小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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友宮の守護者編

帰り道

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アテナ考案の作戦その2が始動した一日目は、夕暮れにさしかかる頃に一旦終了となった。
 下水道の壁面を崩し掘り進むこと75m。一日目としては上々ということで、作業を切り上げて古屋敷に戻るため片付けをしていた時だった。マスクマンがその場に残って少し作業を進めておくと言い出した。結城は彼の真意が判らず、アテナも一人で掘り進むのは危険だと言ったが、マスクマンは残ることを主張した。一人で深く掘り進むわけではなく、基本的には掘った土やコンクリート片などを片付けるだけだから心配ないと。それと時間がかかり過ぎては九木や佐権院を待たせることになるだろうから、少しでも進めておいた方が良いと言ってきた。
 結城もあまり九木たちを待たせるのは忍びなかったし、アテナもマスクマンの意見に一応の納得をし、施工図とコンパス、一人分の作業用具を渡して行くことにした。
 残りの四人は『鞠男水道設備』のロゴ入り偽装車両で古屋敷への帰路に付いていた。運転席にはアテナ、助手席には結城、その膝の上には媛寿、後部座席にはシロガネという位置取りだった。
 媛寿は一日の力仕事で疲れてしまったのか、結城の胸板に背を預けてくぅくぅと寝息を立てていた。本当ならチャイルドシートに座らせたいところだったが、結城がそれを勧めるとひどく心外そうに頬を膨らませたので、仕方なく一緒にシートベルトを締めるという形になった。
 シロガネは後部座席に座り、古屋敷に着くまでの時間を文庫本でつぶしていた。もちろんヨーロッパ書院ガールズ文庫である。乗車して読書していて酔わないのかと聞いたことがあったが、人間と同じ体は持っていても、三半規管は常人より丈夫らしい。それと読んでる間は興奮しているから乗り物酔いもなんのそのだそうだ。結城はそれ以上突っ込むのはやめておいた。やぶ蛇になりそうだったからだ。
 そして助手席に座る結城は、先程のマスクマンとのやり取りを思い出していた。
 作業を進めてくれるのはありがたいが、別にわざわざ一人で残らなくても良いことなのに。
「う~ん」
 思案しても一向に答えは見えず、釈然としない気持ちに結城は唸り声を上げた。
「浮かない顔をしていては額の皺が戻らなくなりますよ、ユウキ」
 結城の今の気分を察したのか、運転席のアテナが口を開いた。
 ちなみにアテナは発行元がどこなのかは分からないが、国際免許所持者である。乗用車から10tトラック、果てには超大型ダンプトラックまで運転可能だそうだ。本人が言うには、『自動車は馬と比べるとずっと素直だから扱いやすい』らしい。
 実際にアテナの運転は見事で、結城を始めとした仲間たちも快適に移動ができていた。しかし、一度だけ峠で走り屋気取りのチンピラに挑発された時があった。その際はマーシャルCさながらの超人的(この場合は超神的が合ってるのかもしれない)なドライビングテクニックを見せつけ、チンピラの愛車はガードレールの下に真っ逆さまに落ちていった。『死んではいないので大丈夫です』とアテナは言い切っていたが、爆発音と爆煙を確認した結城は気が気でならなかった。翌日の新聞に死亡事故が載っていなかったので、とりあえず安心したが。
 媛寿はジェットコースターみたいで面白かったとはしゃいでいたが、結城、マスクマン、シロガネはそれ以来、なるべくアテナが峠を走らないように公道へ行くよう誘導しようと決めていた。
「私も全て納得ずくではありませんが、彼もまた大地を作った精霊の一柱。土に懐かしさでも覚えたのでしょう。今はそっとしておくのが心遣いというものです」
「う~ん、そう……なんでしょうか」
 アテナの言い分ももっともだが、なぜか結城は賛同しきれなかった。残ることを言い出した時のマスクマンの雰囲気は、どうも懐かしさを味わいたい感じではなかった。マスクマンの顔は仮面そのものなので表情は読み取れないが、案外雰囲気でどんな気持ちでいるかは分かった。
(なんだか厄介事から離れたいみたいな気をしていたような……。まぁ、コンビニでマスクマンの好きなココナッツミルクといくらかの食料を買い込んで渡してきたから、食事自体はご機嫌で過ごすだろうな)
「それより明日もまた掘削作業です。今日は慣れない運動でいつもと違う疲労感が襲ってくるはずです。それに対処しておかなければいけません。入浴後は時間を空けておくように。良いですね、ユウキ?」
「へっ? ああ、はい」
 アテナの言葉に空返事する結城だったが、これがいけなかったかもしれないと、数時間後の彼は思い返すことになる。
 一人残った仲間の真意は未だに不明だが、考え過ぎても仕方ないので、結城は車窓から見える景色に意識を向けることにした。
 アテナの運転する車両に揺られながら、結城たちは一路、古屋敷のある谷崎町へと戻っていった。
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