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王都の異変
しおりを挟むアッサルム王国の王都メイヴァインは、何処よりも大きな都であり、観光客も多く、活気に満ちていた。
王城近くでは高級な店が建ち並び、貴族や王族御用達の店が軒を連ねている。
王城から離れて行くと、中流家庭の人達が赴く店が増えていき、更に離れて行くと庶民的な店が多くなってくる。
その全てを踏まえて王都は華やかであり、その煌びやかさは何処にも負けないと言われている。
そんな王都が様変わりしたのは6年程前だった。
店が変わった訳ではない。客層が変わった訳でもない。変わったのはそこに住まう人々だった。
皆が無表情であり、心を持たない人形のような状態でいる。ただそこで働き、生活をする、といった状態だ。
観光地として知られていたその場所が、今は誰も寄り付かない。活気が無いのだ。他所から来た者は、その異様な雰囲気に戸惑ってしまう。何が悪い訳ではない。が、人間味が感じられないのだ。
話し掛けると答えはちゃんと返ってくる。けれど、そこに人の温かみが無いように思う。それには違和感しか感じられず、客足は遠退いていく。
しかし、そこに住まう人の生活は変わらない。ただ流れるように生きていく、といった状態だった。
この異変をアッサルム王国国王、フェルディナン・ダルクヴァイラーも勿論把握していた。その様子をフェルディナン自ら見に行ったくらいだ。
国王が赴いた店で対応する人々の目はどれも虚ろな状態だった。無礼を働く訳でもなく、しかし国王が来たというのにたじろぐ事もなく、礼儀正しく淡々と業務をこなしている、といった感じだった。
そうであっても特別何かが変わる事はない。反乱が起きる訳でもないし、物流が滞る訳でもない。税金はちゃんと納めるし、何ら問題はないのだ。
だからこの状況が良いのか悪いのか、フェルディナンはその判断はなかなかつかないでいた。
ただ一つ、変わるのだとすれば。
フューリズが姿を見せた時にだけ、皆が笑うのだ。
フューリズの元へ歩み寄り、嬉しそうに近づいていく。フューリズが何か話し掛けると、神にでもお告げを貰ったかの如く、歓喜に打ちひしがられるのだ。
しかし目は笑っていなかった。何かを見据えているような目をしている。その事には誰も気づいてはいないのだが。
そして、フューリズの意に反する者への体罰が行われたとしても、誰もそれに抵抗しようとも反論しようともしない。されるがままになり、容易く受け入れる。
そんな異様な状態であっても、特段何か不具合がある訳ではない。だからフェルディナンは何も出来ずにいた。何をどうすれば良いのかも分かってはいなかった。
もしかしてこれが慈愛の女神の力なのかと感じてしまう程だった。
しかし不可解な事がある。それは王城に住まう者達にはこの現象は起きていないのだ。
いや、王都へ行った者達は、行く時はいつもと同じ状態で行くのだが、帰ってきた時は都にいる者と同じような状態になっている。
虚ろな目をして無表情で、心ない人形のようになって帰ってくるのだ。
それが翌朝には元に戻っていて、その時の事は覚えているが、何故か感情を出せなかったと語っている。そんな不可解な現象がもう6年程続いていたのだ。
そしてこの6年間、フェルディナンは慈愛の女神の文献を調べさせ、フューリズと同じ日に生まれた赤子の行方を探させていたのだが、もう一人の赤子は一向に見つからなかった。
アメルハウザー家にいた魔女の行方も分からず、暗礁に乗り上げている状態だった。
それよりも気掛かりな事がある。それは、慈愛の女神の生まれ変わりの存在が他国に知られたということだ。
それはアッサルム王国もしている事だが、他国も各国に諜報員を派遣していて、様々な情報を入手できるように動かせている。
フューリズは王都以外にも、近隣の街や村にも赴くようになっていた。勿論、それを許可等してはいない。
言っても聞かない事に仕方なく思い、フェルディナンは密かに暗部を動かし護衛をさせ、情報を得ていた。
フューリズがそうするのは、ただ自分の世界を広げたかっただけのようだ。それまで、王城の一角にある邸の中だけの生活という狭い世界を生きてきた。それに嫌気がさし、誰もが自分に従うようになってから、フューリズは例え王に止められようとも、自分の行きたい場所に行く事にしたのだ。
王は苦言を呈すが、だからと言ってフューリズを監禁したりはしない。そうすれば幸せを感じなくなるのを知っているからだ。
それが分かってからは、フューリズは思うがままに生きてきた。誰もが自分に従い、敬う。そんな中で生きてきて、自分を抑え込むなんて事は、フューリズには当然出来る筈もなかった。
そうやって自分の行動範囲を広げて行くが、フューリズはそれでも満たされなかった。
誰もが同じように従い敬う姿に、辟易していたのだ。
だが、時々見掛けるフューリズに耐性を持っている者には、苛立ちしか覚えず、容赦なくその命を奪っていった。
耐性を持つ者は多くは魔力や能力の高い者で、それを自覚していない場合も多かった。そういう者は、見付かれば王城に強制的に連れていかれるからだ。
だから、耐性を持つ者は大概がまだ自覚のない幼い子供だった。そんな子供にさえ、フューリズは手をかける事を厭わなかった。
そんな事を日々しているから、各地にいる他国の諜報員がその異様さに気づかない事はなかったのだ。
だからフェルディナンは困っていた。もし、耐性がある他国の者がフューリズを拐ってしまえば、慈愛の女神の加護が得られなくなってしまう。そうなる前に何とか手を打たなければならないと考えていた。
幸いとでも言うのか、フューリズはヴァイスと仲睦まじく過ごしている。
ヴァイスといる間だけは、フューリズはただの女の子に見えるのだ。そして、ヴァイスはもとより能力も魔力も高いことから、フューリズに侵される事はなかったが、ヴァイスはフューリズを婚約者として好意を持っていたから、フューリズに苦言を呈する事等なかった。
それがフューリズには心地よかったのだ。
まだ早いとは思ったが、フェルディナンは決心する。
ヴァイスとフューリズの婚姻を結ばせる事にしたのだ。
それはフューリズが成人する日。15歳の誕生日に行うことに決定された。
この世界では15歳を成人と見なし、それから親の庇護下から外れるとされている。だからその日に、結婚式をする事にしたのだ。
そしてそれは、フューリズの邸から王城へ移らせる口実にもなる。フェルディナンはフューリズを監視下に置きたかったのだが、その理由付けに婚姻を結ばせる事が丁度良かったのだ。
これにはフューリズ自身が前向きに捉えており、嫌がる事なく受け入れたのだった。
王城であればフューリズに従う者も少ない。もとより魔力や能力が高い者が貴族や王族となっている歴史がある事から、フューリズに耐性を持つ者が多いのだ。
もしフューリズに従ってしまっても、翌日には王城であれば何故か元に戻って自我を取り戻す。だからここに住まわせるのが丁度良いと思えたのだ。
そんなフェルディナンの思惑の中、ヴァイスとフューリズの結婚式は一週間後と迫っていた。
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