小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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竜の恩讐編

エピローグ その3

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「~~~~!」
 千秋ちあきは学校からの帰り道、珍しく不機嫌そうに通学路を歩いていた。
 学校でも有名な才女であり、同時に有名な変わり者な千秋が、中二病らしい言動も行動もしないまま、単純に不機嫌な様子を見せている。
 それは千秋を知る生徒たちの間で驚きと注目の的となっていた。
 いわく、『何か変なものでも食べたんじゃないか』、『どこかで頭でもぶつけたんじゃないか』など、推測の域を出ないうわさばかりが飛びう。
 しかし、千秋の機嫌が悪いのは、それこそ単純な理由だった。
(あの座敷童子ざしきわらし……)
 天逐山てんぢくざん媛寿えんじゅに負けたこと、ただそれだけだった。
(今度勝負することがあったら絶対あたしが勝つ。そんで素っ裸にひんいて逆さ吊りにしてやる)
 そうして千秋は苛立いらだまぎれに、ポケットから取り出した一口サイズのフルーツキャンディを数個、口に放り込んだ。媛寿からのびの品の残りだった。
「あ、あの、天坂あまさかさん!」
 不意に声をかけられ、千秋は飴玉あめだまを口内で転がしながら振り返った。
 見るとクラスメイトの男子が一人、緊張した面持ちで立っている。
「……なに?」
「そ、その、えっと……」
 男子は何か言いたげだが、ほお紅潮こうちょうさせたまま口ごもっている。
 媛寿の件で苛立っている時に、さらによく分からない要件で呼び止められ、千秋はますますいきどおってきた。
(ちょうどいいからコイツ玩具おもちゃにしてスッキリしようかな)
 男子の首を掴んで路地裏に引きずり込もうと、千秋が手を伸ばした時だった。
「ボ、ボクと付き合ってください!」
 男子は深々と頭を下げ、右手を千秋に差し出した。
 千秋は驚きに目を丸くした。
 長く生きてきた千秋だが、異性に真正面から告白を受けたのは、実に初めてのことだった。
「…………」
 しばらく考え込むように黙っていた千秋は、やがて、
「――――よろしく」
 男子の首を掴もうとしていた右手で、男子から差し出された右手を掴んで握手した。
「や、やったー!」
(やった! やったよ! 告白成功したよ! とんでもない目にったけど、本当に度胸が付いてたよ! ありがとう! たまたま立ち寄った神社で会った怪しい巫女のお姉さん!)
 告白の秘訣ひけつを教えると言われて童貞を奪われ、その上いつの間にか素っ裸で路地裏に放り出されはしたものの、男子はいつかの神社で会った巫女に心の中で感謝した。
 その後、男子の嬉し泣きが落ち着くと、二人は手をつないで一緒に下校した。
媛寿あいつ……あの小林結城おとこのために一生懸命だったな)
 天逐山での媛寿のことを思い出しながら、千秋は横に並んで歩く男子を見た。
(あたしも大切な誰かができたら、あんな風に一生懸命になれるのかな……)
 媛寿のことをうらやんでいる自分がいることに、ほんの少し苛立ちをつのらせそうになったが、横にいる男子の嬉しそうな顔に免じてこの場はおさえることにした。
(今度は……負けないからな)
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