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我が力に
しおりを挟むフューリズは捕らえられてから牢獄へ送られる事なく、結界を張られた小部屋に閉じ込められた状態となっていた。
フューリズのいる部屋は地下にあって、陽が射さない場所だった。
それは奇しくも、母親の魔女がアルメハウザー邸に閉じ込められていた時と同じような状態だった。
強く結界を張ってはいてもその近くは 瘴気が立ち込めてるようで、普通の人は近寄る事が困難な状態となっている為、その地下一帯にはフューリズだけがそこで生活をしている。
小部屋とは言え、そこで生活するには充分な設備が整っている。
地下へ続く階段付近にある部屋にナギラスとリシャルトは泊まっている。
元々この地下にある部屋は、戦争等で攻め込まれた時に王族が逃げ込む場所となっていて、階段付近にある部屋は騎士達の部屋となっていたが、そこが使われた事は今まで一度も無かった。
今までフューリズが行ってきた残虐な行為や、王太子であったヴァイスを殺害した事を考えればこれでも優遇されている筈なのだが、勿論そんな事はフューリズに通用しなかった。
ずっと自分は不幸だと思っていた。
なに不自由ない生活をしていても、母親は自分を産んですぐに亡くなり、父親とは離され、邸から自由に出ることも出来ず、自分が本当に望むことは何一つ叶えられていないと思っていた。
だから少しくらい我儘を言うのは普通の事だと思っていたし、自分は特別な存在だから許されるのは当然だと思っていた。
慈愛の女神の生まれ変わりだと物心つく前から言われ続けてきて、何の自覚もないまま周りに担ぎ上げられていた。
だからそれに便乗しただけだ。それの何が悪いのか。
それなのに、あろうことか慈愛の女神の生まれ変わりではないとか言われる始末。勝手にそう言い出して自由を奪い、そうでなかったからと言ってこんな所に閉じ込めて、なぜこうも自分は虐げられなければならないのか。
そんな理不尽な状況に、フューリズは納得する筈もなかった。
ここには強力な結界が張られてある。これは常駐している結界術師が張ったものでは無いことはすぐに分かった。
それよりも強力であり、フューリズの力を押さえ込める程の術。神聖魔法と呼ばれる光属性の魔法で結界は張られていたのだ。
それは預言者ナギラスの息子、リシャルトの力だった。
フューリズの首には新たに能力制御の首輪が着けられている。前にフェルディナンが贈った首飾りは腕輪と共に壊れてしまった為、急遽王城にいる魔女達が作り出し、リシャルトが魔石に術を込め、フューリズの溢れ出す憎悪の塊の如く力を制御した。
それでも抑えきれない程の力が部屋中に漲っていて、それはフューリズの憎悪の大きさを物語っていた。
ナギラスとリシャルトはその憎悪の力を抑制する為に王城に居続ける事となった。
リシャルト自身、フューリズを放っておいてはいけないと思っているらしく、そうなれば父親のナギラスも必然的に留まる事となる。
そうして二人はフェルディナンからも強く望まれたのもあり、思いがけず王城に滞在する事となってしまったのだ。
食事を運ぶのはナギラスとリシャルトがおこなっている。それ以外の者には近寄らせない。まだ怒りはおさまらず、その瘴気は強い状態だからだ。
それにもフューリズは憤っていた。世話をする侍女の一人もいない事が許せないのだ。部屋が汚れれば食事の際にナギラスが簡単な片付けをし、汚れた衣服はリシャルトが持ち出す。
淑女の衣服を男が手にする等考えられない事であり、こんな生活を強いられている事自体あり得ない事なのだ。
いつか誰かが助けに来てくれる。そんな淡い期待を胸に、だけど誰を信じて良いのか分からずに、ただ恨み妬み憎しみ悲しみ怒りが繰返し心に渦巻く。
そんなフューリズに会いたいと何度かブルクハルトが面会を申し出たのだが、まだ今は難しいとリシャルトに断られる日々だった。
