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竜の恩讐編
真意……
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「RΞ4→、YΔ(どこ行きやがった、媛寿のヤツ)」
カメーリアが借りた空き部屋に戻ってきたマスクマンは、声を荒げこそしないが相当な苛立ちを募らせていた。
「本殿の、どこにも、いない」
遅れて戻ってきたシロガネも、媛寿の姿が見当たらなかったことを報せた。
「DΦ9↓PD(こんな時にどこで何してやがるんだ)」
「クロランもいませんわ! 待たせていた部屋に!」
次に慌てた様子でカメーリアが入ってきた。
「N£……(何だと……)」
「媛寿、まさか……」
カメーリアの言葉を聞いたマスクマンとシロガネは、ただならぬ状況に戦慄したが、
「落ち着くのです、二人とも」
最後に部屋へ入ってきたアテナが、身を強張らせる二人を宥めた。
「エンジュが報復目的で動いただけであるならば、とうに金毛稲荷神宮を出立し、相手の喉元まで迫っていておかしくありません。おそらく別の目的があり、クロランを伴って出たのでしょう」
「RΛ4←!? S⊿2→!?(報復じゃないだと!? じゃあ何のために!?)」
「結城が、あんなことになった、のに?」
驚愕する二人に、アテナはゆっくりと首を横に振った。
「私も真意は量りかねます。普段のエンジュならば、ユウキに危害を加えた者を決して許さず、烈火の如く怒っていたことでしょう。しかし……」
アテナは結城が眠る部屋で見た、媛寿の横顔を思い返した。
烈火どころか、燃え尽き水までかけられた薪のように、消沈した表情を。
「……今は戻るまで待ちましょう。エンジュの目的がどうであれ、ユウキの元に必ず戻ります」
「そういうあんたも随分おとなしいんじゃないか? メガミサマ」
開け放たれていた障子の隙間から、金毛稲荷神宮の巫女、千夏が顔だけを覗かせていた。
「結城があんな目に遭った日には、あんたもそれこそ『神のお怒り』ってな感じでブチ切れて、仇の征伐に完全武装で赴こうってモンじゃないか? なのにえらく静まり返っておとなしいときた。何でだ?」
千夏は口元だけは微笑を浮かべているが、目だけは鋭く、アテナを射抜くような視線を放っていた。
アテナはしばらく沈黙していたが、やがて意を決したように小さく息を吐いた。
「エンジュは『言わない』ではなく、『言えない』と答えました。それはエンジュにとって、他者に決して触れさせたくない事情があるということです。そして、そうまで頑なに口を閉ざす理由は、ユウキに深刻な関わりがあることに他なりません。でなくば、エンジュの言葉も、態度も、説明がつかない」
「そこまでハッキリ言い切れる理由は?」
「同じ女性としての直感です」
アテナの答えを聞き、今度は千夏がしばらく黙っていたが、
「くくく……はは……あはは」
含み笑いから始まり、千夏は大きくなりすぎない程度の声で笑った。
「ははは――――――まさか知恵のメガミサマが『女の勘』を言い出すとはな」
「いけませんか?」
「いや、充分だ。そこまで解ってるんだったら、話しても大丈夫そうだぜ、結城」
千夏が障子の陰から出てくると、千夏に肩を借りた結城もまた一緒に現れた。
「ユウキ!」
「YΘ!(結城!)」
「結城!」
アテナ、マスクマン、シロガネは、まだ苦しそうに俯く結城の元に駆け寄った。
「だ、大丈夫……少し……息苦しいけど……痛かったりは……ないから……」
息も絶え絶えにそう言う結城だったが、痛みはなくとも苦しみが大きいことは明らかだった。
「カ、カメーリアさんの……麻酔の……おかげ……ですね……ありがとう……ございます……」
カメーリアは三角帽の縁で目元を隠しながら、小さく『どういたしまして』とだけ答えた。
結城に使用した麻酔薬は強すぎるために、痛覚どころか全身のほとんどの感覚をも失わせてしまう劇薬に近い代物だった。
それでも、肉体を徐々に壊死させられていく痛みを緩和するには、使わざるをえない措置だった。
うまく壊死の痛みを相殺できたはいいが、これがカメーリアにできる治療の限界だった。
現段階で結城には、これ以上手の施しようがないのだ。
「ユウキ、せめて横になっていなくては」
部屋へ戻らせようとしたアテナを、結城はそっと手を上げて止めた。
「アテナ様、ごめんなさい……でも、ここからのことで……どうしても話しておかなきゃいけないことが……あるんです」
顔を上げた結城の目には、強い意志の力が宿っていた。それが命を懸ける覚悟を決めた者の目であることを、アテナも、マスクマンも、シロガネも、即座に理解した。
「……せめてゆっくり話せる場所に行きましょう、ユウキ」
結城の決意を汲んだアテナは、場所を変えることを提案し、結城に肩を借していた千夏が先行して廊下を歩き出した。
「しかしユウキ、エンジュがまだ戻ってきていません。重要な話なら、せめてエンジュが戻ってから――――――」
「いえ……大丈夫です……」
媛寿のことを思い出したアテナがそう言いかけ、結城が止めた。
「媛寿には……僕がお願いしたんです……伝えてきてほしいって……それに……媛寿は知ってるんです……ピオニーアさんのことは……」
