453 / 459
竜の恩讐編
エピローグ その3
しおりを挟む
「~~~~!」
千秋は学校からの帰り道、珍しく不機嫌そうに通学路を歩いていた。
学校でも有名な才女であり、同時に有名な変わり者な千秋が、中二病らしい言動も行動もしないまま、単純に不機嫌な様子を見せている。
それは千秋を知る生徒たちの間で驚きと注目の的となっていた。
曰く、『何か変なものでも食べたんじゃないか』、『どこかで頭でもぶつけたんじゃないか』など、推測の域を出ない噂ばかりが飛び交う。
しかし、千秋の機嫌が悪いのは、それこそ単純な理由だった。
(あの座敷童子……)
天逐山で媛寿に負けたこと、ただそれだけだった。
(今度勝負することがあったら絶対あたしが勝つ。そんで素っ裸にひん剥いて逆さ吊りにしてやる)
そうして千秋は苛立ち紛れに、ポケットから取り出した一口サイズのフルーツキャンディを数個、口に放り込んだ。媛寿からの侘びの品の残りだった。
「あ、あの、天坂さん!」
不意に声をかけられ、千秋は飴玉を口内で転がしながら振り返った。
見るとクラスメイトの男子が一人、緊張した面持ちで立っている。
「……なに?」
「そ、その、えっと……」
男子は何か言いたげだが、頬を紅潮させたまま口ごもっている。
媛寿の件で苛立っている時に、さらによく分からない要件で呼び止められ、千秋はますます憤ってきた。
(ちょうどいいからコイツ玩具にしてスッキリしようかな)
男子の首を掴んで路地裏に引きずり込もうと、千秋が手を伸ばした時だった。
「ボ、ボクと付き合ってください!」
男子は深々と頭を下げ、右手を千秋に差し出した。
千秋は驚きに目を丸くした。
長く生きてきた千秋だが、異性に真正面から告白を受けたのは、実に初めてのことだった。
「…………」
しばらく考え込むように黙っていた千秋は、やがて、
「――――よろしく」
男子の首を掴もうとしていた右手で、男子から差し出された右手を掴んで握手した。
「や、やったー!」
(やった! やったよ! 告白成功したよ! とんでもない目に遭ったけど、本当に度胸が付いてたよ! ありがとう! たまたま立ち寄った神社で会った怪しい巫女のお姉さん!)
告白の秘訣を教えると言われて童貞を奪われ、その上いつの間にか素っ裸で路地裏に放り出されはしたものの、男子はいつかの神社で会った巫女に心の中で感謝した。
その後、男子の嬉し泣きが落ち着くと、二人は手を繋いで一緒に下校した。
(媛寿……あの小林結城のために一生懸命だったな)
天逐山での媛寿のことを思い出しながら、千秋は横に並んで歩く男子を見た。
(あたしも大切な誰かができたら、あんな風に一生懸命になれるのかな……)
媛寿のことを羨んでいる自分がいることに、ほんの少し苛立ちを募らせそうになったが、横にいる男子の嬉しそうな顔に免じてこの場は抑えることにした。
(今度は……負けないからな)
千秋は学校からの帰り道、珍しく不機嫌そうに通学路を歩いていた。
学校でも有名な才女であり、同時に有名な変わり者な千秋が、中二病らしい言動も行動もしないまま、単純に不機嫌な様子を見せている。
それは千秋を知る生徒たちの間で驚きと注目の的となっていた。
曰く、『何か変なものでも食べたんじゃないか』、『どこかで頭でもぶつけたんじゃないか』など、推測の域を出ない噂ばかりが飛び交う。
しかし、千秋の機嫌が悪いのは、それこそ単純な理由だった。
(あの座敷童子……)
天逐山で媛寿に負けたこと、ただそれだけだった。
(今度勝負することがあったら絶対あたしが勝つ。そんで素っ裸にひん剥いて逆さ吊りにしてやる)
そうして千秋は苛立ち紛れに、ポケットから取り出した一口サイズのフルーツキャンディを数個、口に放り込んだ。媛寿からの侘びの品の残りだった。
「あ、あの、天坂さん!」
不意に声をかけられ、千秋は飴玉を口内で転がしながら振り返った。
見るとクラスメイトの男子が一人、緊張した面持ちで立っている。
「……なに?」
「そ、その、えっと……」
男子は何か言いたげだが、頬を紅潮させたまま口ごもっている。
媛寿の件で苛立っている時に、さらによく分からない要件で呼び止められ、千秋はますます憤ってきた。
(ちょうどいいからコイツ玩具にしてスッキリしようかな)
男子の首を掴んで路地裏に引きずり込もうと、千秋が手を伸ばした時だった。
「ボ、ボクと付き合ってください!」
男子は深々と頭を下げ、右手を千秋に差し出した。
千秋は驚きに目を丸くした。
長く生きてきた千秋だが、異性に真正面から告白を受けたのは、実に初めてのことだった。
「…………」
しばらく考え込むように黙っていた千秋は、やがて、
「――――よろしく」
男子の首を掴もうとしていた右手で、男子から差し出された右手を掴んで握手した。
「や、やったー!」
(やった! やったよ! 告白成功したよ! とんでもない目に遭ったけど、本当に度胸が付いてたよ! ありがとう! たまたま立ち寄った神社で会った怪しい巫女のお姉さん!)
告白の秘訣を教えると言われて童貞を奪われ、その上いつの間にか素っ裸で路地裏に放り出されはしたものの、男子はいつかの神社で会った巫女に心の中で感謝した。
その後、男子の嬉し泣きが落ち着くと、二人は手を繋いで一緒に下校した。
(媛寿……あの小林結城のために一生懸命だったな)
天逐山での媛寿のことを思い出しながら、千秋は横に並んで歩く男子を見た。
(あたしも大切な誰かができたら、あんな風に一生懸命になれるのかな……)
媛寿のことを羨んでいる自分がいることに、ほんの少し苛立ちを募らせそうになったが、横にいる男子の嬉しそうな顔に免じてこの場は抑えることにした。
(今度は……負けないからな)
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について
青の雀
恋愛
ある冬の寒い日、公爵邸の門前に一人の女の子が捨てられていました。その女の子はなぜか黄金のおくるみに包まれていたのです。
公爵夫妻に娘がいなかったこともあり、本当の娘として大切に育てられてきました。年頃になり聖女認定されたので、王太子殿下の婚約者として内定されました。
ライバル公爵令嬢から、孤児だと暴かれたおかげで婚約破棄されてしまいます。
怒った女神は、養母のいる領地以外をすべて氷の国に変えてしまいます。
慌てた王国は、女神の怒りを収めようとあれやこれや手を尽くしますが、すべて裏目に出て滅びの道まっしぐらとなります。
というお話にする予定です。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる