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第四部
噛んでほしい
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まだ痛む頭を押さえて、ホテルへと入る。
中央が吹き抜けになっていて、それを囲むように部屋があるようだ。夏になれば日光が入ってきて、それはとても幻想的で綺麗なんだろうなと思った。
ホテルの偉い人なんだろうか、その人が「お待ちしておりました」と頭を下げてきた。ユーリは「ラウンジかな?」と確認だけして、僕の腰に手を回したままで歩いていく。
「リヒト、緊張し過ぎでしょ」
見下ろすユーリに軽く吹き出され、僕は恥ずかしくて口を尖らせた。それにも笑われるものだから、軽く脇腹をつついてやった。
案内の人が一緒にエレベーターに乗ろうとするのを、ユーリが緩く拒否して二人で乗り込み、ポーンという音ともに扉が閉まる。途端にユーリから口を塞がれ、僕は「んっ」とそれに必死で応えた。
いつ止まるのか、誰か乗って来るかもわからないのに、ユーリは何度も角度を変えて僕を攻めたててくる。そうして口を離したユーリが僕の肩に頭を乗せ、
「噛みたい」
と匂いを嗅ぐようにすんすんと鼻を鳴らしてきた。
「だってパーティー、は……」
「噛みたい。お願い」
最近は噛むことが少なかっただけに、その言葉は意外だった。本当はよくない。よくないのはわかっているのに、僕はコートを寛げ首元を曝け出すと、噛みやすいように首を傾ける。
噛まれたいのは、僕のほうかもしれない。
「ん……いい、よ」
「ありがと」
ガリッと久しぶりの痛みが走る。口から出た「ぁ……」の声は、痛みからくるものか、それとも喜びからなのか。
さっきまで痛くて堪らなかったはずの頭の痛みが、ユーリからの痛みで上書きされていく。同時に胸に広がる安心感に、僕は堪らず息を緩く吐ききった。
ユーリが唇を離したタイミングで、ポーン、と音が鳴り扉が開いた。
最上階、ワンフロア全てがラウンジだ。中央の吹き抜けを囲むように、ソファやらテーブルやらが随所に配置されている。
「こんにちは。ユーリさん、リヒトさんも」
ラウンジに出た僕たちに、紺のドレスを着たアヤメさんが歩み寄ってきた。肩には真っ白なストールをかけていて、どこからどう見ても綺麗なお嬢様だ。どう考えてみても、僕たちの格好が場違いすぎる。
「ちょっとユーリ、僕たち……」
「アヤメ、お願いできる?」
「えぇ、もちろんですわ」
僕が何か挟む余地もなく、ユーリは僕の腰を軽く押すようにしてアヤメさんの前へと差し出した。理解が追いつかない僕を余所に、アヤメさんは終始楽しそうに微笑んでいる。
なんだろう、この二人が揃うと嫌な予感しかしない。
「あのさ、え? 二人とも……?」
戸惑う僕の前に、二人が似たような笑顔を浮かべて立っている。それこそ、本当に二人は姉弟ではないのかと言いたくなるほどに。
僕はホテルのとある部屋へと連れてこられた。ユーリは隣の部屋に行ってしまったので、実質、僕とアヤメさんの二人きりだ。だからといって、どうこうする気もないけれど。
「出来ましたわ」
そう声をかけられて、僕は閉じていた目をそうっと開け、鏡台に映る自分の姿にため息をついた。
黒のジャケット、グレーのベストにズボン、オフホワイトのネクタイには金のタイピン。ジャケットのポケットにはハンカチが入れられている。
「ばっちりですわね」
「あぁ、はい……、ありがとうございます……」
髪も多少なりともセットされていて、いつもの自分より少しだけ大人びて見える。右耳につけられたピアスが目立つような髪型にされたのは、きっと気のせいじゃない。
部屋の扉がノックと同時に開かれ「出来た?」とユーリが入ってきた。
「もうユーリさん、少しは落ち着いて……」
「わぁ。リヒト、よく似合ってるね」
アヤメさんが咎めるのも気に留めず、ユーリは椅子に座る僕の隣に膝をつく。そのまま自然に左手を取ると、薬指へと軽く口づけた。
「ちょっと……っ」
「んー?」
「やめっ」
手のひらに移動した唇が、そのまま手首へと滑り落ちる。ユーリの舌が軽く這い、それにぞくりと身体を震わせたところで「……あー」とバツが悪そうな顔をしてユーリが立ち上がった。
「ごめん、ちょっと、我慢できなくなる……」
そう口元を押さえたユーリもまた、いつもとは違う髪型と格好をしている。金の髪をオールバックにして、襟部分にダークグリーンのアクセントが入った黒のジャケット、同じくダークグリーンのベスト、黒のズボン。胸元についているピンバッジからは金の鎖がぶら下がっている。
「その、ユーリも、似合ってるよ」
あまり大きな声で言えず俯き気味で言えば、ユーリも小声で「ありがと」と言うのが聞こえた。
「お二人とも、わたくしがいるのを忘れておりません?」
「あ! いや、忘れてないです!」
本当は忘れかけてました、なんて言えるわけもなく、僕は誤魔化すように手をぶんぶんと振った後「ね、ねぇ」とユーリを見上げた。
「なんでわざわざアヤメさんに頼んだの?」
「家だと絶対に襲うから。襲わなくても行きの車ん中で我慢出来ずにヤると思ったし、なら着いてからアヤメにやってもらったほうがいいと思って……」
「あぁ、うん……」
否定出来ない。
