過去に囚われたあなたに惜しみない愛を

レクフル

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お嬢様の意向

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 翌朝、ヘレンさんは私の部屋まで来てくれた。

 朝起きた時には体は動きにくくなっていた。全く動かせない訳じゃない。頭はクラクラするけれど、手とか足は動かせるよ。あまり力が入らないけど。頭を左右に動かすのも問題ないかな。

 だけど起き上がるのは難しい。今まであまり意識してなかったけど、その行動一つに色んな筋肉を使うんだね。腕の力もそうだけど、足も腰も動かさないといけないんだね。こうなって初めて気づいたよ。

 ヘレンさんに魔法をかけて貰い、髪色は黒く、そして体は動くようになった。本当に有難い。
 昨夜のヴィル様とのやり取りもヘレンさんに聞いてもらう。着替えをしながら、昨日の事が嬉しくてつい色々と話しちゃった。


「それでね、ヴィル様にね、欲しい物はないかって尋ねて貰えてね、私思いきって魔草とかの苗が欲しいって言ってみたの。栽培してみたいからって」

「そうなのね。ご主人様はなんて?」

「分かったって! 買ってきてくれるって! その時ね、微笑んでくださったの! 私だけが分かる笑い方じゃないよ?! 誰が見ても分かるくらいの微笑みだよ?! もう、胸がキュンキュンしちゃったのー!」

「そうなのねー。良かったわねー」

「はぁー、やっぱり格好良いー。好きー。好きすぎて堪んないよー!」

「ふふ……良かったわ。いつものサラサちゃんね」

「そうだよ。私はバカみたいにヴィル様が大好きなのが取り柄なの!」

「それって取り柄なの? って、サラサちゃん! 体にも青アザいっぱいあるじゃない!」

「え? あ、そうだった……えっと、昨日石を投げつけられちゃって。でも大丈夫だよ。すぐに治るよ、こんなのは」


 女同士だし、話しながら迂闊に肌を露出させてしまった。またヘレンさんに心配かけちゃうな。眉間にシワを寄せて、ヘレンさんは私を見つめる。私は申し訳なさそうに、へへへって笑って誤魔化す。って、誤魔化せてないか。
 

「とにかく、今日から私と一緒に行動しましょ。ご主人様は働くなとも言わなかったのよね? まぁ、サラサちゃんは放っておいたら何をするか分からないから、仕方なく許可したんだろうけど」

「ヴィル様のお心の広さに感謝しなくちゃだよね!」

「全く……まぁ、サラサちゃんと一緒にいられる方が私も安心だから良いんだけどね」

「ふふ……ヘレンさんとずっと一緒に行動するって……親離れできない子供みたいだね」

「本当に。私、これでもサラサちゃんを娘みたいに思ってるのよ? お転婆な娘に手を焼く母親のような心境よ」

「じゃあ……ヘレンさんは……私の、お母さん、って事、かな……?」

「そうよ。だから母親の言うことは聞きなさいね。分かりましたか?」

「はい! お母さん!」


 そう言って、二人で顔を見合わせて笑い合った。冗談ぽくだけど、お母さんって呼べてなんだか嬉しかった。そしてちょっと恥ずかしくてドキドキした。

 本当にこれからもお母さんって呼んじゃおうかな。でもやっぱりそれは流石に恥ずかしいな。ふふ……でもやっぱり嬉しいな、こういうの。
 
 暖かい気持ちになって、ヘレンさんと一緒に仕事場へ向かう。
 みんなは頭に包帯を巻いてる状態の私を見て、
「もう大丈夫なのか?」
とか、
「まだ休んだ方が良い」
とか言ってくれるけど、私は
「全然! もう大丈夫!」
って笑顔で答えた。やっぱりこうやってみんなと話しながら仕事をするのは良いよね。部屋で一人じゃ寂しかったもん。

 あまりヴィル様に働いてる姿見せない方がいいかなぁって思ったけど、ヘレンさんと一緒に行動する事になっているから、話し合いの結果私は、給仕をするヘレンさんのすぐ近くのキッチンで洗い物をする事にした。
 とか言いつつ、やっぱりヴィル様のお顔を少しでも見たくって、遠目でチラチラとお姿を盗み見てたんだけどね!

