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ふらつくグラス
怒り色、ブラッディ・メアリー
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「……んー、美味し」
「ありがとうございま──」
ととん、ととん、と鳴った着信音。どこから鳴っているのかは分からないが、かなり大きな音量だ。
「おーい翔、お前だろ!」
「あ、はーい! 申し訳ありません、少し失礼します」
確か、あの音は咲のものだったはずだ。内扉を開き、ロッカールームへと急ぐ。
「もしも──」
「ごめ、まちが……」
「え、咲だよね?」
「ち、が……ゲホッ」
ぷつりと無機質に、電話が切れた。
「どうしたんだよ? 咲ちゃんか」
「あ、えぇ、そうなんですけど……咲さんらしくない、変な電話でした」
「変な電話?」
「なんか途切れ途切れだし、噛み合わない、っていうか……会社にいるって感じじゃないような」
「……家、行ってみたらどうだ? ここは任せろ。その代わり、今度お前のカクテルおごれ」
「あっ、ありがとうございます!」
不意に倒れた石英の結晶が、咲さんが気に入っていたものだって思い出して──急に、不吉な予感がした。
「えーっ、行っちゃうの?」
「申し訳ありませんが、急用ができまして」
「ふーん……まぁ、頑張んなよ」
ぞわりと背中を撫でたその声は、さらに予感を現実的なものにするようで──俺は、さっきの咲のように走った。
「……咲?」
マンションにつき、この間教えてもらった部屋番号『405』の刻まれたドアの目の前にいる。
チャイムを鳴らして──何も変化がないと思ったら、どたりという音がした。
「……どちら様ですか?」
ドア越しに男の声がする──咲さんには兄弟はいない。
「宅急便でーす」
ドアスコープを指で押し、見えなくして言った──うろ覚えだが、それらしいイントネーションを覚えていた──あとは。
「は──ぐっ」
間抜けに出てきた男のみぞおちを殴り、昏倒させた。一応後頭部にも衝撃を与えておきたいが、咲さんの安否を確かめたい。
「咲さん? 咲──」
「か、ける……? ……て」
「大丈夫ですか!? 救急車──」
「逃げてっ!」
背後の影にすんでのところで気づき受け身は取ったものの、衝撃を完全に逃すことはできなかった。それでもなぜか痛みは感じない──なぜだろう。
よく咲を見てみれば、殴られた痕があることに気づいた。
──ふつふつと、怒りが湧き上がってくる。
「……翔?」
気づくと、一発は殴り終えたあとだった。咲の呼び声で我に返り、擦り傷のある自分の手が視界に入ったとき、自分が何をしようとしていたかがようやく分かる。
「……バーテンダー、なんだから。手、大事にしないと、ね?」
「あ、ありがとう……咲は大丈夫? 殴られたみたいだね」
「うん、少しね。でもトイレに逃げ込んで鍵かけて、翔に電話したの。でもすぐ開けられちゃった……あとはご想像の通り、っていうのかな。でも翔すご──翔?」
軽く握られていた手が震える。まるで、恐怖しているように。
「っ、良かった……前に空手やってたから、体が覚えてたみたいだよ。なんか体がふわふわしてる……アドレナリン出まくってるや」
「か、翔、大丈夫? あいつが失神するのなんて、私初めて見たよ」
「ありが──そうだ、あとで話聞くからね」
「分かってる。……ここまで迷惑かけといて、話さないなんてないよ、大丈夫。その前に、警察を──」
「その前に、俺は咲の泣き顔を他人に見せたくないから拭く」
「えっ……?」
「気づいてなかったのかよ……ほら」
眦に、小さく球が浮かんでいる。
また濁りを見せた感情を、翔は抑えようとした。
「ありがとうございま──」
ととん、ととん、と鳴った着信音。どこから鳴っているのかは分からないが、かなり大きな音量だ。
「おーい翔、お前だろ!」
「あ、はーい! 申し訳ありません、少し失礼します」
確か、あの音は咲のものだったはずだ。内扉を開き、ロッカールームへと急ぐ。
「もしも──」
「ごめ、まちが……」
「え、咲だよね?」
「ち、が……ゲホッ」
ぷつりと無機質に、電話が切れた。
「どうしたんだよ? 咲ちゃんか」
「あ、えぇ、そうなんですけど……咲さんらしくない、変な電話でした」
「変な電話?」
「なんか途切れ途切れだし、噛み合わない、っていうか……会社にいるって感じじゃないような」
「……家、行ってみたらどうだ? ここは任せろ。その代わり、今度お前のカクテルおごれ」
「あっ、ありがとうございます!」
不意に倒れた石英の結晶が、咲さんが気に入っていたものだって思い出して──急に、不吉な予感がした。
「えーっ、行っちゃうの?」
「申し訳ありませんが、急用ができまして」
「ふーん……まぁ、頑張んなよ」
ぞわりと背中を撫でたその声は、さらに予感を現実的なものにするようで──俺は、さっきの咲のように走った。
「……咲?」
マンションにつき、この間教えてもらった部屋番号『405』の刻まれたドアの目の前にいる。
チャイムを鳴らして──何も変化がないと思ったら、どたりという音がした。
「……どちら様ですか?」
ドア越しに男の声がする──咲さんには兄弟はいない。
「宅急便でーす」
ドアスコープを指で押し、見えなくして言った──うろ覚えだが、それらしいイントネーションを覚えていた──あとは。
「は──ぐっ」
間抜けに出てきた男のみぞおちを殴り、昏倒させた。一応後頭部にも衝撃を与えておきたいが、咲さんの安否を確かめたい。
「咲さん? 咲──」
「か、ける……? ……て」
「大丈夫ですか!? 救急車──」
「逃げてっ!」
背後の影にすんでのところで気づき受け身は取ったものの、衝撃を完全に逃すことはできなかった。それでもなぜか痛みは感じない──なぜだろう。
よく咲を見てみれば、殴られた痕があることに気づいた。
──ふつふつと、怒りが湧き上がってくる。
「……翔?」
気づくと、一発は殴り終えたあとだった。咲の呼び声で我に返り、擦り傷のある自分の手が視界に入ったとき、自分が何をしようとしていたかがようやく分かる。
「……バーテンダー、なんだから。手、大事にしないと、ね?」
「あ、ありがとう……咲は大丈夫? 殴られたみたいだね」
「うん、少しね。でもトイレに逃げ込んで鍵かけて、翔に電話したの。でもすぐ開けられちゃった……あとはご想像の通り、っていうのかな。でも翔すご──翔?」
軽く握られていた手が震える。まるで、恐怖しているように。
「っ、良かった……前に空手やってたから、体が覚えてたみたいだよ。なんか体がふわふわしてる……アドレナリン出まくってるや」
「か、翔、大丈夫? あいつが失神するのなんて、私初めて見たよ」
「ありが──そうだ、あとで話聞くからね」
「分かってる。……ここまで迷惑かけといて、話さないなんてないよ、大丈夫。その前に、警察を──」
「その前に、俺は咲の泣き顔を他人に見せたくないから拭く」
「えっ……?」
「気づいてなかったのかよ……ほら」
眦に、小さく球が浮かんでいる。
また濁りを見せた感情を、翔は抑えようとした。
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