アテナたちに振り向くことなく語る結城の背中は、千夏とともに廊下の角を曲がっていった。
カメーリアが借りた空き部屋に戻ってきたマスクマンは、声を荒げこそしないが相当な苛立ちを募らせていた。
「本殿の、どこにも、いない」
遅れて戻ってきたシロガネも、媛寿の姿が見当たらなかったことを報せた。
「DΦ9↓PD(こんな時にどこで何してやがるんだ)」
「クロランもいませんわ! 待たせていた部屋に!」
次に慌てた様子でカメーリアが入ってきた。
「N£……(何だと……)」
「媛寿、まさか……」
カメーリアの言葉を聞いたマスクマンとシロガネは、ただならぬ状況に戦慄したが、
「落ち着くのです、二人とも」
最後に部屋へ入ってきたアテナが、身を強張らせる二人を宥めた。
「エンジュが報復目的で動いただけであるならば、とうに金毛稲荷神宮を出立し、相手の喉元まで迫っていておかしくありません。おそらく別の目的があり、クロランを伴って出たのでしょう」
「RΛ4←!? S⊿2→!?(報復じゃないだと!? じゃあ何のために!?)」
「結城が、あんなことになった、のに?」
驚愕する二人に、アテナはゆっくりと首を横に振った。
「私も真意は量りかねます。普段のエンジュならば、ユウキに危害を加えた者を決して許さず、烈火の如く怒っていたことでしょう。しかし……」
アテナは結城が眠る部屋で見た、媛寿の横顔を思い返した。
烈火どころか、燃え尽き水までかけられた薪のように、消沈した表情を。
「……今は戻るまで待ちましょう。エンジュの目的がどうであれ、ユウキの元に必ず戻ります」
「そういうあんたも随分おとなしいんじゃないか? メガミサマ」
開け放たれていた障子の隙間から、金毛稲荷神宮の巫女、千夏が顔だけを覗かせていた。
「結城があんな目に遭った日には、あんたもそれこそ『神のお怒り』ってな感じでブチ切れて、仇の征伐に完全武装で赴こうってモンじゃないか? なのにえらく静まり返っておとなしいときた。何でだ?」
千夏は口元だけは微笑を浮かべているが、目だけは鋭く、アテナを射抜くような視線を放っていた。
アテナはしばらく沈黙していたが、やがて意を決したように小さく息を吐いた。
「エンジュは『言わない』ではなく、『言えない』と答えました。それはエンジュにとって、他者に決して触れさせたくない事情があるということです。そして、そうまで頑なに口を閉ざす理由は、ユウキに深刻な関わりがあることに他なりません。でなくば、エンジュの言葉も、態度も、説明がつかない」
「そこまでハッキリ言い切れる理由は?」
「同じ女性としての直感です」
アテナの答えを聞き、今度は千夏がしばらく黙っていたが、
「くくく……はは……あはは」
含み笑いから始まり、千夏は大きくなりすぎない程度の声で笑った。
「ははは――――――まさか知恵のメガミサマが『女の勘』を言い出すとはな」
「いけませんか?」
「いや、充分だ。そこまで解ってるんだったら、話しても大丈夫そうだぜ、結城」
千夏が障子の陰から出てくると、千夏に肩を借りた結城もまた一緒に現れた。
「ユウキ!」
「YΘ!(結城!)」
「結城!」
アテナ、マスクマン、シロガネは、まだ苦しそうに俯く結城の元に駆け寄った。
「だ、大丈夫……少し……息苦しいけど……痛かったりは……ないから……」
息も絶え絶えにそう言う結城だったが、痛みはなくとも苦しみが大きいことは明らかだった。
「カ、カメーリアさんの……麻酔の……おかげ……ですね……ありがとう……ございます……」
カメーリアは三角帽の縁で目元を隠しながら、小さく『どういたしまして』とだけ答えた。
結城に使用した麻酔薬は強すぎるために、痛覚どころか全身のほとんどの感覚をも失わせてしまう劇薬に近い代物だった。
それでも、肉体を徐々に壊死させられていく痛みを緩和するには、使わざるをえない措置だった。
うまく壊死の痛みを相殺できたはいいが、これがカメーリアにできる治療の限界だった。
現段階で結城には、これ以上手の施しようがないのだ。
「ユウキ、せめて横になっていなくては」
部屋へ戻らせようとしたアテナを、結城はそっと手を上げて止めた。
「アテナ様、ごめんなさい……でも、ここからのことで……どうしても話しておかなきゃいけないことが……あるんです」
顔を上げた結城の目には、強い意志の力が宿っていた。それが命を懸ける覚悟を決めた者の目であることを、アテナも、マスクマンも、シロガネも、即座に理解した。
「……せめてゆっくり話せる場所に行きましょう、ユウキ」
結城の決意を汲んだアテナは、場所を変えることを提案し、結城に肩を借していた千夏が先行して廊下を歩き出した。
「しかしユウキ、エンジュがまだ戻ってきていません。重要な話なら、せめてエンジュが戻ってから――――――」
「いえ……大丈夫です……」
媛寿のことを思い出したアテナがそう言いかけ、結城が止めた。
「媛寿には……僕がお願いしたんです……伝えてきてほしいって……それに……媛寿は知ってるんです……ピオニーアさんのことは……」
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