荒雲勇男と英雄の娘たち

木林 裕四郎

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竜殺しの忘れ形見

四神角 その9

「ぬんっ!」
 ビーはさやから黄金の短剣を抜き放つと、
「とおぉりゃああぁ!」
 まだあたまを揺さぶられたままの四神角ししんかくに突撃した。
「ウゥ……オオォ!」
 四神角もまた、向かってくるビーに気付き、まだ脳震盪のうしんとうが続いているにもかかわらず咆哮ほうこうする。
(絶対に退がらない! 背中も向けない!)
 ひづめで踏みつぶされそうになったビーだが、その心に恐怖はなく、むしろ勇男いさおやエーラを傷付けられた怒りに満ちあふれていた。
 四神角がよろめきながらもつのを振るおうとしている動作を見ても、ビーは突撃する足をゆるめることはしない。
「おおおお!」
「オオオオ!」
 小さな少女と巨大な鹿の雄叫おたけびが重なる。
 振るわれた短剣と角が激突し、ビーの膂力りょりょくと短剣の頑丈さがわずかに勝ったのか、角に小さなひびが入った。
「ぐうぅ――――――わああぁ!」
 が、単純な重量ではかなわず、ビーは角の振りに負けて吹き飛ばされた。
「ビー! これを掴め!」
 ビーが飛ばされる寸前、エーラは手に持っていたつたをビーに投げ渡した。
「ふんぬっ!」
 咄嗟とっさにビーは蔦を掴み、そのまま宙へと舞い上がった。
「グゥ!?」
 四神角にとって、蔦を持ったビーを吹き飛ばしてしまったのは最大の誤算だった。
 蔦はまだ四神角の脚の一本に巻きついていたため、ビーが吹き飛ばされれば蔦も引っ張られてしまう。
 よって、
「グガァ!?」
 再び転ばされてしまうのは自明の理だった。
「やったぁ! わっ!? わわわ!」
 四神角に一矢報いたのも束の間、ビーは空中から一気に落下し始めた。
「お、落ちる~!」
「ビー!?」
 着地のことまでは考えていなかったせいで慌てるビーとエーラ。
「うおおお!」
 ビーが落下するであろう地点に、いつの間にか立ち上がっていた勇男が走り、滑り込もうとする。
「どぶはっ!」
 ギリギリでビーの下に滑り込んだ勇男は、ビーを胴体で受け止めて盛大に土煙を立てた。
「イサオ!? 大丈夫!?」
 すぐに勇男の上から飛び退き、無事を確認するビー。
「ごほっ! だ、大丈夫だ、ビー……」
「よ、よかった~。ビー、重くなかった?」
「あ、ああ……」
(むしろその短剣の方が重かった……)
 勇男の無事にビーが胸をで下ろしていると、
「ビー! 四神角の周りを走って!」
 ミトラの声でビーはハッと思い出した。
「そうだった。ちょっと待っててね、イサオ」
 左手に持った蔦を強く握り締め、ビーは四神角に向き直った。
「ビー、四神角あいつでおいしい煮込み料理つくるから」
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