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始まった捜索
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佐奈田 悠月の捜索は、翌日の朝早くから行われた。
連日に渡る聞き込み、行動範囲と思われる場所での人海戦術を使った捜索、インターネットでの情報収集。
しかしその目の細かい網に、悠月はまだ引っかかっていない。
「ネットにも情報は転がってないな。それらしき人を見たっていう情報もない……」
「現場で捜索するしかないな。でもまだ暴れてると思うか?」
静月たちが夕飯を食べた後、目を覚ました紗凪。二人はその後、裏路地で探していた理由と、なぜあのAfter The Snow の裏路地にいたのかを聞き出していた。
「……それはないだろう。俺としては、『あそこに悠月がいるってことをバイト先の客から聞いたから』っていう、紗凪の言ってた理由も怪しいと思うが」
「けどまぁそれが真実なんじゃないか?」
「…………」
静寂に場が包まれかけたその時。
「でもその『客』ってのは誰から聞いたんだろうな?」
「……悠月が、紗凪に会いたかったとしたら?」
「え?」
「悠月は何かの理由で紗凪に会わなきゃいけなかった。でも自分から会いに行ったら俺たちに捕まえられる。だからわざと紗凪に探させたんじゃ……そしたらこっちは準備ができてるからいつでも逃げられる。それに紗凪に言いたいこと言ってすぐに去ることができる……よな?」
弦に目を合わせないまま静月は言い続けた。
「……すぐ去れるか?」
「紗凪はいつ悠月に会うかもわからなかったし、それにあのときはすごく身軽な格好をしてた。それを悠月が知っててあんなことをしたならどうだ?」
「……辻褄は合うけど、どうやって探させるんだよ? 『ここにいるから来て』っての? それこそ俺らが来て捕まえられるだろ」
「……分からない」
「がくっ……」
藍咲組による悠月の捜索が始まって、既に三週間が過ぎようとしていた。
「……これ以上人増やしたら駄目か?」
「無理無理、そんな迷惑かけられないでしょ。あくまで俺と静月の頼みなんだからさ」
「まぁこれ以上増やしても無駄か……」
「……あ、やっぱパソコンとにらめっこしてる。目疲れるよ? これ差し入れ」
するりと小部屋の襖を開け、氷の入った麦茶を運んできた紗凪。外見は氷蓮そのものであり、色素の薄い灰色の髪と明るい茶色の目を惜しげもなく晒している。
「あ……紗凪。昼に起きてるのは初めて見た」
「物凄く失礼だけど許してあげるよ弦」
「あー……悪い、まだだ」
「そんな気張ってたら出るものも出てこないよ。ゆったり探しな。それに言っちゃ悪いけど、インターネットに転がってはいないと思うなー」
「だよなぁ……」
「あとで奏さんにも言っておくよ。どうせあんたらも現場で探したいんでしょ?」
盆を床に置いた。
「お、サンキュ。俺らが言っても親父の『生意気』の一言でばっさりだしなー」
「まぁ親父は紗凪気に入ってるからな」
「小さい頃からお世話になってるだけ。じゃあ私は戻るよ。夕飯の支度の手伝い、奏さんに頼まれてるから」
「おー、頼んだ。ついでに言っといてくれー」
「ん、頼まれる」
重い怪我を負った紗凪。家事などをさせることに奏は反対したが、『動いていない方が退屈で病む』という紗凪の発言で手伝うことになった。
しかしヒビの入っていた左足首は、まだ白い布に包まれている。
「……あれ動いて大丈夫なのか?」
「全治は約一ヶ月らしいが、やっと三週間だし……まぁ本当はまだ安静にしている方がいいんだろうな」
苦笑しながらも、心配そうな表情をする静月。その手には紗凪の持ってきた麦茶が握られている。
「まぁ手伝いたいのはいいけどさ、うちの組ただでさえ人いっぱいいるから大変だと思うけど」
「それは俺も思う。この間の巻き寿司のとき、あいつめちゃくちゃ挨拶されててもさ、全員返してんの」
