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竜の恩讐編
蝕み その1
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金毛稲荷神宮の本殿の廊下を、媛寿はまだ重い足取りながら、結城がいる客間まで歩いていった。
途中、廊下の端にいたマスクマンとシロガネにすれ違ったが、どちらからも何も言うことはなかった。
二人とも、媛寿に問い質したいのはやまやまではある。
しかし、アテナから『おそらく事情がある』と言い含められていたので、この場は何も言わずに通すことにしていた。
ただ、言葉に出さなくとも、漂っている雰囲気は、如実に意思を伝えてきていた。
マスクマンは『必ず全て聞かせてもらうぞ』、と。
シロガネは『できれば全部話してほしい』、と。
そんな二人の意思を察した媛寿は、廊下の角を足早に回っていった。
歯を噛みしめ、拳を強く握りながら。
客間の障子を開けた媛寿の目に、一番に飛び込んできたのは、結城が眠る布団の前に正座するアテナの背中だった。
アテナが客間にいるのは、先ほど聞いた声の言葉から知っていたが、いざ目の前にすれば流石に媛寿もたじろいでしまう。
入ろうかどうか迷う媛寿に、
「エンジュ、入りなさい」
背を向けたままのアテナがそう言った。
怒りがあるわけではない。むしろどこか沈んだアテナの声色を聞き、媛寿はアテナも自分と同じ気持ちであることを知った。結城を守れなかったことを悔いているのだと。
入室し、障子を静かに閉め、媛寿はアテナの横にすっと並んで座る。
媛寿は視線だけを動かしてアテナの顔を見た。
表情はいつもと変わらず凛としているが、伏せっている結城を見る目は、やはり悲しそうに見える。
媛寿は次に結城を見た。
客間に運び込まれた時よりは落ち着いて眠っているが、それも一時しのぎに過ぎないと媛寿は分かっている。
たとえ怪我がなくとも、結城にはここから精神を苛むであろう現実が待っている。
それを思うと、媛寿は一層辛くなり、膝に置いた拳を握り締めた。
「エンジュ、まだ話してはくれませんか?」
媛寿の様子を見て取ったアテナがそう促すも、
「いえない………………まだ」
媛寿はそれしか絞り出すことしかできなかった。
「……そうですか」
アテナもそれ以上の追求はせず、布団で眠る結城に目を戻した。
「アテナ様、ちょっと……」
客間の障子が開かれ、その隙間からアテナを呼ぶ声がした。
声は『喫茶・砂の魔女』の店主、カメーリアのものだった。
「今は他の些事に構うつもりはありません」
「大事なことですわ。小林くんの容体について」
そう聞いたアテナはゆっくりと立ち上がり、廊下に向かって踵を返した。
客間を出る直前、
「エンジュ、この場は任せます。ユウキのことを」
アテナはそう言って障子を閉め、カメーリアに付いて廊下を歩いていった。
客間で結城と二人きりになった媛寿は、結城の顔を見ながら、また三年前のことを思い出していた。
血溜まりの中に倒れる結城。
硝煙を上げる銃口。
怒りに我を忘れて咆哮する媛寿。
血に塗れ、震えながら言葉を紡ぐ唇。
そして最後に思い浮かんだのは、命を失ったピオニーアの顔だった。
「………………ぴおにーあ」
今は亡きその人物の名を、媛寿は自然と呼んでいた。
「ぴおにーあはえんじゅのこと………………ゆるしてくれる?」
囁くように漏れたその問いに、答えてくれる者は誰もいない。
が、
「うっ」
ほんの吐息程度の声が耳に入り、媛寿はハッと顔を上げた。
「媛……寿……」
「ゆうき!?」
目を開けた結城の顔が、傍らにいる媛寿に力なく向けられていた。
途中、廊下の端にいたマスクマンとシロガネにすれ違ったが、どちらからも何も言うことはなかった。
二人とも、媛寿に問い質したいのはやまやまではある。
しかし、アテナから『おそらく事情がある』と言い含められていたので、この場は何も言わずに通すことにしていた。
ただ、言葉に出さなくとも、漂っている雰囲気は、如実に意思を伝えてきていた。
マスクマンは『必ず全て聞かせてもらうぞ』、と。
シロガネは『できれば全部話してほしい』、と。
そんな二人の意思を察した媛寿は、廊下の角を足早に回っていった。
歯を噛みしめ、拳を強く握りながら。
客間の障子を開けた媛寿の目に、一番に飛び込んできたのは、結城が眠る布団の前に正座するアテナの背中だった。
アテナが客間にいるのは、先ほど聞いた声の言葉から知っていたが、いざ目の前にすれば流石に媛寿もたじろいでしまう。
入ろうかどうか迷う媛寿に、
「エンジュ、入りなさい」
背を向けたままのアテナがそう言った。
怒りがあるわけではない。むしろどこか沈んだアテナの声色を聞き、媛寿はアテナも自分と同じ気持ちであることを知った。結城を守れなかったことを悔いているのだと。
入室し、障子を静かに閉め、媛寿はアテナの横にすっと並んで座る。
媛寿は視線だけを動かしてアテナの顔を見た。
表情はいつもと変わらず凛としているが、伏せっている結城を見る目は、やはり悲しそうに見える。
媛寿は次に結城を見た。
客間に運び込まれた時よりは落ち着いて眠っているが、それも一時しのぎに過ぎないと媛寿は分かっている。
たとえ怪我がなくとも、結城にはここから精神を苛むであろう現実が待っている。
それを思うと、媛寿は一層辛くなり、膝に置いた拳を握り締めた。
「エンジュ、まだ話してはくれませんか?」
媛寿の様子を見て取ったアテナがそう促すも、
「いえない………………まだ」
媛寿はそれしか絞り出すことしかできなかった。
「……そうですか」
アテナもそれ以上の追求はせず、布団で眠る結城に目を戻した。
「アテナ様、ちょっと……」
客間の障子が開かれ、その隙間からアテナを呼ぶ声がした。
声は『喫茶・砂の魔女』の店主、カメーリアのものだった。
「今は他の些事に構うつもりはありません」
「大事なことですわ。小林くんの容体について」
そう聞いたアテナはゆっくりと立ち上がり、廊下に向かって踵を返した。
客間を出る直前、
「エンジュ、この場は任せます。ユウキのことを」
アテナはそう言って障子を閉め、カメーリアに付いて廊下を歩いていった。
客間で結城と二人きりになった媛寿は、結城の顔を見ながら、また三年前のことを思い出していた。
血溜まりの中に倒れる結城。
硝煙を上げる銃口。
怒りに我を忘れて咆哮する媛寿。
血に塗れ、震えながら言葉を紡ぐ唇。
そして最後に思い浮かんだのは、命を失ったピオニーアの顔だった。
「………………ぴおにーあ」
今は亡きその人物の名を、媛寿は自然と呼んでいた。
「ぴおにーあはえんじゅのこと………………ゆるしてくれる?」
囁くように漏れたその問いに、答えてくれる者は誰もいない。
が、
「うっ」
ほんの吐息程度の声が耳に入り、媛寿はハッと顔を上げた。
「媛……寿……」
「ゆうき!?」
目を開けた結城の顔が、傍らにいる媛寿に力なく向けられていた。
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