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友宮の守護者編

キュウの予感、千夏のおつかい

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 結城ゆうきたちが地下空間に到達する三十分ほど前。
 金毛稲荷神宮こんもういなりじんぐうの拝殿の奥。そこに祭神であるキュウは自室を構えていた。
 十六畳ほどの広さの室内には、幾らかの本棚と大きめの和箪笥、そしてガラス製のショーケースが置かれていた。
 本棚の中には市販の書籍から古文書、さらには呪いの巻物といった類の物までが整頓され収められている。和箪笥に関しても、ただの着替えが入っているだけである。
 問題はショーケースの方であり、こちらは確実にモザイクが必要な代物だった。シロガネも匹敵するほどの、大人のオモチャが綺麗に並べられていたからだ。割と昔からそういった道具があることをキュウも知っていたが、昨今は技術の発達でかなり面白い物が多いので、キュウはめぼしい品を見つけると、購入してコレクションしていた。
 今日も今日とて、文机に置かれたノートパソコンでTamazonを検索し、十八歳未満閲覧禁止のページを開いていた。
「う~ん……」
 ディスプレイを見ながら、キュウは顎に人差し指を当て、眉根を寄せて悩むように唸っていた。
「……ふむっ、千夏ちなつさ~ん!」
 しばらく考え込んでいたが、間延びした声で住み込みの巫女の名を呼んだ。
「キュウ様、呼んだ?」
 板張りの廊下を軽快に駆けてきた巫女は、襖からひょこりと顔を出した。千夏の部屋も、キュウの部屋とそれほど離れていないところに設えられている。
「ちょっと~、おつかいを頼まれて欲しいんですけど~」
「おつかい?」
「は~い~」
 キュウは黄金色の狐耳をピコピコと動かしながら、右手をヒラヒラと振った。
友宮ともみや家に~、行ってきてほしいんです~。『骨砕き』持って~」
「……それって今から戦をして来いって意味?」
「そうなるかもしれませんし~、そうならないかもしれません~。けど~、友宮家の方から~、ものすご~くイヤな予感がしてるんですよね~」
「友宮って……そういやこの前結城たちが話してたっけなぁ」
「たぶん~、あの犬神さんが話していた~、神降ろしが完成しちゃうんじゃないかな~、って思うんですよね~」
 キュウはハッキリと確信を持てないと言うように小首を傾げた。
「神降ろしって、んな大事おおごとになってたんかよ」
「それで~、ちょっと様子を見てきてほしいんですね~」
 いつもの掴みどころのない口調で緩々と語っているが、こういう時のキュウの予感が外れたことがないことを、千夏はよく知っている。伊達に金毛稲荷神宮で三百年も巫女をしていない。
「わかったよ、キュウ様。ちょこっと行ってくる。その代わり、後でコレクション一つ貸してくれよ? この前の短小野郎が微妙だったせいで、逆に欲求不満になってんだよ」
「いいですよ~。とっておきの~、刺激的なのを~、貸してあげます~」
「ホント!? んじゃ、『骨砕き』用意して行ってくる!」
「あっ、ちょっと待ってくださ~い」
 千夏を呼び止めたキュウは、立ち上がって部屋の隅にある押入れを開けた。
「えっと~……コレがいいですかね~、でもコッチの方がいいですね~」
 しばらく押入れの中身をまさぐっていたが、やがてキュウはその中の一つを取り出した。
「コレを~、結城さんに届けてください~。なんとなく~、会えちゃう気がしますので~」
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