の視線の方に目を向けると子供が両親に手を繋いでもらってるところだった。
「あれは、その内、子供が反抗期になって家族崩壊する典型だ。羨ましがる必要は無いぞ」
「ソラはひねくれ者」
「うるせー、ほら帰るぞ。お前の家に」
「ソラ! 大好き!」
「なぜに!?」
銀髪少女との初めてのお出かけだった。
家に戻ると、銀髪少女が台所を使い始めたので五月蝿くてしょがない。
コトコト、グツグツ、コトコト。
イライラゲージが溜まる。仮にも一ヶ月の間一人で暮らしてきたので他の音が予想以上に耳障りだ。しかも、食欲を刺激する良いにおいが部屋を満たすから余計にイライラする。今月入ってから水しか食べてなかったのに.......
「出来た!」
うんしょうんしょと、卓に運ぶのをついつい視線で追ってしまう。
「.......」
何故か黙って座っている銀髪少女が気になる。しかも俺をめっちゃ見てる。
「食べ無いのかよ! 冷めるぞ」
ついに沈黙に我慢できなくなって声をかける。すると銀髪少女は
「ソラが食べるまで待ってる」
イライライライラ。
「俺は良いから早く食べてさっさと寝ろ」
「ソラが食べるまで食べ無い」
嘘だろ! イライラを通り越してしまった。笑いが出て来る。
「馬鹿。俺は二千円しかないの、お前と違うの、毎日食べてたらすぐに無くなっちゃうの。分かったか?」
「何で.......ソラの為に作ったのに」
「は?」
最初銀髪少女の言っている事の意味が分からなかった。
が、言葉通りだと言うことにすぐに気がついた。最初から銀髪は俺の料理を作っていたのだ。さっき俺に何食べるのか聞いていたっけ? 色々ありすぎて忘れていた。
だが。
「何でお前俺の分まで作ってるの?」
コイツとの約束はコイツが生活費を払うことだ。それは料理を作ることは当てはまらないだろう。そもそも、食費って生活費に入るのか? 何が何処まで入るのか全く分からない。
「ソラに食べてほしいから」
「お前。どこまでが生活費か分かってる?」
「ん? 全部じゃないの?」
「絶対違うから! 多分食費は別だから」
そういうものだと思い込んでたし。ファミレスの時にもそんなふうに言われたし。
「じゃあ食べないの?」
銀髪少女がしゅんとした。だから俺は言った。
「食べん」
その時。グーッと俺のお腹がなった。
「と思ったけど。良く考えたら俺もお前にキャベツをあげたし。別に良いな、うん」
空腹には勝てなかったので契約とかはまあ良いよね。実は細かい契約書を貰ってるから見たらわかるけど見ないで良いことにしよう。そもそも銀髪少女が言っているんだ問題ない。
「よし。だったら早く食べよう。冷めちゃうからな。実は美味そうだと思ってたんだよ」
「うんっ。ソラと食べる!」
卓に着きあぐらをかいて座り。クリームシチューを一口食べる。
「どう?」
「.......まずい」
クリームシチューの筈なのに何故かオニオンスープの味がする。激まずである。
「初めて作ったのに.......」
「味見したか?」
「まだ」
「しろよ! まあ良いけど。食べてみろよ」
「うん」
銀髪が恐る恐るスプーンですくう。スプーンの持ち方が違うがまあ良いだろう。
それをパクリと食べた。
「.......まずい」
「だろうな。激まずだ」
ぱくぱく食べながら感想を口にする。
「.......ないで」
「ん?」
「もう食べないで!」
顔を真っ赤にして涙を浮かべる銀髪は叫んだ。
「甘い! 俺に一度出したものを下げられると思うなよ! もう全部食べた」
「まずかったのに.......」
「まずかったけど、悪くは無かったって事だな」
「え?」
「俺のために作ったんだろ? なら俺が全部食べるのは当たり前だ。ありがとう気持ちは美味かった」
残したら失礼という物だ。食材にそもそも腐ったキャベツしか食ってなかったからそれよりはマシだった。というか全然腐ったキャベツよりは美味かった。
銀髪は溢れ出る涙を拭いて赤くなった目を大きく開いて、飛びつかれた。
「ソラ、やっぱり大好き!」
「気のせいだ。離れろ」
親に先立たれて一人、親戚を回された少女の心境など俺には分からない。
「お前何で日本に来たんだ? いやそもそもそんなに金があったら一人で生きていけるだろう。こんなぼろアパートに住む必要は無いと思うんだけど」
「ソラに会いたかったから」
やっぱり会ったことが有るのだろうか? 全く覚えが無い。
「まあ良いや。明日はバイトあるからもう寝る」
「ならリスティーも寝る!」
「その前に食器洗えよ。.......俺がやるか」
「ソラはやらなくて良いよ。後でやるから!」
「寝るんだろ?」
「ソラが寝たらやるもんっ」
寝無いのかよ。
「じゃあ風呂入って来るから、片しといて」
「うん!」
久しぶりお湯だ、体に染みる。銀ロリを居候させるのも悪くないな。
「いや、立場的に俺が居候なんだが」
小さい浴槽の中で今日の怒涛の展開を思い出す。いきなり押し付けられた銀髪碧眼の少女。何故か好感度がマックスなので下げるように努力している。が効果が見られないし。
ガサガサと浴室のドアを開けようとする音がした。甘い! 俺はラッキースケベな展開は求めない。普通に鍵をかけてやったり。
「ソラ。開けて!」
「今。出るから待って」
そしてここで食い下がらないさっさと体拭いてお風呂を出る完璧だ。ニヤリ。
「ソラ。トイレ漏れちゃう!」
「な!」
まさかの催しだったらしい。なんか突撃される気がして警戒してたが全然違って普通にトイレを使いたいとは.......
ぼろアパートなのでもちろんトイレとお風呂は共同だ。嫌かもしれないがこれがなれると気にならないものだ。だってお風呂入るとおしっこしたくなるもん。シャーって音の威力は相当だと思う。
「ソラ! 漏れちゃう!」
「待てって!」
現実逃避をしてても始まらない。さっさと服を着なければ。濡れたまま服を着る。
そして鍵を開ける。
銀髪ロリがすぐに入ってきてトイレに座る。
「ソラ。見ないで!」
ついつい銀色の髪を視線で追ってしまう。さっさと風呂場を後にして扉を閉める。タオルで頭を拭きながら一息ついてると。
シャーシャー。
「ハァーっー、もうっソラのエッチ」
普通に音がだだ漏れだった。
今まで一人暮らしだったから気付かなかったけど、どうやら防音性能は相当に低いらしい。つまり。銀髪少女は俺のシャワーの音で催した訳か。
ぽちゃり。
「んっ! んっ! んー」
今度は大の方か.......静かな部屋だから余計に響く。
「これ。罪悪感が凄いな」
銀髪少女に人並みの羞恥心があるならば現状を知ったら死にたくなるだろうと思う。
とりあえず。聞いているのもいろんな所に悪いのでコンビニにでも行こうと思って扉を開けたら。
「ソラ!? どこ行くの? 待って!」
その音すらも聞こえているのか、すぐに呼び止められた。
「ちょっとコンビニ行ってくる。アイスでも買ってきてやるよ」
「待って! 行くから! ワタシも行く!」
待つつもりなんて無かったけど。銀髪少女が早かった。
コロコロコロコロ、さらさらさらさらさらさら、ジャー
とここまで三秒でやって出てきたのだ。
「ソラ。待って! 今行くから」
そして白いワンピースに今日買ったピンクのジャケットを羽織ってすぐに支度を終わらせた。
「コンビニ、行こう!」
「.......お前ちゃんと拭いたか?」
「ぶー。綺麗だもんっ」
「ちゃんと拭かないと後で痛くなるからな後悔するぞ! 待っててやるから拭いて来い」
「綺麗だもん!」
三秒で出てきた奴の言葉を真に受ける訳ではないが、まあ後悔するのは銀髪ロリだ。俺には関係ない。
「ん? 行かないの?」
「.......良く考えたら金が無い」
あるにはあるが二千円を使う訳には行かない。罪悪感から出かけようとしただけだしもうトイレを使わないなら出かける必要も無い。夜も遅い。
「むー。ワタシが持ってるもんっ」
「五月蝿いな。お前の金は好きな人の為に使うんだろ? 無駄遣いするな!」
「ソラの為なら無駄じゃないもんっ」
「無駄だ」
それでもぶーぶー五月蝿いので。
「行きたければ一人で行ってこいよ」
「ソラが行かないなら行かない」
すぐに引き下がった。
「お前まさか恐いのか?」
「怖くないもんっ」
「じゃあ一人で行ってこいよ」
「ソラ、大っ嫌い!」
ちょっとからかったらこれだ。別に銀髪ロリに嫌われようが構わないがキーキー五月蝿いのだ。女の声は高いからイライラする。
「まあ良いや。寝るか」
「寝る~」
明日は朝9時から夜9時までだ。早く寝ないといけない。
が、再び問題が発生した。
「布団なんて一つしかねーぞ。お前風呂で寝ろ」
「ぶー。布団が良い」
「ふふふ、一ヶ月洗ってないぞ!」
「ソラのだから気にしない」
奥の手をあっさりかわされた。
だがまだ作戦はある。
「俺が風呂で寝ても良いけど鍵閉めるぞ」
ピクリと銀髪ロリが反応した。
「たとえ閉めなくても俺がいる中、出来ないだろ、外は夜使えない、コンビニまで行かないと無いぞ」
よし。このまま。とか思ってたらカウンターを喰う事になった。
「一緒に寝るんじゃ無いの? ソラはリスティーと寝たくないの?」
「待て、それは無い」
どうだろうか? 従妹とはいえ男女で同じ布団で寝るのは間違っているだろう。
「なんで?」
「よし分かった。お前は明日布団を買ってこい。今日は俺の布団を貸してやる」
「ソラは?」
「床で寝る。同じ部屋なのはもう諦めよう」
「別に一緒に寝ても良いのに.......」
ぐちぐち五月蝿いので奥の手を使う事にする。
「お前。さっき、四回転分トイレットペーパーを使ったろ」
「え?」
「しょん便するときハァーって言ってたろ」
「!?」
「まだあるぞ。大便するときは.......ぐぅ! お前」
殴られた。
「ソラのエッチ」
「知るか馬鹿。これからは俺がいる時にはトイレを使わないことだな。出て行っても良い。つうか出ていけ!」
「馬鹿! ソラの馬鹿! もう知らないもんっ」
そうしてようやく静かになった部屋で眠りに着くことが出来た。
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