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16章
99.仕込まれた呪い
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朝。寝ずにルーパルドと雑談をして過ごした。
いつもなら起きている時間だが、イナトはまだ眠ったまま。念の為アデルからもらった夢避けの香を焚いている。
セヴァスチャンにどこで仕入れたワインなのか、そのワインは未開封だったのかなど詳しく調べてもらっている。
「戻った。やはり渡者の名簿にあんなやつはいなかった」
念のため名簿を確認したらしいが該当なし。また、渡者を統括している人も最近新しく入った者はいないため、偽物だろうと話していたと言う。
「偽物の渡者が紛れて私やイナトの命を狙ってるってこと?」
「そうだろうな。ただ、なぜ渡者を敵に回そうとしているのかは理解できないがな」
以前から渡者は一部界隈で嫌われていることはあったらしい。だが、元主人が風評を広めることはあっても渡者になりすますことはなかったのだそうな。
「謎ばっかり増えていくなぁ」
消えた討伐対象、偽の渡者。私を何度も殺すよう依頼されていることも気になる。
死ぬデメリットはないと思っていたが、知らないだけでよくないことでもあるのだろうか。それとも死に戻りを利用されているのだろうか。
そんなことを考えていると突然現れたアデル。
「イナトが起きないと聞いて来たぞ」
「アデルさん! 詳細は説明した通りなんですけど、呪いの可能性ってありそうですか?」
イナトの名前で伝書紙をアデルに送っていたのだ。
伝書局だとどうしても送られるまでに時間がかかってしまう。念の為にとイナトから伝書紙の送り方を教えてもらっていてよかった。
アデルは眠っているイナトを眼帯を取りじっくりと眺めた。時々、目を無理やりこじ開けて見たり、口の中を覗いたり。
熟考した後、アデルはみっちりと詰まった鞄から瓶を取り出しイナトの唾液を取った。薬品をかけて様子を見て、最終的には眉間に皺を寄せた。
「これはまごうことなき呪いだ。しかし解呪魔法はまだ完成していない。リン、お前の出番だ」
「まあ、そうなりますよね……」
唾液か血か。
私がどちらにするべきか悩んでいると、アデルは血を勧めてきた。私が提供したもので実験をしたところ、血の方が呪いの解けが早かったらしい。それが分かっただけでも大きな進歩だ。
「どのくらい血を飲ませればいいんですか?」
「この注射器ならこの線の部分までだな」
高さ3センチ、横1センチくらいのサイズ感だ。ちなみに、唾液となるとその3倍くらいは必要になる可能性が高いらしい。可能性というのは、私が唾液提供を渋ったせいで正確に測れていないと嫌味っぽく言われた。
とりあえず唾液については無視。アデルが用意してくれた注射器で血を抜きそのままイナトの口へ。自分の血が人の口に入っていく様子を見るのは、なんだか不気味だ。
すべてイナトの口に私の血が注ぎ込まれた。
「ワタシはもう戻るぞ。数十分もすれば起きるだろう。リン、また近々唾液と血の提供を頼む」
「ありがとうございました。近いうちに行きます」
呪いの元凶がわかればそれも持ってくるように。そう言い残してアデルは早々に帰っていった。毎度雑談もなくさっさと帰っていく。かなりの仕事人間だ。
「あの人、呪いのことだとフットワーク軽いですよねぇ」
あくびをしながらルーパルドはブラックコーヒーを一口飲む。
「あとは起きるのを待つだけですし、のんびり待ちましょう。もし眠いなら寝てもいいですよ。俺も渡者も寝ないのには慣れてますし」
「大丈夫。イナトのことが心配だし起きてるよ」
そう言えば、「じゃ、3人で団長の悪口でも話してましょうか」と冗談混じりに笑い、イナトに直してほしいことをルーパルドは話し始めたのだった――
「僕は一体……」
「あ、イナト起きた」
