9 / 33
それが前世
しおりを挟む敵国の捕虜を逃がした事により、私自身がスパイではないかと疑われた。それはそうだろう。そう思われても仕方がない。
だけど私はそうじゃない。ただリノを助けたかっただけ。
口を割らせようと、今度は私が拷問を受ける事になった。これも覚悟していた。いたぶられ、なぶられ、それでも口を割らない私に苛立った上層部の者は、女が最も侮辱に値する事を課してきた。
エドガーを始め、顔見知りの兵士、上官、同期の仲間や後輩騎士にいたるまで。私を彼等に凌辱させたのだ。
何人もの男が私の体を弄ぶ。それは痛め付けられるよりも苦しく辛く、悲しい事だった。殺される方がマシだと何度も思った。
それでも口を割らない私は顔を半分焼かれた。松明の炎を目の前にして脅しても私が何も言わなかったから、それに苛立った上官がそうした。その時に片眼が見えなくなった。
だけど私は殺されなかった。なぜなら、私はシェリトス王国では名を上げた剣豪。『ブラッディ・ローズ』の二つ名を持つ、魔法剣士のアンジェリーヌだったから。
まだ戦争中だ。この国はまだ私が必要なんだ。だから殺されなった。
長かった髪は短く切られた。これで薔薇を髪に挿すこともできなくなった。だけどこんな目に合っても、私はリノを逃がした事を後悔はしていなかった。
私のただ一つの恋だった。始めての恋。そしてきっと、二度とすることのない恋。
あれからどれぐらいの時間が過ぎたのか。何日経ったのか。そんな事も分からなくなる程の月日が経ったのか。日々の拷問で一日の流れも分からなくなっていた私に出兵命令がくだった。
こんな体にされても、疑いが晴れなくても、私は戦場に行かなければならない。
また人を殺す。私がこんな目に合っているのは、今までしてきた事の罰。多くの人を殺してきた罰。
だからリノ、自分のせいだなんて思わないでね。お願いだから自分を責めないで……
焼かれた顔を隠すように仮面とヘルムを装着する。まだ焼かれた顔はズキズキと痛む。体も至るところが痛い。それでも平気なふりをして私は戦場へと向かう。
私を凌辱したかつての仲間達は申し訳なさそうに私を見るけど、その視線に気づかない振りをする。貴方達は命令でそうしただけ。だから仕方がなかったの。だけどされた事を忘れる事はできない。だから目なんて合わせてやらない。
強がって平気なふりして、私は戦場へと向かった。
いつものように馬に乗って敵を蹴散らしていく。これが私の役目。そして罪。だから罰を受けた。そしてまた人を殺すと言う罪を犯す。その繰り返し。終わりがないように思えてくる。こんな体にされても、結局私は殺人兵器なんだ。ただ人を殺すための道具でしかない。
次々に向かってくる敵を薙ぎ払うように、魔法で剣で蹴散らしていく。いつの間にか涙が溢れてきた。良かった。仮面でそれが分からない。良かった。
馬で駆け巡り、敵陣営に乗り込むように進んでいく。ここで死んだって構わない。なんなら、ここで死ねる方が幸せかも知れない。そんなふうに思いながらも敵を斬り伏せていく。
こちらに向かってくる人物がいる。
指揮官だ。アイツを斬り倒せば、この戦場は我が国シェリトス王国の勝利となる。
お互い馬で駆け寄って剣を構える。
近くになって気づく。
指揮官は……リノだった……
またこうやって駆り出されてしまったの? どうしてゆっくり休めなかったの? 怪我はもう大丈夫? 私の馬はどうなったの? 元気にしてる? でも、ちゃんとウェルス国まで帰れたんだね。良かった。無事で本当に良かった。
アッシュブロンドの髪はやっぱり綺麗。今日はよく晴れているから、髪が光を浴びてキラキラしてるね。その瞳も陽の下では明るい藍色になるんだよね。それが夕暮れ時の空みたいで、いつも綺麗だなって思ってたの。
だから、あぁ……どうかそんな怖い顔をして私を睨まないで……
こんな時なのに、私はそんな事ばかり考えていた。リノ、会えて良かった。ずっと会いたかった。私の大好きな人。一度もそれは言えなかったけれど。
剣が交差する。
私の剣はリノの肩口を軽く擦った。
そしてリノの剣は私の胸を貫いていた。
「リ、ノ……」
小さく一声、そう呼べた。
「え……サラ、サ……?」
恐る恐る、と言ったように私を呼ぶ声。
耐えきれずリノの肩に顔を落とす。リノは何かを叫んでる。なに? よく聞こえない。
リノはこんなところで死なないでね。ちゃんと好きな人と結婚して家庭を作って、幸せに暮らして一生を終えてね。それが私の願いなの。
リノが私の仮面を取った。驚いた顔をしている。ごめん、気持ち悪いよね。顔半分焼け爛れているんだもの。
リノに私の魔力をあげる。こんな事しかできないけれど、私の一部を貰って欲しいの。
だから口づけた。唇から私の魔力を注いでいった。ありったけの魔力と想いを乗せて、この力がずっとリノを守りますようにって。
ごめんね、こんな気持ち悪い顔をしてるのに口づけちゃって。
でもね、これが私のファーストキスだったんだよ。せめてこれだけは捧げたかったの。
唇を離して、何とか笑おうとする。
私、ちゃんと笑えてたかな。
あぁ、だけどリノ、どうか……どうか自分を責めないで……私は今、凄く幸せなんだから……
最後に会えて、リノに触れられて、リノの手で私を終わらせて貰えて、本当に嬉しいんだからね。それを伝えたいのに声が出てこない。
ありがとう、リノ
ありがとう
私の好きだった人……
私の大好きな大好きな人……
それが私の前世だった。
10
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
あなたの片想いを聞いてしまった夜
柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」
公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。
政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。
しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。
「好きな人がいる。……片想いなんだ」
名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
恋い焦がれて
さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。
最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。
必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。
だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。
そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。
さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。
※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です
※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません)
※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。
https://twitter.com/SATORYO_HOME
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる