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竜の恩讐編
三年前にて…… その1
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結城の治療にあてがわれた部屋には、結城をはじめ、アテナ、マスクマン、シロガネ、千夏、キュウが集まり、車座になって座っていた。
「……三年くらい前になるんですが」
誰もが固唾を飲む思いでいる中、結城が静かに口火を切った。
「アテナ様と会うまでは、僕たちは三人で依頼を受けてました」
「三人?」
そう反応したアテナに、結城は小さく頷いた。
「僕と、媛寿と、ピオニーアさんの、三人で……」
三年前。
とあるテナントビルの壁面を、結城と媛寿は強力な登山用ロープを使い、音もなく降下していた。ロープの先端に括りつけた金庫とともに。
二人がようやく着地した頃、テナントビルの内部は急に騒がしくなった。
「も、もしかして、もうバレた!?」
「ゆうき! ごー!」
荷物運び用のカートに金庫を固定した結城と媛寿は、全速力でカートを押し、ビルの駐車場を突っ切っていった。
「待てゴラァ!」
「金庫返せクソがぁ!」
ビル内から出てきた者たちは、逃亡する結城と媛寿に怒号を放つ。
そして駐車場に停めてあった数台の車に分乗すると、二人を追うべくエンジンをかけ、急発進した――――――――――まではよかったが、
「どわあっ!?」
「ぐあわっ!?」
10メートルを走る間もなく、数台の車はバランスを大きく崩して横転した。
それも並列して停車していた車が押し合いへし合いした挙句という、まるで押しくらまんじゅうを失敗したような有様で。
それもそのはず。車の車軸は全て、一本の強靭なワイヤーで結ばれ、一繋ぎにされてしまっていたからだ。
車から這い出てきた者たちは、何が起こったか分からないという顔をしていたが、目の前に舞い降りてきた紙面を見てさらにワケが分からなくなった。
『ごくろーさん』とだけ書かれた紙を残し、結城と媛寿は見事に逃げ果せた。
「んぐ……んぐ……ぷっはぁ~」
フローターを増設したエンジン付きゴムボートに載__の__#せた金庫に座り、水平線から昇る朝日を背に、媛寿はポロナミンCを一本飲み干した。
「ひとしごとのあとは、ぽろなみんがうまい! げんきばくはつ!」
「ふ、ふっへ~……」
上機嫌で空き瓶を天にかざす媛寿とは対照的に、結城は金庫にもたれかかって疲労困憊といった様子だった。
「ゆうき、どしたの? ぽろなみんのむ?」
「い、いや、ありがと媛寿。ちょっと、いろいろ、疲れて……」
夜のビルに侵入し、金庫をかっさらい、恐い人たちに追いかけられそうになり、必死の思いで川辺に停めてあったボートに乗って海まで出た時点で、結城の緊張の糸はぷっつりと切れた。
「ゆうき、そんなんじゃこくえいかじののだいきんこぬすめない」
「ちょ、ちょい待ち、媛寿。それはホントに犯罪――――――」
映画から影響を受けた媛寿の台詞に突っ込もうとした結城のポケットから、世界的な大怪盗の三代目のテーマソングを元にした着信メロディが鳴った。
携帯電話の画面を確認し、結城は電話の相手に応答した。
「もしもし」
「おっ、小林くん。例のヤツうまくいった?」
結城はボートに積んである金庫を確認し、ちょっと困った顔をした後、
「……ええ、何とか持ち出しましたよ」
と、少し苦々しげに答えた。
「おお! そっかそっか! ありがとね! 連中なっかなか尻尾を掴ませなくってさ。オレのダウジングで証拠の場所は分かってたんだけど、何にもなしに警察って踏み込むことできないからさ」
結城と媛寿が少し前に知り合った、ダウジングを得意とする刑事、九木からの依頼で、結城たちは特殊詐欺グループのアジトから、証拠となる書類や物品を持ち出してくることになっていた。
相手が相手とはいえ、ほとんど泥棒に近い内容なので、結城としては断りたいところだったが、媛寿が俄然やる気になってしまったので、なし崩し的に受けることになってしまった。というより、媛寿と一緒に依頼を受けるようになってからは、大抵の場合、結城はなし崩し的に依頼を受けてしまっているわけだが。
「じゃ、予定通りそのまま水上警察の船と合流して、証拠の品を渡しちゃって。ちゃんと話つけてあるから」
結城の気疲れをよそに、言うだけ言って電話を切った九木に、微妙に恨めしげな気持ちが湧いてきそうになったが、
「ふ~~~……」
そうしてしまうともっと疲れそうだったので、結城は大きく息を吐いて携帯電話を収めた。
「このまま警察の船と合流だってさ。それでこの依頼はお終い。あとは九木刑事たちがグループを何とかしてくれるよ」
「ゆうきゆうき! つぎはにせさつづくりのはくしゃくととけいとうでだいばとる――――――」
「しないしない。第一、偽札つくってる伯爵なんて、そう簡単にいないよ、媛寿。次に頼まれてたことは確か……」
朝日に照らされる空を見上げながら、結城は次の依頼内容を思い出していた。