視線を泳がせる僕は、アヤメさんの呆れたようなため息に内心謝るしか出来なかった。
中央が吹き抜けになっていて、それを囲むように部屋があるようだ。夏になれば日光が入ってきて、それはとても幻想的で綺麗なんだろうなと思った。
ホテルの偉い人なんだろうか、その人が「お待ちしておりました」と頭を下げてきた。ユーリは「ラウンジかな?」と確認だけして、僕の腰に手を回したままで歩いていく。
「リヒト、緊張し過ぎでしょ」
見下ろすユーリに軽く吹き出され、僕は恥ずかしくて口を尖らせた。それにも笑われるものだから、軽く脇腹をつついてやった。
案内の人が一緒にエレベーターに乗ろうとするのを、ユーリが緩く拒否して二人で乗り込み、ポーンという音ともに扉が閉まる。途端にユーリから口を塞がれ、僕は「んっ」とそれに必死で応えた。
いつ止まるのか、誰か乗って来るかもわからないのに、ユーリは何度も角度を変えて僕を攻めたててくる。そうして口を離したユーリが僕の肩に頭を乗せ、
「噛みたい」
と匂いを嗅ぐようにすんすんと鼻を鳴らしてきた。
「だってパーティー、は……」
「噛みたい。お願い」
最近は噛むことが少なかっただけに、その言葉は意外だった。本当はよくない。よくないのはわかっているのに、僕はコートを寛げ首元を曝け出すと、噛みやすいように首を傾ける。
噛まれたいのは、僕のほうかもしれない。
「ん……いい、よ」
「ありがと」
ガリッと久しぶりの痛みが走る。口から出た「ぁ……」の声は、痛みからくるものか、それとも喜びからなのか。
さっきまで痛くて堪らなかったはずの頭の痛みが、ユーリからの痛みで上書きされていく。同時に胸に広がる安心感に、僕は堪らず息を緩く吐ききった。
ユーリが唇を離したタイミングで、ポーン、と音が鳴り扉が開いた。
最上階、ワンフロア全てがラウンジだ。中央の吹き抜けを囲むように、ソファやらテーブルやらが随所に配置されている。
「こんにちは。ユーリさん、リヒトさんも」
ラウンジに出た僕たちに、紺のドレスを着たアヤメさんが歩み寄ってきた。肩には真っ白なストールをかけていて、どこからどう見ても綺麗なお嬢様だ。どう考えてみても、僕たちの格好が場違いすぎる。
「ちょっとユーリ、僕たち……」
「アヤメ、お願いできる?」
「えぇ、もちろんですわ」
僕が何か挟む余地もなく、ユーリは僕の腰を軽く押すようにしてアヤメさんの前へと差し出した。理解が追いつかない僕を余所に、アヤメさんは終始楽しそうに微笑んでいる。
なんだろう、この二人が揃うと嫌な予感しかしない。
「あのさ、え? 二人とも……?」
戸惑う僕の前に、二人が似たような笑顔を浮かべて立っている。それこそ、本当に二人は姉弟ではないのかと言いたくなるほどに。
僕はホテルのとある部屋へと連れてこられた。ユーリは隣の部屋に行ってしまったので、実質、僕とアヤメさんの二人きりだ。だからといって、どうこうする気もないけれど。
「出来ましたわ」
そう声をかけられて、僕は閉じていた目をそうっと開け、鏡台に映る自分の姿にため息をついた。
黒のジャケット、グレーのベストにズボン、オフホワイトのネクタイには金のタイピン。ジャケットのポケットにはハンカチが入れられている。
「ばっちりですわね」
「あぁ、はい……、ありがとうございます……」
髪も多少なりともセットされていて、いつもの自分より少しだけ大人びて見える。右耳につけられたピアスが目立つような髪型にされたのは、きっと気のせいじゃない。
部屋の扉がノックと同時に開かれ「出来た?」とユーリが入ってきた。
「もうユーリさん、少しは落ち着いて……」
「わぁ。リヒト、よく似合ってるね」
アヤメさんが咎めるのも気に留めず、ユーリは椅子に座る僕の隣に膝をつく。そのまま自然に左手を取ると、薬指へと軽く口づけた。
「ちょっと……っ」
「んー?」
「やめっ」
手のひらに移動した唇が、そのまま手首へと滑り落ちる。ユーリの舌が軽く這い、それにぞくりと身体を震わせたところで「……あー」とバツが悪そうな顔をしてユーリが立ち上がった。
「ごめん、ちょっと、我慢できなくなる……」
そう口元を押さえたユーリもまた、いつもとは違う髪型と格好をしている。金の髪をオールバックにして、襟部分にダークグリーンのアクセントが入った黒のジャケット、同じくダークグリーンのベスト、黒のズボン。胸元についているピンバッジからは金の鎖がぶら下がっている。
「その、ユーリも、似合ってるよ」
あまり大きな声で言えず俯き気味で言えば、ユーリも小声で「ありがと」と言うのが聞こえた。
「お二人とも、わたくしがいるのを忘れておりません?」
「あ! いや、忘れてないです!」
本当は忘れかけてました、なんて言えるわけもなく、僕は誤魔化すように手をぶんぶんと振った後「ね、ねぇ」とユーリを見上げた。
「なんでわざわざアヤメさんに頼んだの?」
「家だと絶対に襲うから。襲わなくても行きの車ん中で我慢出来ずにヤると思ったし、なら着いてからアヤメにやってもらったほうがいいと思って……」
「あぁ、うん……」
否定出来ない。
視線を泳がせる僕は、アヤメさんの呆れたようなため息に内心謝るしか出来なかった。
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