71 / 79
僅かな力
しおりを挟む森の精霊ドリュアスは、この村に入ってからある人物を探していた。
それはナギラスとリシャルトだった。
ルーファスに、どうなっているのかを確認して欲しいと言われてそうしたのだが、この村に入ってから棒に刺さった人の頭を見て戸惑ってしまった。
こんな残酷な事をする者がここにいるのだと思うと、その人物はもう殺されているのではないか。そう考えた。
その二人は親子だと言っていて、子供の方は力があり、フューリズという者を押さえる事が出来るのだと言う。
そのフューリズと言うのが復讐の女神の生まれ変わりとされていて、この瘴気を放つ者だとルーファスは言っていた。
瘴気はとても強く、その場に元々いた妖精や精霊が逃げ出す程だった。
この地を守る精霊や妖精がいなくなると、土は枯れ、天からの恵みが得られなくなり、地は荒れ果ててゆくのだ。
そんな場所を作り出してはいけない。それが森を守るドリュアスの役目であった。
魂の気配を辿ってさ迷う。リシャルトは力があると言っていた。それは魂に宿るもの。対抗できる力なのであれば、その魂は美しいものだと想像できる。
その魂を探して漂って、うっすらと感じる光を見つけた。そこは馬小屋だった。
頑丈に閉ざされた扉を容易くすり抜けるとそこには数頭の馬がいて、その一番奥に感じた魂があると分かった。
フワリとそこまで飛んでいき、目にした現状にドリュアスは声を失ってしまった。
そこにあったのは、いや……そこにいたのは、見るに堪えない状態の親子の姿だったからだ。
手足が拘束されてあり、それが少しずつ有らぬ方向へと回転していく拷問具が付けられてあった。
ナギラスは首も100度程回転していて、これ以上回転するともう息も出来なくなるだろうと思われた。
「こん、な……っ!」
「あ、あ、う、ぁぁっ!」
痛みに喚く事しかできずに、リシャルトは涙を流して、だけど声にはならない声を発するのみとなっていた。
いくら精霊と言えど、こんな酷い状態を見ては動揺する他なかった。
捻られた手足からは皮膚からはみ出した骨が出ており、出血し肉片が飛び出て、思わず目を逸らしてしまう。
「ディナっ! お願い、ディナっ!!」
思わずドリュアスは空間を司る精霊、ディナを呼んだ。
目の前に歪みが出来て、そこから現れたのはディナだった。そしてこの状況を見て眉をしかめた。
「お願い、この二人をここから連れ出して!」
「なんて酷い……人間って、こんな事が出来るのね……」
「ディナっ!」
「分かったわ」
拘束されていたナギラスとリシャルトは、ディナの空間の歪みによってその場から別の場所へと飛ばされた。
着いた所はウルスラのいる森だった。
切り株に座って薬草の花と話をしていたウルスラの目の前がいきなり歪みだして、その歪みからディナが傷だらけの人を二人連れて現れた。
突然の事にも驚いたが、あまりの酷い状態の二人を見て、ウルスラは更に驚いた。
「あ、あの! この人達、どうしたの?!」
「拷問を受けたみたいなの。手足がボロボロよ。使い物にならないかも知れないわ」
「こんな……酷い……! なんでこんな事……」
「強い瘴気が漂う村があってね。ドリュアスとルーファスって子が乗り込んだのよ。そうしたら彼等がこんな姿でいたの」
「ルーファス?!」
「そうよ。ずっと貴女を探していたわね。まぁ、ここにはたどり着かせなかったけど」
「ルーは?! ルーは大丈夫なの?!」
「分からないわ。彼等のようになっているのかも知れないわね」
「そんな……っ!」
「ドリュアスに言われて助けたけど……このままじゃ助からないかも知れないわ」
目の前に瀕死の状態の二人を見て、見覚えのある人だとウルスラは気づいた。それは、国王にウルスラが慈愛の女神の生まれ変わりだと言った親子だった。
何故こんな事になっているのか分からないけれど、とにかく助けなきゃ! でも自分にはもうそんな力は無いかも知れない。ルーファスに力の殆どを渡した自分にはもう助ける力が無いのかも知れない。
そうは思っても、放っておく事なんて出来なかった。
「治って……治って……!」
そう言いながら、リシャルトの傷ついた腕に手を向ける。すると、淡い光が手から出て、剥き出しになった割れた骨が修復されるように元に戻っていく。
まだ自分には少しでも力があるのだと思ったウルスラは、続けてもう片方の腕、そして脚へと光を当てていった。
前なら体全体を覆うように出来たけれど、今はそれは出来なくなっている。それでも回復できた事に安堵した。
