慈愛と復讐の間

レクフル

文字の大きさ
66 / 79

恩恵の裏にあるもの

しおりを挟む

 ナギラスとリシャルトはフューリズを探し出すべく、街や村へと渡り歩いて行く。

 王都の近くにある街や村は、以前フューリズが支配していたようで、大きくその人口は減少していた。
 殆ど人がいない村もあった。

 そこに住んでいた人々が王都へ暴動を起こしに行き、そして兵士や騎士に討たれたからだった。
 それでも助かった人々もいる。しかし、操られていたとは言え、暴動を起こした事に変わりはなく、正気に戻った人々は国家反逆罪で捕らえられる事となってしまった。

 村に残ったのは、足腰の立たない老人であったり赤子であったり、一人では動けない者達ばかりで、そうなるともうそこでの生活は出来なくなっていて、仕方なく別の街の施設等に行くしかないという状態であった。

 フューリズを探し出すだけではなく、その後始末もする羽目になってしまったのだ。

 それはルーファスも同様で、極端に減少した村は廃村とし、住人を街へ移す手続きをおこなったり、その為に足らなくなった物資を支援したりと、何かと忙しく動く事になっていた。

 フューリズを逃がしてしまった責任をルーファスもそうだが、ナギラスもリシャルトも感じていて、このままだとこれ以上の犠牲が出る可能性がある事も踏まえ、探す事を止めるという選択肢は露ほども無かった。

 フューリズの力を目の当たりにした三人だからこそ、そう思えるのだ。

 だがここ最近、瘴気を感じる場所が多くある事には違和感を感じていた。それはごく僅かであり、殆ど分からない程度のものであったが、僅かであっても多くの場所で確認できる事に疑問を感じたのだ。

 その瘴気を調査するも辺りには何も変化は見られず、何が原因でそうなっているのかは結局分からず仕舞いだった。

 そんな異様な状態を感じながらも対策できる事はなく、ナギラスとリシャルトはフューリズ探しを続けていた。

 そうやって幾日か捜索していたある日、いつもより強い瘴気を感じる場所に遭遇した。


「父様、この強い瘴気、分かりますか?」

「あぁ、リシャルト。これは流石に私でも分かる。この瘴気はフューリズのもの、だな……?」

「恐らくそうかと。体を結界で守ります。心してください」

「言われずとも!」


 そこはとある村だった。王都から北東へと遠く離れた場所にあり、国境に近い場所でもあった。
 その事から、フューリズは他国へもこの邪悪な瘴気を広げようとしているのではないか、と予測できる。

 村には門番もいなく、一見解放感があるように感じられる。
 しかしその辺りはかなり強い瘴気に侵されていて、リシャルトにはこの村がドス黒い霧に覆われているように見えたのだ。

 リシャルト達は、何も二人だけということではなく、護衛の騎士が五人、世話をする使用人が二人と、全員で九人での移動となっている。

 これでも少ない方なのだが、あまり多くの人数でいつ帰れるかも知れない捜索に携わる事が出来ないという事と、先日の王都の暴動で騎士や兵士も多く数を減らした事もあり、これ以上人員を割けないという事もあって、この人数となっていた。

 実質戦力になる人数は七人で、この少数で挑むのには懸念がある。一旦戻って報告し増援するか、救援を待つか。
 その場合、ここから王都まではかなり日数がかかり、その間に状況は悪化するだろうと容易に予測できてしまう。
 なるべく早くにこの状況を打破しなければ、更に被害は拡大し、取り返しのつかない事になるだろうと思われた。

 そんな事情から、ナギラスとリシャルトはこの村に挑む事を決めた。

 慎重に村に入っていき、辺りの様子を然り気無く伺っていく。

 その村はあまり大きくないが、広々とした田畑があり、そこで働いている村人達の姿が見えた。家畜もいて、その世話をしている人達、それを手伝う子供達の姿が見てとれる。
 小さな店や宿屋もちらほらとあり、活気はないが普通に機能している村だと思えた。

 それはどこにでもある風景であったが、リシャルトは村人達の様子がおかしい事に気づいていた。

 誰一人として笑ったり怒ったりという、人が当たり前にする表情が全くないのだ。
 誰もが自分がする作業しか見ていなくて、知らない人が来ているというのに見向きもしない。ただ自分のすべき事をするのみ、といった状態であり、それが何とも不気味に感じてしまう。

 そして、体に光の結界を這わせているのにも関わらず、体に何かが入り込もうとする感覚がずっとあって、身体中を何か小さな刃で切られているような感じがずっとしていて、全身にピリピリと痛みが走っている。

 これは思っていた以上かとリシャルトは更に警戒を強め、より瘴気が強い場所を求めて進んでいく。

 
「あら、こんな所まで来て頂けたの? 嬉しいわ」

「なにっ!」


 いきなり声を掛けられて、ナギラスもリシャルトも驚いて声のした方へ向く。それまで全く気づけなかった事に、より警戒を強める。

 そこにはこちらを見て嬉しそうに微笑むフューリズの姿があった。


「今日はルーファスお兄様はいらっしゃらないのかしら? 貴方達だけ?」

「殿下はご多忙でね。こんな事に構っている暇はないのだよ」

「へぇ? こんな事に、ねぇ? これから楽しくなるのに、それは残念だわ」

「楽しい事は私たちだけで充分じゃないかな」

「そうね。では楽しみましょう」


 言うなり黒い霧が何本もの矢となり降り注いでくる。それを光魔法でリシャルトは弾こうとするが、急いで詠唱しても全てを防ぐ事は出来なかった。

 日に日に強くなっているように感じるフューリズに、対抗できるのは慈愛の女神の力以外にないのかも知れない。

 執拗に降り注ぐ黒い霧の矢を見上げながら、リシャルトはそんな事を思っていたのだった。



 
 同じ頃、ルーファスもまた、所々に感じる僅かな瘴気が気になっていた。

 しかし、これはフューリズのものとはちがうように感じていて、なぜこうなっているのかが辺りを見て調べてみても、やはり分からなかったのだ。

 ふと考える。

 慈愛の女神の生まれ変わりは幸せを感じればいけないとされている。
 
 それはなぜなのか。

 幸せを感じないと、何かしらの悪影響が及んでしまうからではないのだろうか。

 確証は無いが、ウルスラは泣いてしまうと人が魔物に変わると言っていた。

 夢で見るウルスラは日に日に元気が無くなっていくように感じる。
 
 国王フェルディナンは、慈愛の女神の力を次期国王となるルーファスの物にさせたかった。だからウルスラと婚姻を結ばせようとした。

 愛し合えばその力は譲渡され、共にある者は絶大な力を得る事になると言う。

 それだけを聞いてルーファスはウルスラから力を奪った。
 
 すでに殆どの力を奪ったから、もう慈愛の女神の生まれ変わりは保護しなくとも良いのではないかと、フェルディナンは考えていた。

 しかし果たしてそうなのか?

 泣かずとも、ウルスラが寂しい思いをしたり悲しかったりすれば、何らかの事が起こるのではないのか。

 ウルスラの生い立ちは酷いものだった。

 それでもウルスラは前向きに頑張っていた。幼い頃の思い出にあるのはいつも、ウルスラの優しい笑顔だった。
 きっと凄く辛く悲しい事があった筈なのに、身体中に傷が増えて、口に切れた痕があっても、それでもウルスラはいつも笑っていた。

 そんなウルスラが今にも泣き出しそうな表情でいる。それは慈愛の女神の生まれ変わりが幸せを感じていない、という事だ。

 泣いていなくとも、悲しさを感じているだけでも、もしかしたら何らかの影響があるのではないか?

 そんなふうにルーファスは考えた。

 ウルスラが幸せそうに微笑んでいると、その周辺にいた人達は誰もが優しい気持ちになり、誰もが幸せを感じていく。

 けれど、だからこそ恩恵ばかりではないのではと考えられるのだ。

 できる事なら、奪った力をウルスラに返したい。その方がきっとこの国は安泰する。戦争もなく、誰もが穏やかに暮らしていくようになる筈だ。

 なぜこの事に今まで気づかなかったのか。フューリズへの私怨に駆られて、冷静に考えられていなかった事が情けなく思えてくる。

 早くウルスラを見つけなければ……

 自分の考えが事実かどうかは分からない。けれど、如何なる可能性も考慮して動かなければならないとも思う。

 そんなルーファスの思考は的を得ていた。

 それは小さな生物から。

 少しずつ少しずつ、人が魔物へと化したように、虫や小動物が異質なモノへと変化していっていた。

 悲しみが深くなればなる程、長引けば長引く程、それは波紋のように広がっていった。

 少しずつ少しずつ……
 




 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

ここは少女マンガの世界みたいだけど、そんなこと知ったこっちゃない

ゆーぞー
ファンタジー
気がつけば昔読んだ少女マンガの世界だった。マンガの通りなら決して幸せにはなれない。そんなわけにはいかない。自分が幸せになるためにやれることをやっていこう。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜

月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。 ※この作品は、カクヨムでも掲載しています。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

処理中です...