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戻ってきた
しおりを挟むフューリズはローランと再会した。
ローランは騎士の格好をしていて、自分の邸で働いていた頃とは様相が違っていた。
その慣れない姿に、フューリズは少しの間目を奪われたのだ。
そしてローランもまたフューリズの容姿が変わっていたことに驚きを隠せなかった。
髪と瞳は赤くなっていて、以前はドレスのシミやシワ一つ気にしていたと言うのに、今着ている物は街娘が着るような服で、それも返り血などで汚れていたりする。
今までのフューリズを思うとそれはあり得ない姿だった。
そして何より、ローランに対して礼を言ったのだ。
幼少の頃から仕えていたローランは、フューリズから礼を言われた事など一度も無かったのに、だ。
何があってそうなったのか……気にはなったが、今はそんな事を確認している場合ではなかった。
「フューリズ様、王城へお連れ致します。私の後ろを離れないでください」
「あ、ローラン! 私は王城へは戻らないわ!」
「では邸へ行かれるのですか?」
「いえ……王都を出るわ」
「何故です?! 何かあったのですか?!」
「……やっぱり呪いは効かないのね……」
「え? 何ですか?」
「何でもないわ。とにかく、私はここから離れるの。貴方は私を放っておいても良いのよ?」
「それは……」
「手を……貸してくれるのなら……一緒に来ても良いのだけれど……」
「手を貸す? どういう事なんでしょうか?」
「良いの。では私は行きます」
「あ、お待ちください、フューリズ様っ!」
いつになく弱々しく見えたフューリズが気になって、ローランは後を追った。その時、魔物がフューリズに襲いかかった。しかしそれは一瞬で胴体と首が分断され、魔物はあっという間に絶命した。
ローランは何があったのか、はじめは理解できなかった。今までフューリズの元で働いていた頃は、何かあればそれに対応するのはローランの役目だった。それで手をかけた人々はかなりの数になる。
命令するだけで、自分では何も出来ない子だと思っていた。人を良いように動かすだけで、他にはなんの力もない子だと。
それがどうした事か。一瞬にして凶悪な魔物を斬り伏せる事が出来る力を持っていたとは……
見たところ、風魔法で鋭利な刃を作りだして斬り込んだのと推測できる。しかも詠唱もせずに瞬時に魔法を繰り出したのだ。
自分とは明らかな力の差を見せつけられたように感じて、ローランは暫く呆然としてしまった。
しかしすぐにハッとして、去っていくフューリズの後を追って駆けて行った。
そのままフューリズの前に出て、守るように進んで行ったのだ。
それを見てフューリズは驚きと同時に嬉しさが込み上げてきた。
慈愛の女神の生まれ変わりではないとされ、地下に幽閉されてから、誰も自分の元へ来ようとはしなかった。
唯一来てくれたのは父親のブルクハルトだけだった。
しかし、それも自分を拒否した事でこの手にかけてしまった。それは仕方がない。愛を裏切ったのだから。
それからはずっと一人だ。
何とか逃げ出し、街道を走る行商人の馬車の前に飛び出し馭者と乗っていた商人を操り、近くの村へ行き村人全員を操り、その後また近くの村や街へ行き操っていき、自分の配下を増やしていった。
多くなっていく配下に満足はしても、心は満たされなかった。
いつも虚しさが胸に渦巻いていて、腹いせに意味もなく殺し合いをさせたりもした。それでも満たされなかった。
これは自分をこんな目に合わせた者に罰を下していないからだと悟った。だから王都を襲った。しかしそれも失敗に終わった。
王都を襲った大勢いた配下の者達は、皆が何故か魔物になってしまった。そしてあろうことか自分にも攻撃してきた。これが腹立たしく思わない訳がない。
そんな状況下で唯一、自分が操ってもいないのに守ろうとしてくれる存在に、フューリズは心が絆されてしまったのだ。
「ローラン……私を守ってくれるの?」
「それが私の役目でしたからね。今はもう違いますが……」
「そうね……でも……嬉しいわ……」
「え?」
「私は王城へは戻らない。私を蔑ろにした王家に仕返しをするの。罰を与えるのよ。その為の力をこれからもっと身に付けるわ。貴方はどうするの? こんな事を言っている私を、不敬罪で捕らえるのかしら?」
「フューリズ様……」
話してる途中でも関係なく魔物は襲ってくる。それを剣で往なしていく。
今までローランには、ほぼ無抵抗の者を斬り伏せるよう命令してきた。だからこうやって攻撃してくる者に剣で立ち向かう姿をフューリズは初めて見たのだ。
自分を守ってくれる騎士の姿のローランに、フューリズは呆気なく心が動いてしまった。
あっという間に魔物を倒したローランの姿を何も言えずに見続けるしか出来ずにいたフューリズに、ローランは優しく笑いかけた。
「不敬罪と言われれば私もそうかも知れません。命令に従っていたのに責任を取らされ爵位を剥奪され、理不尽に思っているのは不敬ではありませんか?」
「それも不敬にあたるのかもね?」
「では私とフューリズ様は同じ立場かも知れませんね」
そう言って微笑むローランの言葉がフューリズは嬉しかった。何もかも無くした自分にただ一人、微笑みかけてくれたローランに心を寄せるのは仕方のない事かも知れなかった。
そうしてローランとフューリズは二人で王都を後にしたのだった。
一方ウルスラは、王都を出てから一人フラフラとさ迷うように森へと入っていった。
王都の近くには森があり、街道はキチンと整備されていて、この森では獣が出る事も少なく実りも多い事から人の出入りも多く、安全な場所とされていた。
しかし今は王都で起こった暴動の後処理等で、誰もそこにはいなかった。
あんな事があった後だけれど、森の中は澄んだ空気に充たされていて、陽射しは暖かくとても心地が良い。
幼い頃から森は慣れ親しんだ場所。やっぱり安心する。
そんなふうに感じながら、ウルスラは花を抱えて当てもなくさ迷う。
少し進むと、目の前に小さな妖精が見えた。
妖精は興味深く、ウルスラの周りをパタパタと飛んでいて、それがとても可愛く感じて嬉しくなった。
気づくと妖精は段々と増えてきて、至る所に様々な妖精がいるのが見えた。
何か話し掛けられてる。けれど何を言われているのか聞き取りにくくなってきた。何故か目の前が段々暗くなってくる……
疲れがたまっていたからか、体力が底をついたか、木を背にしてウルスラは、しっかり花を手にした状態で安心したように眠りについた。
暫くして……ザワザワ声がして、何だろうと思って目を開ける。
そこにはさっきもいた妖精達がいて、ウルスラを心配そうに見ていた。
辺りを見ると、そこはさっきの場所ではなくて見覚えのある場所だった。
そこは幼い頃にいた森の中で、目の前にはあの小屋があった。
ウルスラは帰りたかったこの場所に、ようやく戻ってくる事が出来たのだった。
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