フューリズがもう少し落ち着き瘴気がおさまるまでは待って貰う他なかったのだ。
そんな瘴気にあてられる毎日に、ナギラスは心を痛める。まだ幼い我が子にここでの生活を強いるのは辛い事だと思えるからだ。
「リシャルト、大丈夫か?」
「はい、父様。ですがこれ程強い憎悪の力を発するとは思っていませんでした。やはり凄いんですね。復讐の女神の力と言うのは……」
「只でさえ人を羨み妬む性質を持ち合わせているのに、赤子の頃に取り替えられるという事が起こってしまった。今は関わった人全員を恨んでいる状態といった具合だろう。仕方がない」
「同情はします。ですがこの力をこれ以上強くさせる訳にはいきません。でなければとんでもない事になります」
「それは力の多くを無くした私でさえも分かっているよ。今はまだここを離れる訳にはいかないという事もね」
「そうですね。しかし、聖なる力が僕に力を貸してくれているように感じます。きっとこれが慈愛の女神の力なんでしょうね」
「流石だ。慈愛の女神の生まれ変わりもこれ程の力を持っていたのだな。この力をルーファス殿下が手に入れる事が出来れば、この国は安泰……か……」
「あの、力を手に入れるとはどういう……?」
「それは私にも分かりかねるのだがね。まぁ、ルーファス殿下ならば問題ないだろう」
「だと良いのですが……」
「何か気になるのか?」
「いえ……」
人の環境はその時々で変化してゆく。それにより思考も想いも変化し、選ぶ道が変わってゆく。そうして自分で選びながら辿っていく道に間違う事もあれど、それも人生だと思えるのか否か。
ルーファスの選ぶ道が正しき道であるようにと、リシャルトは祈るような気持ちでいた。
なぜそう思うのかは分からない。けれど、それがこの先大きくこの国を変えていくのではないかと、そう思えてならなかった。
その日、ルーファスはフェルディナンに呼び出された。
フューリズを名乗っているウルスラと生活を共にしてから、既に二週間程の時が流れていた。
「父上、今日はどのようなご用でしょうか」
「うむ……フューリズとは仲良くやっておるのか気になってな」
「はい。問題なく」
「まだお前達は婚姻を結ぶことは出来ぬ。婚約を発表する事も抑えて貰わねばならぬ」
「承知しております。まだ喪が開けておりません。私もそのような事は望んではおりません」
「そうか。しかし、夫婦として生活するのはなにも問題ないのだぞ?」
「え……? あ、はい」
「いや……出来るだけ早くに事実上の夫婦となって欲しいと思っておるのだ」
「父上……先程から何を言わんとされているのか分かりかねます」
「うむ……そうだな……現在、隣国のシアレパス国との関係が思わしくないのは知っておるか?」
「はい。国境付近で睨み合っている状態だと聞いております。北に位置する我が国は農作物が育ちにくく、輸入に頼らざるを得ない状態ですが、鉱山が多い我が国からシアレパス国へ鉱物を輸出する事で対等になっていたのを、シアレパス国側が最近になって農作物の物価を上げてきたとか」
「よく知っておるな。そうだ。シアレパス国にも鉱山が見つかってな。こちらから輸出していた鉱物は必要ないと言ってきたのだ。その事から今までの均衡が崩れたのだ」
「なるべく事を構えたくないと考えておられるのですよね。私もその方が良いと思っています。が、それが何か?」
「シアレパス国は軍事力に優れておる。それでも我が国が負ける等とは思わぬが、抑止力が必要だと思っておるのだ」
「それはそうですが……?」
「ルーファス……慈愛の女神の力を我が物にする事は可能ぞ」
「えっ? それ、は……どういう事……ですか……?」
フェルディナンは慈愛の女神の生まれ変わりについて、以前他国の文献も含めて徹底的に調べさせた。
そうして知り得たのだ。
慈愛の女神の生まれ変わりから力を得る事が出来るという事を。
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