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本編
そういう時は、出番です
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「……どうぞ」
ドアを閉め、玄関のドアのそばで待っていた男。
「ありがとう……どう、だった?」
「……出番です」
それだけ言って、海月は玄関を出て行った。景色を白く、体を冷たく染め続ける雪。かじかみ始めた両手に、海月は何故か痛みを感じた。
「あ……」
「……おかえり。行かない方がいいかな、と思って」
──ずっと、待っていてくれた。それだけで、海月はどうしようもなく嬉しくなり、泣きたくなる。
「……あーぁ、また冷たくなってる。寒くない?」
「寒くは、ないかな……」
顔の筋肉までかじかんでしまったように、うまく笑えていない海月。覗き込んだ翔悟は、彼女の表情から全てを悟った。
「泣いてくれなかったんだね」
「……うん、でも、泣いてくれるわけなかったかな」
「どうして?」
「凪沙も、私のお母さんのこと知ってるから。私が、悲しむと思ったのかな。一人にしてほしいって、それだけ……っ」
ズキ、と胸が痛む。病を患っているわけでも怪我をしたわけでもない。それなのに、海月は胸が痛かった。
「……よく頑張ったじゃん」
「全然、成果なかったよ」
「それでもいいんだよ。話せただけでも。……帰ろう? また体冷えるよ」
「…………」
翔悟に答えることのないまま、海月は俯いて歩こうとしない。視線の先の自分の革靴に、はらりと雪が降りて溶けても、どんなに雪が髪に積ろうとも、石像になってしまったかのように。
「……海月」
「…………」
「海月までネガティブになって、どうすんの」
「……理人先輩がいるなら、凪沙は大丈夫」
「それは、凪沙ちゃんが決めることだよ。ほら、帰らない──」
その言葉を、海月が遮った。
「……嘘ついた」
「嘘?」
「自分だって泣いてない癖に、泣いていいなんて。言う資格な──」
ぐん、と距離が縮まりゼロになった。押しつぶすと言ってもいい程に強く抱きしめた翔悟。
海月の髪についた雪を払いながら、言った。
「じゃあなんで、あの時泣いたの?」
「…………」
「俺がいた時、泣いてた。なんで?」
「わか、な……」
「一人が、嫌だったんだろう? 一人になるのが嫌で、寂しくて、それが嫌だった。……ちゃんと分かってる」
「っ、ごめんっ……」
「俺の前では泣いてほしい。一人で泣かれるのは、俺は嫌だ。一人が嫌なら、寂しいならそばにいる」
「う、うあぁっ……!」
泣き声とその源をかき消すように、雪が強まった。
一方、男──理人は。
「……凪沙?」
「っ理人先輩っ……? どうして、連絡してないのにっ……」
「海月ちゃんから聞いた。……入ってもいい?」
「……どうぞ」
ためらうように凪沙の部屋のドアを開け、慌てるように閉めた。
「……なんて、言ったらいいのかは分かんないけどさ」
「…………」
「……耐える必要は、ないから。好きなだけ泣いていいし、八つ当たりしてもいい。それぐらいは、受け止められる自信があるから」
「…………」
「俺は両親が二人とも生きてるから、気持ちは分からない。分かるとは言えない。でも辛さは半分受け持てるよ」
「っ、なんでそんなに、優しいんですかっ……」
「そりゃ彼氏だし。好きな子には優しくするでしょ。……ほら」
決壊した二つの水たまりの壁。
戻ることは、もうないだろう。
ドアを閉め、玄関のドアのそばで待っていた男。
「ありがとう……どう、だった?」
「……出番です」
それだけ言って、海月は玄関を出て行った。景色を白く、体を冷たく染め続ける雪。かじかみ始めた両手に、海月は何故か痛みを感じた。
「あ……」
「……おかえり。行かない方がいいかな、と思って」
──ずっと、待っていてくれた。それだけで、海月はどうしようもなく嬉しくなり、泣きたくなる。
「……あーぁ、また冷たくなってる。寒くない?」
「寒くは、ないかな……」
顔の筋肉までかじかんでしまったように、うまく笑えていない海月。覗き込んだ翔悟は、彼女の表情から全てを悟った。
「泣いてくれなかったんだね」
「……うん、でも、泣いてくれるわけなかったかな」
「どうして?」
「凪沙も、私のお母さんのこと知ってるから。私が、悲しむと思ったのかな。一人にしてほしいって、それだけ……っ」
ズキ、と胸が痛む。病を患っているわけでも怪我をしたわけでもない。それなのに、海月は胸が痛かった。
「……よく頑張ったじゃん」
「全然、成果なかったよ」
「それでもいいんだよ。話せただけでも。……帰ろう? また体冷えるよ」
「…………」
翔悟に答えることのないまま、海月は俯いて歩こうとしない。視線の先の自分の革靴に、はらりと雪が降りて溶けても、どんなに雪が髪に積ろうとも、石像になってしまったかのように。
「……海月」
「…………」
「海月までネガティブになって、どうすんの」
「……理人先輩がいるなら、凪沙は大丈夫」
「それは、凪沙ちゃんが決めることだよ。ほら、帰らない──」
その言葉を、海月が遮った。
「……嘘ついた」
「嘘?」
「自分だって泣いてない癖に、泣いていいなんて。言う資格な──」
ぐん、と距離が縮まりゼロになった。押しつぶすと言ってもいい程に強く抱きしめた翔悟。
海月の髪についた雪を払いながら、言った。
「じゃあなんで、あの時泣いたの?」
「…………」
「俺がいた時、泣いてた。なんで?」
「わか、な……」
「一人が、嫌だったんだろう? 一人になるのが嫌で、寂しくて、それが嫌だった。……ちゃんと分かってる」
「っ、ごめんっ……」
「俺の前では泣いてほしい。一人で泣かれるのは、俺は嫌だ。一人が嫌なら、寂しいならそばにいる」
「う、うあぁっ……!」
泣き声とその源をかき消すように、雪が強まった。
一方、男──理人は。
「……凪沙?」
「っ理人先輩っ……? どうして、連絡してないのにっ……」
「海月ちゃんから聞いた。……入ってもいい?」
「……どうぞ」
ためらうように凪沙の部屋のドアを開け、慌てるように閉めた。
「……なんて、言ったらいいのかは分かんないけどさ」
「…………」
「……耐える必要は、ないから。好きなだけ泣いていいし、八つ当たりしてもいい。それぐらいは、受け止められる自信があるから」
「…………」
「俺は両親が二人とも生きてるから、気持ちは分からない。分かるとは言えない。でも辛さは半分受け持てるよ」
「っ、なんでそんなに、優しいんですかっ……」
「そりゃ彼氏だし。好きな子には優しくするでしょ。……ほら」
決壊した二つの水たまりの壁。
戻ることは、もうないだろう。
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