「おはようございます、団長。寝坊ですよ」
時計を指さすと、イナトは目を見開き慌てて体を起こした。
「申し訳ございません! すぐに出発の準備を……!」
「落ち着いてイナト。イナトは呪いで眠ってたんだよ」
イナトが呪われていたこと、まだ確定ではないがワインに呪いが仕込まれていた可能性の話をした。呪いは私の血で解呪したことも話した。
するとイナトは「また呪いか」とうんざりした表情で呟いた。
「ご心配をおかけしました。救世主様の血をいただいてしまうなど……」
「気にしなくていいよ。それよりも、大丈夫? 夢見たりした?」
「夢は……見ました。偽の救世主様と会って"世界を救わなければ私とずっと一緒に旅ができるよ"と言われましたね」
「私が言わなさそうな発言だね」
「はい。なのですぐ偽物だとわかりました」
イナトは情報を漏らさないように適当に偽の私の相手をして時間を潰していたらしい。だが、偽とはいえ見た目は私。私に嘘をついたりあしらったりしている気がして心苦しかったと吐露。気にしなくてもいいのにと言いたいところだが、私も似た経験をしているだけに返しにくい。
「そういえば突然その後目の前が暗くなり意識を失いましたね」
「なるほど。救世主さまが焚いてくれた夢避けの香のおかげかもしれませんね」
ルーパルドはイナトのそばに置いていた香を見つめて頷いた。香の存在に気づいたイナトは、慌てて香の蓋を閉め火を消した。
「これは高価な物なんですよ! 僕なんかのために使わないでご自身のためにお使いください」
「大丈夫だよ。私は皆と違って死に戻れるんだし。……夢の中で死んだらどうなるんだろう?」
「試さないでくださいね?」
「やっぱだめ?」
「当たり前でしょう。死に戻れるから自分の命は軽いなんてこと、言わないでください。大体――」
「お話中失礼します! ワインに呪いを仕込んだ者がわかりました!」
寝起きだというのにイナトの説教が始まりそうなところで、セヴァスチャンが慌てた様子で扉を開けた。
ナイスタイミングだ。イナトは不服そうだったけど。
いつもなら起きている時間だが、イナトはまだ眠ったまま。念の為アデルからもらった夢避けの香を焚いている。
セヴァスチャンにどこで仕入れたワインなのか、そのワインは未開封だったのかなど詳しく調べてもらっている。
「戻った。やはり渡者の名簿にあんなやつはいなかった」
念のため名簿を確認したらしいが該当なし。また、渡者を統括している人も最近新しく入った者はいないため、偽物だろうと話していたと言う。
「偽物の渡者が紛れて私やイナトの命を狙ってるってこと?」
「そうだろうな。ただ、なぜ渡者を敵に回そうとしているのかは理解できないがな」
以前から渡者は一部界隈で嫌われていることはあったらしい。だが、元主人が風評を広めることはあっても渡者になりすますことはなかったのだそうな。
「謎ばっかり増えていくなぁ」
消えた討伐対象、偽の渡者。私を何度も殺すよう依頼されていることも気になる。
死ぬデメリットはないと思っていたが、知らないだけでよくないことでもあるのだろうか。それとも死に戻りを利用されているのだろうか。
そんなことを考えていると突然現れたアデル。
「イナトが起きないと聞いて来たぞ」
「アデルさん! 詳細は説明した通りなんですけど、呪いの可能性ってありそうですか?」
イナトの名前で伝書紙をアデルに送っていたのだ。
伝書局だとどうしても送られるまでに時間がかかってしまう。念の為にとイナトから伝書紙の送り方を教えてもらっていてよかった。
アデルは眠っているイナトを眼帯を取りじっくりと眺めた。時々、目を無理やりこじ開けて見たり、口の中を覗いたり。
熟考した後、アデルはみっちりと詰まった鞄から瓶を取り出しイナトの唾液を取った。薬品をかけて様子を見て、最終的には眉間に皺を寄せた。
「これはまごうことなき呪いだ。しかし解呪魔法はまだ完成していない。リン、お前の出番だ」
