彼とのキスは、乾杯のあとで。

天海 時雨

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番外編

番外編 梨紗の憂鬱

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「……ん、う」

 ──朝からお盛んだねと、笑われるだろう。
 それでも、こいつ──蓮は、諦めてくれはしない。どうせ気にするなと言われるのがオチだからだ。

「……じゃあ、行ってくるね」
「うん、行ってらっしゃい」

 有給消化のため、数日の間会社を休むことになった私。しかし蓮に急な出張が飛び込み、一週間を一人で過ごすことになってしまった。

「……ばいばい」

 ドアを開け、すでに小さくなった頼もしい背中にさよならを言った。

 ──出て行く、つもりだ。

 異変は、少しだけ前のこと。

「蓮ー、今日って帰ってくる?」
『悪い、飲み会。結構遅くなると思う』
「……そっか。じゃあ、待って──」
『竹内さぁん! 飲んでくださいよーっ』

 聞いただけで分かる、近距離にいる女の声。彼は媚びた声が嫌いだと知ったらどんな顔をするだろうか。

『……ごめん、また後──』
「いいよ、掛け直さないでいい。ごめんね飲み会の邪魔して。楽しんできてね」

 一息に言い切って、ぷちりと通話を切った。
 それ以来何度もきた着信に見ないふりをして、電源を落とした。
 ──それで、この有様。馬鹿だと、自分でも思う。
 彼に知られないように、少しずつ、本当に少しずつ減らして自分の荷物。勘のいい彼はすぐに気づいてしまうから、すごく警戒して警戒して、まとめ始めたのだ。
 そんな時、この出張だ。

「……都合がいいな」

 そう、都合がいい。言い聞かせて、トランクを引き出しから取り出した。
 ──ちくりと痛む胸は、知らない。

「っ、なんでっ、もうやだっ……!」

 また送られてきたメールを、なぜか開いてしまう。
 ──自分を殺すナイフだと知っているくせに開ける、自分は本当に馬鹿だ。

「っ、もう、やだあぁっ……!!」
 
 送られてきたメールは、エコー写真というもので。

「ごめん、ごめんなさいっ!」

 自分が迷惑をかけたから、自分が重いせいだから、自分を滅ぼしている──馬鹿なんだ。
 ──君は、馬鹿だと言ってくれますか。
 ──馬鹿だと言って切り捨ててくれたらどんなにいいか。

「ふ、うぅぅーっ……」

 涙を止めるコツは、お手の物。深呼吸を三回すれば、ほとんどの涙はこらえられた──彼の前でも咲の前でも、グラスの前でも────。
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