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近づいていく距離
笑顔色、スプリッツァー
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「あ、少し熱下がりましたね。まだ寝ますか?」
体温計の画面を咲に見せながら言った翔。
「んー、アクスエットある? ちょっと飲みたい……」
「ありますよ、さっき松野さんが買って来てました。これ」
「ありがとー……翔君今日大丈夫なの?」
「っえ? 今日はオフなんで大丈夫ですが」
「そーじゃなくて、彼女さんとか。いるでしょ?」
「はい? いませんけど」
「は?」
「は?」
え、彼氏いないの? 意外──大きな目を見開いて言った咲。頬の赤みは引き、少しずついつもの状態に戻りつつある。
「バーテンダーなんて、ほとんど出会いないですから。まぁお客さんぐらい? でもだいたいはおっさんだったりなので……咲さんとかは珍しいですよ、種類的には」
「へぇ、そうなんだ……ルックスいいのにね」
「はいはい、そういうの言わないほうがいいですよ。それに咲さんだって自覚するべきだ」
「え、なんで? 何を?」
「男にそういう事言うと、勘違いしますから。咲さんだって十分美人だし──どっちかっつーと可愛い部類か」
「え、そんなお世辞やめて……勘違いは分かったから」
また照れる。引いた頬の赤みがまた差し始めたようだ。
「ははっ、また照れてる。意外と照れ性ですか?」
「たまーに言われる。もうタメ口でいいよ、何歳だっけ」
「俺は二十一」
「あ、ちょうど一緒じゃん。じゃあもういっか」
「そうだね……咲でいいの?」
「いいよー、もう君付けする気もないし。翔でいっか」
「っ……!?」
「ん、どした? 風邪移った? いつもは移らないのに……変なの」
「い、いや、なんでもない。気にしないで」
「……? はーい」
あぁ、もう。本当に、調子が狂う。男の名前、そんなに気安く呼んじゃダメだってば──俺だからいいけど。
いや、俺だけじゃないと困る。竹内さんは竹内だし、大丈夫かな──そう考えこんでいると、首を傾げていた咲がふわっと笑った。
「っ、や、やめてっ」
「……え? わ、私……何かした?」
「そうじゃなくて、咲本当に自覚して! 男の前でそんな風に笑っちゃダメだってば!」
「そ、そうなの……? 高校時代はあんまり男子とは話してなかったけど」
なんとも、トンチンカンな返答が返ってくる。こういう天然さも、だ。
「──ほんとに、『スプリッツァー』みたいだ。『バカルディ』でも『ブルー・ラグーン』でもあるけど、破壊力ありすぎ……」
俺には、人をカクテルに例える癖がある。バーテンダーの悲しい性だろうけど、治せないんだ。
「『スプリッツァー』って、カクテル? 美味しい?」
「あ、うん。白ワインにソーダ水を混ぜて飲むんだけど……結構辛口で」
「へぇ……体調良くなったら飲んでみたいな。バカルディと一緒に」
「ははっ、今度は彼氏さんと来たらいいんじゃ──」
「やめて」
貫くような声だった。
冗談交じりに言った自分を責めたくなるような、冷たい氷柱がダーツのように降り注ぐ──自分がその的になったような感覚。冷たい、氷だけが入ったグラス──何も映さない、透明な。
「え?」
「彼氏とか、無理だから」
ふわりと透明な花びらが落ちるように、笑いの表情が崩れ落ちていく。炭酸のように弾けていた笑顔は崩れ、能面のように無感動なものになっていった。
あのスプリッツァーの笑顔が嘘のように。
「…………」
「──あ、ごめんね。彼氏とかは、作る気がないの。色々あったから」
「そう、なんだ……」
「うん」
その夜、俺は咲とどう話していいのか分からなかった。心の中で、図々しくも願っていた自分を丸ごとぐしゃぐしゃにされたような感覚だったから。
咲が、俺を好きになってくれたら──なんて。
体温計の画面を咲に見せながら言った翔。
「んー、アクスエットある? ちょっと飲みたい……」
「ありますよ、さっき松野さんが買って来てました。これ」
「ありがとー……翔君今日大丈夫なの?」
「っえ? 今日はオフなんで大丈夫ですが」
「そーじゃなくて、彼女さんとか。いるでしょ?」
「はい? いませんけど」
「は?」
「は?」
え、彼氏いないの? 意外──大きな目を見開いて言った咲。頬の赤みは引き、少しずついつもの状態に戻りつつある。
「バーテンダーなんて、ほとんど出会いないですから。まぁお客さんぐらい? でもだいたいはおっさんだったりなので……咲さんとかは珍しいですよ、種類的には」
「へぇ、そうなんだ……ルックスいいのにね」
「はいはい、そういうの言わないほうがいいですよ。それに咲さんだって自覚するべきだ」
「え、なんで? 何を?」
「男にそういう事言うと、勘違いしますから。咲さんだって十分美人だし──どっちかっつーと可愛い部類か」
「え、そんなお世辞やめて……勘違いは分かったから」
また照れる。引いた頬の赤みがまた差し始めたようだ。
「ははっ、また照れてる。意外と照れ性ですか?」
「たまーに言われる。もうタメ口でいいよ、何歳だっけ」
「俺は二十一」
「あ、ちょうど一緒じゃん。じゃあもういっか」
「そうだね……咲でいいの?」
「いいよー、もう君付けする気もないし。翔でいっか」
「っ……!?」
「ん、どした? 風邪移った? いつもは移らないのに……変なの」
「い、いや、なんでもない。気にしないで」
「……? はーい」
あぁ、もう。本当に、調子が狂う。男の名前、そんなに気安く呼んじゃダメだってば──俺だからいいけど。
いや、俺だけじゃないと困る。竹内さんは竹内だし、大丈夫かな──そう考えこんでいると、首を傾げていた咲がふわっと笑った。
「っ、や、やめてっ」
「……え? わ、私……何かした?」
「そうじゃなくて、咲本当に自覚して! 男の前でそんな風に笑っちゃダメだってば!」
「そ、そうなの……? 高校時代はあんまり男子とは話してなかったけど」
なんとも、トンチンカンな返答が返ってくる。こういう天然さも、だ。
「──ほんとに、『スプリッツァー』みたいだ。『バカルディ』でも『ブルー・ラグーン』でもあるけど、破壊力ありすぎ……」
俺には、人をカクテルに例える癖がある。バーテンダーの悲しい性だろうけど、治せないんだ。
「『スプリッツァー』って、カクテル? 美味しい?」
「あ、うん。白ワインにソーダ水を混ぜて飲むんだけど……結構辛口で」
「へぇ……体調良くなったら飲んでみたいな。バカルディと一緒に」
「ははっ、今度は彼氏さんと来たらいいんじゃ──」
「やめて」
貫くような声だった。
冗談交じりに言った自分を責めたくなるような、冷たい氷柱がダーツのように降り注ぐ──自分がその的になったような感覚。冷たい、氷だけが入ったグラス──何も映さない、透明な。
「え?」
「彼氏とか、無理だから」
ふわりと透明な花びらが落ちるように、笑いの表情が崩れ落ちていく。炭酸のように弾けていた笑顔は崩れ、能面のように無感動なものになっていった。
あのスプリッツァーの笑顔が嘘のように。
「…………」
「──あ、ごめんね。彼氏とかは、作る気がないの。色々あったから」
「そう、なんだ……」
「うん」
その夜、俺は咲とどう話していいのか分からなかった。心の中で、図々しくも願っていた自分を丸ごとぐしゃぐしゃにされたような感覚だったから。
咲が、俺を好きになってくれたら──なんて。
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