「まあ、そうなりますよね……」
唾液か血か。
私がどちらにするべきか悩んでいると、アデルは血を勧めてきた。私が提供したもので実験をしたところ、血の方が呪いの解けが早かったらしい。それが分かっただけでも大きな進歩だ。
「どのくらい血を飲ませればいいんですか?」
「この注射器ならこの線の部分までだな」
高さ3センチ、横1センチくらいのサイズ感だ。ちなみに、唾液となるとその3倍くらいは必要になる可能性が高いらしい。可能性というのは、私が唾液提供を渋ったせいで正確に測れていないと嫌味っぽく言われた。
とりあえず唾液については無視。アデルが用意してくれた注射器で血を抜きそのままイナトの口へ。自分の血が人の口に入っていく様子を見るのは、なんだか不気味だ。
すべてイナトの口に私の血が注ぎ込まれた。
「ワタシはもう戻るぞ。数十分もすれば起きるだろう。リン、また近々唾液と血の提供を頼む」
「ありがとうございました。近いうちに行きます」
呪いの元凶がわかればそれも持ってくるように。そう言い残してアデルは早々に帰っていった。毎度雑談もなくさっさと帰っていく。かなりの仕事人間だ。
「あの人、呪いのことだとフットワーク軽いですよねぇ」
あくびをしながらルーパルドはブラックコーヒーを一口飲む。
「あとは起きるのを待つだけですし、のんびり待ちましょう。もし眠いなら寝てもいいですよ。俺も渡者も寝ないのには慣れてますし」
「大丈夫。イナトのことが心配だし起きてるよ」
そう言えば、「じゃ、3人で団長の悪口でも話してましょうか」と冗談混じりに笑い、イナトに直してほしいことをルーパルドは話し始めたのだった――
「僕は一体……」
「あ、イナト起きた」
「おはようございます、団長。寝坊ですよ」
時計を指さすと、イナトは目を見開き慌てて体を起こした。
「申し訳ございません! すぐに出発の準備を……!」
「落ち着いてイナト。イナトは呪いで眠ってたんだよ」
イナトが呪われていたこと、まだ確定ではないがワインに呪いが仕込まれていた可能性の話をした。呪いは私の血で解呪したことも話した。
するとイナトは「また呪いか」とうんざりした表情で呟いた。
「ご心配をおかけしました。救世主様の血をいただいてしまうなど……」
「気にしなくていいよ。それよりも、大丈夫? 夢見たりした?」
「夢は……見ました。偽の救世主様と会って"世界を救わなければ私とずっと一緒に旅ができるよ"と言われましたね」
「私が言わなさそうな発言だね」
「はい。なのですぐ偽物だとわかりました」
イナトは情報を漏らさないように適当に偽の私の相手をして時間を潰していたらしい。だが、偽とはいえ見た目は私。私に嘘をついたりあしらったりしている気がして心苦しかったと吐露。気にしなくてもいいのにと言いたいところだが、私も似た経験をしているだけに返しにくい。
「そういえば突然その後目の前が暗くなり意識を失いましたね」
「なるほど。救世主さまが焚いてくれた夢避けの香のおかげかもしれませんね」
ルーパルドはイナトのそばに置いていた香を見つめて頷いた。香の存在に気づいたイナトは、慌てて香の蓋を閉め火を消した。
「これは高価な物なんですよ! 僕なんかのために使わないでご自身のためにお使いください」
「大丈夫だよ。私は皆と違って死に戻れるんだし。……夢の中で死んだらどうなるんだろう?」
「試さないでくださいね?」
「やっぱだめ?」
「当たり前でしょう。死に戻れるから自分の命は軽いなんてこと、言わないでください。大体――」
「お話中失礼します! ワインに呪いを仕込んだ者がわかりました!」
寝起きだというのにイナトの説教が始まりそうなところで、セヴァスチャンが慌てた様子で扉を開けた。
ナイスタイミングだ。イナトは不服そうだったけど。
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