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ふらつくグラス
傷色、ジン・トニック 咲side
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──どうして。
──どうしてあなたが、ここにいるの。
「……久しぶり、サキ。探したんだよ?」
「し、くら……」
「そんな怯えた目、しないでよ? 傷つくなぁ」
すらりとした長身、ふわふわと巻かれた黒髪、黒縁の眼鏡。彼の名前は、志倉 春希──私の、元彼と言える存在だ。
「……どうして、ここにいるの」
「サキに会うために決まってんじゃん。……急に音信不通になって、みんな心配したんだよ」
──嘘だ。真っ赤な、真っ赤な嘘。クラスで浮いていた私を、心配するわけがない。
「そんな、わけ……」
「少なくとも俺は傷ついたかなぁ? 急にいなくなちゃって、ケータイも通じないし」
「ご、ごめ……」
「また髪染めてんの? そのままの方がいいって、俺昔ずっと言ったよね」
「く、黒が、好きで」
「茶色の方が、血が映えるのに。……殴る甲斐ないじゃん」
ニヤリ、と口角を上げて趣味の悪い笑みを見せる春希。この笑みが、私は──苦手だ。
「や、やめてよ……」
「ここまできてやめろっての? 管理人さんにサキの部屋番号聞いたから、無駄だよ」
真っ赤になるほど掴まれた手首が、痛みを持ち始めた。きりきりと骨がきしむような感覚がする。
「い、痛いっ!」
「今からもーっと痛いことするんだけどね……まぁいいや。離してあげるけど、逃げないでね」
──逃げられるわけがないのだ。
「ほら、入りなよ。どこがいい?」
キッチンはやめとくかー、俺が包丁使いかねないし──じゃあリビングでいっか。
そんな残虐なことを平気で言えるこの男は、私の元彼で。
別れの理由は、この暴力。
「いっ……うあぁっ!」
「ほんと声変わんないねぇ。耐えようとしても無駄なのに……結局最後は絶叫してたじゃん」
「や、やめてっ、痛いっ!」
「痛いからって止めないし……ほんっと馬鹿だよねぇ、サキ。俺から逃げられるわけがないのに」
突き飛ばされ、全身を衝撃が襲う。壁に打ち付けられた体は力なくへたりこみ、横たわってしまった。
「あーぁ、ほんっとイラつくよ」
髪を引かれ、落とされ。その繰り返しだ。続けざまに全身を襲う痛みや衝撃は、咲の意識が飛ばないようにわざと弱められたり少し止まったりする。
優しさなのかなんなのか分からないそれが、咲は大嫌いだった。
「──っ!」
暴行は、果てもなく続いた。
朦朧とする意識の中で、少女時代の思考回路が嬉々として自己卑下の言葉を拾っていく。
所詮、私は私じゃないか、と。
「あーぁ……気絶しちゃった? った──っ!」
朦朧とする意識の中で、倒れゆく自分と、もう一人の男を見たような──まるで幽体離脱をしたような、そんな奇妙な感覚が咲を包んでいた。
──もう、死んでもいいかもしれない。
その思考を最後に、咲の思考は終焉を迎えた。
──どうしてあなたが、ここにいるの。
「……久しぶり、サキ。探したんだよ?」
「し、くら……」
「そんな怯えた目、しないでよ? 傷つくなぁ」
すらりとした長身、ふわふわと巻かれた黒髪、黒縁の眼鏡。彼の名前は、志倉 春希──私の、元彼と言える存在だ。
「……どうして、ここにいるの」
「サキに会うために決まってんじゃん。……急に音信不通になって、みんな心配したんだよ」
──嘘だ。真っ赤な、真っ赤な嘘。クラスで浮いていた私を、心配するわけがない。
「そんな、わけ……」
「少なくとも俺は傷ついたかなぁ? 急にいなくなちゃって、ケータイも通じないし」
「ご、ごめ……」
「また髪染めてんの? そのままの方がいいって、俺昔ずっと言ったよね」
「く、黒が、好きで」
「茶色の方が、血が映えるのに。……殴る甲斐ないじゃん」
ニヤリ、と口角を上げて趣味の悪い笑みを見せる春希。この笑みが、私は──苦手だ。
「や、やめてよ……」
「ここまできてやめろっての? 管理人さんにサキの部屋番号聞いたから、無駄だよ」
真っ赤になるほど掴まれた手首が、痛みを持ち始めた。きりきりと骨がきしむような感覚がする。
「い、痛いっ!」
「今からもーっと痛いことするんだけどね……まぁいいや。離してあげるけど、逃げないでね」
──逃げられるわけがないのだ。
「ほら、入りなよ。どこがいい?」
キッチンはやめとくかー、俺が包丁使いかねないし──じゃあリビングでいっか。
そんな残虐なことを平気で言えるこの男は、私の元彼で。
別れの理由は、この暴力。
「いっ……うあぁっ!」
「ほんと声変わんないねぇ。耐えようとしても無駄なのに……結局最後は絶叫してたじゃん」
「や、やめてっ、痛いっ!」
「痛いからって止めないし……ほんっと馬鹿だよねぇ、サキ。俺から逃げられるわけがないのに」
突き飛ばされ、全身を衝撃が襲う。壁に打ち付けられた体は力なくへたりこみ、横たわってしまった。
「あーぁ、ほんっとイラつくよ」
髪を引かれ、落とされ。その繰り返しだ。続けざまに全身を襲う痛みや衝撃は、咲の意識が飛ばないようにわざと弱められたり少し止まったりする。
優しさなのかなんなのか分からないそれが、咲は大嫌いだった。
「──っ!」
暴行は、果てもなく続いた。
朦朧とする意識の中で、少女時代の思考回路が嬉々として自己卑下の言葉を拾っていく。
所詮、私は私じゃないか、と。
「あーぁ……気絶しちゃった? った──っ!」
朦朧とする意識の中で、倒れゆく自分と、もう一人の男を見たような──まるで幽体離脱をしたような、そんな奇妙な感覚が咲を包んでいた。
──もう、死んでもいいかもしれない。
その思考を最後に、咲の思考は終焉を迎えた。
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