ぼんやりと記憶に浮かんできたのは、丁寧な字で宛先が書かれた白い封筒だった。
そして送り元は、『聖フランケンシュタイン大学病院』。
「……三年くらい前になるんですが」
誰もが固唾を飲む思いでいる中、結城が静かに口火を切った。
「アテナ様と会うまでは、僕たちは三人で依頼を受けてました」
「三人?」
そう反応したアテナに、結城は小さく頷いた。
「僕と、媛寿と、ピオニーアさんの、三人で……」
三年前。
とあるテナントビルの壁面を、結城と媛寿は強力な登山用ロープを使い、音もなく降下していた。ロープの先端に括りつけた金庫とともに。
二人がようやく着地した頃、テナントビルの内部は急に騒がしくなった。
「も、もしかして、もうバレた!?」
「ゆうき! ごー!」
荷物運び用のカートに金庫を固定した結城と媛寿は、全速力でカートを押し、ビルの駐車場を突っ切っていった。
「待てゴラァ!」
「金庫返せクソがぁ!」
ビル内から出てきた者たちは、逃亡する結城と媛寿に怒号を放つ。
そして駐車場に停めてあった数台の車に分乗すると、二人を追うべくエンジンをかけ、急発進した――――――――――まではよかったが、
「どわあっ!?」
「ぐあわっ!?」
10メートルを走る間もなく、数台の車はバランスを大きく崩して横転した。
それも並列して停車していた車が押し合いへし合いした挙句という、まるで押しくらまんじゅうを失敗したような有様で。
それもそのはず。車の車軸は全て、一本の強靭なワイヤーで結ばれ、一繋ぎにされてしまっていたからだ。
車から這い出てきた者たちは、何が起こったか分からないという顔をしていたが、目の前に舞い降りてきた紙面を見てさらにワケが分からなくなった。
『ごくろーさん』とだけ書かれた紙を残し、結城と媛寿は見事に逃げ果せた。
「んぐ……んぐ……ぷっはぁ~」
フローターを増設したエンジン付きゴムボートに載__の__#せた金庫に座り、水平線から昇る朝日を背に、媛寿はポロナミンCを一本飲み干した。
「ひとしごとのあとは、ぽろなみんがうまい! げんきばくはつ!」
「ふ、ふっへ~……」
上機嫌で空き瓶を天にかざす媛寿とは対照的に、結城は金庫にもたれかかって疲労困憊といった様子だった。
「ゆうき、どしたの? ぽろなみんのむ?」
「い、いや、ありがと媛寿。ちょっと、いろいろ、疲れて……」
夜のビルに侵入し、金庫をかっさらい、恐い人たちに追いかけられそうになり、必死の思いで川辺に停めてあったボートに乗って海まで出た時点で、結城の緊張の糸はぷっつりと切れた。
「ゆうき、そんなんじゃこくえいかじののだいきんこぬすめない」
「ちょ、ちょい待ち、媛寿。それはホントに犯罪――――――」
映画から影響を受けた媛寿の台詞に突っ込もうとした結城のポケットから、世界的な大怪盗の三代目のテーマソングを元にした着信メロディが鳴った。
携帯電話の画面を確認し、結城は電話の相手に応答した。
「もしもし」
「おっ、小林くん。例のヤツうまくいった?」
結城はボートに積んである金庫を確認し、ちょっと困った顔をした後、
「……ええ、何とか持ち出しましたよ」
と、少し苦々しげに答えた。
「おお! そっかそっか! ありがとね! 連中なっかなか尻尾を掴ませなくってさ。オレのダウジングで証拠の場所は分かってたんだけど、何にもなしに警察って踏み込むことできないからさ」
結城と媛寿が少し前に知り合った、ダウジングを得意とする刑事、九木からの依頼で、結城たちは特殊詐欺グループのアジトから、証拠となる書類や物品を持ち出してくることになっていた。
相手が相手とはいえ、ほとんど泥棒に近い内容なので、結城としては断りたいところだったが、媛寿が俄然やる気になってしまったので、なし崩し的に受けることになってしまった。というより、媛寿と一緒に依頼を受けるようになってからは、大抵の場合、結城はなし崩し的に依頼を受けてしまっているわけだが。
「じゃ、予定通りそのまま水上警察の船と合流して、証拠の品を渡しちゃって。ちゃんと話つけてあるから」
結城の気疲れをよそに、言うだけ言って電話を切った九木に、微妙に恨めしげな気持ちが湧いてきそうになったが、
「ふ~~~……」
そうしてしまうともっと疲れそうだったので、結城は大きく息を吐いて携帯電話を収めた。
「このまま警察の船と合流だってさ。それでこの依頼はお終い。あとは九木刑事たちがグループを何とかしてくれるよ」
「ゆうきゆうき! つぎはにせさつづくりのはくしゃくととけいとうでだいばとる――――――」
「しないしない。第一、偽札つくってる伯爵なんて、そう簡単にいないよ、媛寿。次に頼まれてたことは確か……」
朝日に照らされる空を見上げながら、結城は次の依頼内容を思い出していた。
ぼんやりと記憶に浮かんできたのは、丁寧な字で宛先が書かれた白い封筒だった。
そして送り元は、『聖フランケンシュタイン大学病院』。
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