ナギラスにも同じように回復させる。そうしてナギラスとリシャルトは一命をとりとめた。
けれど完全回復は出来ていなく、まだグッタリとしたまま目を覚ます事も出来なかった。
「ねぇ、お願い! 皆の力を貸してあげて!」
ウルスラは辺りに咲いている花に向かってそう言いながら、歌を歌った。
その歌声を聞いて花達は、横にユラユラ揺れながら光を放っていく。その光は優しく傷ついた二人を包み込む。
さっきまで顔面蒼白であった二人は、徐々に血色を取り戻していく。
リシャルトはゆっくりと目を覚ます。けれどまだ体は動かない。それでもあれだけの傷の痛みが無くなっていて、体が癒されているのが分かった。
うっすら目を開けると、美しい人が心配そうに自分を見ているのが見えて、女神が助けてくれたと思った。
それから安心したように、また意識を失った。
その様子を見ていたディナは驚きつつも感心した。
力の大半を失っても、まだこんな事が出来る事と、そのウルスラの献身的な姿が美しいと感じたのだ。
それでもこれだけ力を使ってしまったウルスラは、その場で倒れそうになってしまう。それを何とか堪えて切り株に腰掛ける。
「すごいのね……でも貴女、大丈夫? 体力は殆どないようだけど」
「うん……大丈夫……」
「ここで暫く休んでいたら回復しそうね? その花、凄いわね」
「あ、の……お願いが、あるの」
「なぁに?」
「ルーの所へ連れて行って……」
「ダメよ。そんな体で。貴女が倒れちゃうわ」
「ルーがいる場所は、こんなに酷い事をする人がいるんだよね……?」
「だからこそ、貴女は行っちゃいけないわ。今にも倒れそうじゃない」
「でも、そうしたらルーはどうなるの?!」
「貴女に彼は酷い事をしたのよ? 力を奪ってそんな体にしたのは彼なのよ?」
「良いの! ルーになら良いの! ルーだからなの! だからお願いっ!」
「貴女の体が持たないわ」
「でもっ!」
「魂だけなら良いのに……」
「え……」
「体を捨てて、魂だけの存在になれば彼を助けられるかもね」
「それは……どういう……」
「私たちのような存在になるって事よ。貴女は特別な魂を持っているから、そうできると思うのだけど」
「え……でも……それは……」
「……冗談よ。さ、もう彼の事は諦めなさい。まだ生きていたらここまで連れてきてあげるわ」
「ねぇお願い! お願いっ!! 私を連れてって! 会いたいの! ルーに会いたいの!!」
「ウルスラ……」
「ルーだけなの……幸せな思い出はルーといた時だけだったの……お願い……」
「そんな目で見ないで……」
「私の……一番好きな人なの……愛してるの……」
「…………」
ディナにもそう思える存在がいる。夢の精霊は自分の伴侶だ。その存在が危うくなっていたら、自分も何をおいても駆けつける。何か出来なくても、力になりたいと思う。
ディナはウルスラの気持ちが分かってしまった。
何も言わずに歪みを作り出してディナはその歪みに入って行くと、鉢植えの薬草の花を手にし、その後を追うようにウルスラも歪みに入って行った。
歪みを抜けて来た場所を見て、ウルスラの足は止まってしまう。
そこは見るも無惨な状態が繰り広げられていたからだった。
0
あなたにおすすめの小説
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
ここは少女マンガの世界みたいだけど、そんなこと知ったこっちゃない
ゆーぞー
ファンタジー
気がつけば昔読んだ少女マンガの世界だった。マンガの通りなら決して幸せにはなれない。そんなわけにはいかない。自分が幸せになるためにやれることをやっていこう。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡
サクラ近衛将監
ファンタジー
女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。
シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。
シルヴィの将来や如何に?
毎週木曜日午後10時に投稿予定です。
【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜
月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。
※この作品は、カクヨムでも掲載しています。
異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる