過去に囚われたあなたに惜しみない愛を

レクフル

文字の大きさ
8 / 33

再会

しおりを挟む

 敵の指揮官はリノだった。
  
 リノも名前を変えられていた。ヴィルヘルム・ジョルジュ辺境伯令息。それがリノだった。

 ヴィルヘルム・ジョルジュと言う名前には聞き覚えがあった。ウェルス国では英雄と名が上がってきている人物。剣の腕も然る事乍ら、その戦略に我が国シェリトス王国は翻弄され、敗戦する事態が続いていたんだけど、それがリノだったなんて……

 その事もあってなのだろう。いつもよりも執拗に拷問で痛め付けられていた。

 いたぶられてボロボロになっていたけれど、私がその姿を見間違える筈がない。毎日リノを思い出して、日々の戦闘で荒む心を暖めていたんだから。

 アッシュブロンドの髪は血に濡れ、夜空のような美しい瞳は何処を見ているのか分からないように虚ろで……
 だけどあの頃より成長して立派になって、男らしく凛々しくなったリノがそこにいる。

 すぐに拷問を止めさせて、そこにいた兵士達に多めにお金を渡して酒でも飲んでくるように促した。これはいつもの事だったから、渋々兵士達は出ていった。 

 警備をしていた兵士達にもお金を渡し、労うように言って、今日は私がここにいるから息抜きしてくるようにと微笑むと、その兵士達は疑う事なく喜んでこの場を離れた。

 もう夜も遅い時間。ここの地下の構造はよく知っている。何処に繋がり、何処が手薄なのかも。

 私はグッタリしているリノに近づき、拘束具を外す。

 
「リノ……リノ、大丈夫? 今助けるからね」

「……サラサ、か……?」

「うん、そうだよ。ほら、早くここを出よう」

「あぁ……」


 かなりいたぶられていたからか、リノの意識は朦朧としているようだった。私はリノの腕を肩にして支えて地下から抜け出す。
 ふらつく足でリノは前に進んでくれるけど、あまり早く動かないみたい。

 何とか誰にも悟られず馬舎までやって来れた。ここに私の馬がいる。もう夜だから厩務員はいなかった。良かったとホッと胸を撫で下ろす。
 だけど気が気じゃない。早くリノを逃がさないと。下手したら殺されてしまう。

 見つからないように慎重に、でも足早に、ドキドキしながら二人で馬に乗る。リノを後ろに乗せ、自分の腰に手を回させ、交差した両手首をハンカチーフで縛りリノが落ちないようにしてから走り出す。
 そうして私たちは国境へと向かった。

 夜通し馬を走らせる。休む暇なんてない。既にリノがいない事がバレて、私たちに追っ手を放っているのかも知れないから。

 
「サラサ……サラサ……君はどうして……」

「リノ、大丈夫? もうすぐ国境だからね。だからもう少し我慢してね」

「サラサも……一緒に……」

「ダメだよ。私、シェリトス王国の人になっちゃったの。だから帰らなくちゃいけないの。でも、リノは必ずウェルス国に帰すからね」

「ダメ、だ……俺を逃がしたと知れたら……サラサは……」

「大丈夫! 私、これでも上手く人を騙す事ができるようになったんだよ! ほら、こうやって馬も上手に操れているでしょう? 成長したんだから!」

「あぁ……サラサは……とても綺麗になった……」

「リノ……」


 もうすぐ国境、というところで、追っ手が向かってきてるのが分かった。やっぱりすぐにバレたんだ。

 森の中、獣道を縫うように馬で駆けていく。追っ手の先頭は……

 エドガーだ。騎馬にかけては騎士団随一。すぐに追い付かれてしまう。

 
「リノ、聞いて。このままずっと国境まで行ってね。そして私に会った事は忘れてね。夢でも見たと思っていて」

「そんな事できる訳がない……っ! サラサ……! どうするつもりだ?!」

「そんな大声出しちゃダメだよ。いっぱい殴られて声を出すのも辛い癖に。じゃあね。リノ」

「サラサ……っ!」


 リノの手に手綱をくくり付けるようにし、馬にはこのまま走るように言って鞭を打ち、私は馬上からヒラリと降り立った。着地しつつも反動で横に回転しながら受け身を取って立ち上がる。

 馬は私の命令どおり、真っ直ぐ国境へと走って行った。良かった。


「サラサっ! 必ず迎えに行く! 君を必ずっ!」


 そんな声が微かに耳に届く。手綱を握る事もできないくらいになぶられていたのに。大声を上げる事も辛い癖に。

 零れそうな涙を堪えて、私は向かってくる追っ手に立ち向かう。

 私が剣を構えて立ち塞がっているのを見て、エドガーはその場で止まった。


「アンジェリーヌ……どういうつもりだ」

「別に。ただの気まぐれよ」

「気でも触れたか。こんな事をしてただで済むと思うな」

「……分かってる……」


 共に戦場に出た仲間とやり合うつもりは、はじめから毛頭なかった。だから私は大人しく拘束された。
 
 本当はあのままリノと一緒に行きたかった。だけどウェルス国で私はきっと忌み嫌われる存在。  

 だって私は血濡れのアンジェリーヌ。

 『ブラッディ・ローズ』

 数多の人々を敵だからと殺戮してきた。許される筈がない。だからウェルス国に行けないの。帰れないの。

 だけど敵を逃がした事は許されない事だった。

 そうして私は地下牢獄へ送られた。



しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

恋い焦がれて

さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。 最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。 必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。 だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。 そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。 さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。 ※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です ※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません) ※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。 https://twitter.com/SATORYO_HOME

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...