「えぇぇぇ!? まさか名乗ったりしてないよね?」
「全員覚えてた……」
「うっそ……どんだけ記憶力いいんだかなー」
「顔と名前が一致してる。思わず笑えてきちゃったよ俺」
「あの子は記憶力がとてもいいのよ」
「っと、姐様!? おはようございます」
突然現れた奏。その言葉を口にしている表情は、なぜか哀しげでもあり、誇らしげでもあった。
「……そうだ、紗凪から聞いたわよ。インターネットには情報は転がっていなさそうだ、って」
「えぇ……もう調べきった気がします」
「うーん……コウの許可も出たし──」
「親父の奴どんだけ紗凪に甘ぇんだ」
ぶすっとした顔で不満を口にする弦。若干拗ねつつも、現場で探したいという思いが叶い、嬉しそうでもある。
「まぁそう言わないの。今日の午後──いえ、夜から加わってもらうわ」
「了解しました」
「あぁ、あと紗凪にも手伝ってもらいたいわ……」
「何を手伝わせるんですか?」
「パソコンで、防犯カメラの映像を見て欲しいの」
「……めちゃくちゃ量ありますよねそれ」
「えぇ、だからよ。目の動きがトロい組員じゃ、やっぱり役立たずでね?」
「……いやそれ、絶対頑張ってくれてました」
「まぁいいのいいの、とりあえず紗凪はどこ?」
「俺らに麦茶持ってきてくれて、『夕飯の手伝い奏さんに頼まれてるから』っつってどっか行きました」
「あぁ、じゃあ台所ね。そのうちこの部屋来るから、よろしくね?」
「了解しました……本当にやらせるんですか?」
心配気に奏に問う静月。しかし奏は────。
「……足は使わない仕事なら紗凪にもできる。働かざる者食うべからず、でしょう?」
「…………」
「ほら、貴方達も準備しておきなさい」
「あ、はい……ありがとうございます」
息子達に、自分の冷徹さの一面を見せた奏。その目には、藍咲組姐としての気概の片鱗が見えた。
「……優しいんだか、厳しいんだか?」
「どちらでもあるんじゃないか? さて、休憩か……行くぞ、色々持ってこないと」
「あぁ、そうだな」
悠月の捜索が始まってから、三週間が過ぎようとしている。二人が加わることで、変化は起きるのだろうか。
それを知る者すらも、今ここにはいない。
連日に渡る聞き込み、行動範囲と思われる場所での人海戦術を使った捜索、インターネットでの情報収集。
しかしその目の細かい網に、悠月はまだ引っかかっていない。
「ネットにも情報は転がってないな。それらしき人を見たっていう情報もない……」
「現場で捜索するしかないな。でもまだ暴れてると思うか?」
静月たちが夕飯を食べた後、目を覚ました紗凪。二人はその後、裏路地で探していた理由と、なぜあのAfter The Snow の裏路地にいたのかを聞き出していた。
「……それはないだろう。俺としては、『あそこに悠月がいるってことをバイト先の客から聞いたから』っていう、紗凪の言ってた理由も怪しいと思うが」
「けどまぁそれが真実なんじゃないか?」
「…………」
静寂に場が包まれかけたその時。
「でもその『客』ってのは誰から聞いたんだろうな?」
「……悠月が、紗凪に会いたかったとしたら?」
「え?」
「悠月は何かの理由で紗凪に会わなきゃいけなかった。でも自分から会いに行ったら俺たちに捕まえられる。だからわざと紗凪に探させたんじゃ……そしたらこっちは準備ができてるからいつでも逃げられる。それに紗凪に言いたいこと言ってすぐに去ることができる……よな?」
弦に目を合わせないまま静月は言い続けた。
「……すぐ去れるか?」
「紗凪はいつ悠月に会うかもわからなかったし、それにあのときはすごく身軽な格好をしてた。それを悠月が知っててあんなことをしたならどうだ?」
「……辻褄は合うけど、どうやって探させるんだよ? 『ここにいるから来て』っての? それこそ俺らが来て捕まえられるだろ」
「……分からない」
「がくっ……」
藍咲組による悠月の捜索が始まって、既に三週間が過ぎようとしていた。
「……これ以上人増やしたら駄目か?」
「無理無理、そんな迷惑かけられないでしょ。あくまで俺と静月の頼みなんだからさ」
「まぁこれ以上増やしても無駄か……」
「……あ、やっぱパソコンとにらめっこしてる。目疲れるよ? これ差し入れ」
するりと小部屋の襖を開け、氷の入った麦茶を運んできた紗凪。外見は氷蓮そのものであり、色素の薄い灰色の髪と明るい茶色の目を惜しげもなく晒している。
「あ……紗凪。昼に起きてるのは初めて見た」
「物凄く失礼だけど許してあげるよ弦」
「あー……悪い、まだだ」
「そんな気張ってたら出るものも出てこないよ。ゆったり探しな。それに言っちゃ悪いけど、インターネットに転がってはいないと思うなー」
「だよなぁ……」
「あとで奏さんにも言っておくよ。どうせあんたらも現場で探したいんでしょ?」
盆を床に置いた。
「お、サンキュ。俺らが言っても親父の『生意気』の一言でばっさりだしなー」
「まぁ親父は紗凪気に入ってるからな」
「小さい頃からお世話になってるだけ。じゃあ私は戻るよ。夕飯の支度の手伝い、奏さんに頼まれてるから」
「おー、頼んだ。ついでに言っといてくれー」
「ん、頼まれる」
重い怪我を負った紗凪。家事などをさせることに奏は反対したが、『動いていない方が退屈で病む』という紗凪の発言で手伝うことになった。
しかしヒビの入っていた左足首は、まだ白い布に包まれている。
「……あれ動いて大丈夫なのか?」
「全治は約一ヶ月らしいが、やっと三週間だし……まぁ本当はまだ安静にしている方がいいんだろうな」
苦笑しながらも、心配そうな表情をする静月。その手には紗凪の持ってきた麦茶が握られている。
「まぁ手伝いたいのはいいけどさ、うちの組ただでさえ人いっぱいいるから大変だと思うけど」
「それは俺も思う。この間の巻き寿司のとき、あいつめちゃくちゃ挨拶されててもさ、全員返してんの」
「えぇぇぇ!? まさか名乗ったりしてないよね?」
「全員覚えてた……」
「うっそ……どんだけ記憶力いいんだかなー」
「顔と名前が一致してる。思わず笑えてきちゃったよ俺」
「あの子は記憶力がとてもいいのよ」
「っと、姐様!? おはようございます」
突然現れた奏。その言葉を口にしている表情は、なぜか哀しげでもあり、誇らしげでもあった。
「……そうだ、紗凪から聞いたわよ。インターネットには情報は転がっていなさそうだ、って」
「えぇ……もう調べきった気がします」
「うーん……コウの許可も出たし──」
「親父の奴どんだけ紗凪に甘ぇんだ」
ぶすっとした顔で不満を口にする弦。若干拗ねつつも、現場で探したいという思いが叶い、嬉しそうでもある。
「まぁそう言わないの。今日の午後──いえ、夜から加わってもらうわ」
「了解しました」
「あぁ、あと紗凪にも手伝ってもらいたいわ……」
「何を手伝わせるんですか?」
「パソコンで、防犯カメラの映像を見て欲しいの」
「……めちゃくちゃ量ありますよねそれ」
「えぇ、だからよ。目の動きがトロい組員じゃ、やっぱり役立たずでね?」
「……いやそれ、絶対頑張ってくれてました」
「まぁいいのいいの、とりあえず紗凪はどこ?」
「俺らに麦茶持ってきてくれて、『夕飯の手伝い奏さんに頼まれてるから』っつってどっか行きました」
「あぁ、じゃあ台所ね。そのうちこの部屋来るから、よろしくね?」
「了解しました……本当にやらせるんですか?」
心配気に奏に問う静月。しかし奏は────。
「……足は使わない仕事なら紗凪にもできる。働かざる者食うべからず、でしょう?」
「…………」
「ほら、貴方達も準備しておきなさい」
「あ、はい……ありがとうございます」
息子達に、自分の冷徹さの一面を見せた奏。その目には、藍咲組姐としての気概の片鱗が見えた。
「……優しいんだか、厳しいんだか?」
「どちらでもあるんじゃないか? さて、休憩か……行くぞ、色々持ってこないと」
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