 朝食が終わるとヴィル様は王都へ行かれる。すぐに戻ってくると言われてたけど、都合により伸びるかも知れないんだって。きっと色々やる事があるんだろうなぁ。私には分からないけど、領地経営って何だか大変そうだよね。

 皆の朝食が終わって、料理人たちと一緒に朝食を済ませる。勿論ヘレンさんも一緒だよ。
 
 今日もエヴェリーナ様はあまり朝食を召し上がられていないみたい。昼食も夕食もそうなんだって。ここの食事が合わないのかな。
 料理長がどうやらその事で悩んでいるみたい。未来の奥方様になるかも知れない人に、ここでの料理を楽しんで貰いたいって。もし味付けに問題があるのなら、エヴェリーナ様好みの味付けにするのになぁって。
 だけど何も言われないみたいだから、どうしてあげたら良いのか悩んでるんだって。

 王都と辺境の地じゃ、入ってくる食材も違うだろうし、流行っている食べ物も違うだろう。場所が変われば味付けも変わる。だからなのかなぁ。エヴェリーナ様は都会のお嬢様だから、郷土料理はお口に合わないのかも知れないね、なんて話し合いながら、残った料理は私が食べると言わんばかりに胃に収めていく。

 お世辞抜きにしてかなり美味しいと思う。まぁ、舌が肥えてる訳じゃないからお貴族様の気持ちは分かんないんだけどね。

 朝から食べ過ぎな程いっぱいお腹に入れて、重たい体でキッチンを後にして洗濯をする。私の食欲を見てみんな安心したようだし、だからいっぱい仕事しようっと!

 洗濯が終わったら掃除もしなきゃね。ヘレンさんと一緒に各部屋の掃除。因みに、エヴェリーナ様の使っているお部屋はお付きの方が掃除してくれているみたい。だから私たちは外に出されたゴミと、貸し出した掃除道具だけを受け取れば問題なし。
 お嬢様の部屋に立ち入られるのも憚られるって感じかしら? まぁ、こっちは助かってるから良いんだけどね。

 掃除道具を回収しようと、エヴェリーナ様の部屋の前に行ったら、ちょうどエヴェリーナ様が部屋から出て来られたところだった。慌てて礼をする。


「あら。お芝居上手な侍女さん」

「お芝居上手……」

「……なにか言いたい事でも?」

「あ、いえ、その……本日もウルキアガ伯爵令嬢様はご機嫌麗しく……」

「そんな取って付けたような挨拶はいいわ」

「すみません……」

「頭の怪我も、ヴィルヘルム様に心配して欲しくて大袈裟にしてるんでしょう? 相変わらずやる事があざといのね」

「そうでは……! ……いえ……」
 
「姑息な真似をしても無駄よ。今日、ヴィルヘルム様が王都に行かれたのを知っているかしら?」

「はい、存じております」

「それはね。わたくしとの婚約を確実にするためなのよ」

「そうなんですか?」

「そうよ。貴族同士の婚約はね、王家の認定も必要なの。ヴィルヘルム様は国王陛下に直々にお目通りされると仰っていたわ。これがどういう事か、貴女には分かるかしら?」

「えっと……」

「ふふ……分かるわけないわよね。ヴィルヘルム様は国王陛下に婚約の許可を頂きに赴かれたって事なの。そうなれば簡単には解消される事はないの。あとは婚姻を結ぶだけ」

「そうなんですね」

「前も言ったけど、わたくしとヴィルヘルム様が婚姻を結んだら、貴女には出て行って貰います」

「……はい……」

「それに執事ともう一人の侍女と他の使用人と……あとは料理人も変えるわ」

「え?! どうしてですか?!」

「馴れ合いが過ぎるのよ。辺境伯と言うのは侯爵と同等の高位の存在なのよ? それがここの使用人達は洗練されておらず、好き勝手にしたいように働いてるわ。明らかに人手も足りていないし。料理も田舎臭いものばかり。ウンザリなのよ」

「好き勝手とか、そんなんじゃありません!」

「誰に向かって口を聞いてるの?! 全く、教育がなってないわね!」

「……っ!」

「だから嫌なのよ、こんな田舎……!」


 でも、こんな田舎に嫁に来ようとしてるのはエヴェリーナ様ですよね? とは言えなかった。

 どうしよう。私だけじゃなく、他の人達も辞めさせられちゃうよ……

 それをヴィル様は許すのかな。好きになったらどんなワガママでも聞いちゃうのかな。

 私たち、どうなっちゃうのかな……
 

 
 

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