過去に囚われたあなたに惜しみない愛を

レクフル

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自分への愛

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 私の後ろの方でヘレンさんもこのやり取りを聞いていて、あまりの事に何も言えなかったみたい。
 と言うか、口答えすること事態が不敬なんだろうけど。

 ふんっ! って言った感じで、エヴェリーナ様はその場から去って行かれた。私たちは暫く、呆然とその場に立ち竦んだまま動けなくて……

 ヘレンさんから
「サラサちゃん、ちょっと休憩しましょ」
って声をかけらて、漸くハッとして我に返った。コクリと頷いて、ヘレンさんに連れられるように休憩室へ行った。

 まだ昼前。だから誰も休憩室にはいなかった。ヘレンさんは念のために私に魔法をかけてくれた。有難い。


「あんな方だったのね……サラサちゃんは知ってたの?」

「前に注意をされたと言うか……ヴィル様とエヴェリーナ様が結婚されたら、私には出て行って貰うって言われてたの」

「そんなの……! どうして言ってくれなかったの!?」

「だって……エヴェリーナ様は私とヴィル様が、その……男女の関係だって疑ってて……もちろん違うって言ったけど信じて貰えなくて……」

「まぁ……でも、だからってちょっと酷いわね。好き勝手に仕事してるって、そうじゃないのにねぇ」

「うん。みんな、手が空いたら出来ることをしてるだけなんだよ。料理人の人達も畑仕事もするし、掃除もするしね」

「そうね。ご主人様は領民から税金をあまり多く取られていないからねぇ。それはひとえに領民の生活をおもんばかっての事なのよね。人々の生活を豊かにする為に考えてくださっているから、ここはきっと何処よりも暮らしやすい筈なのよ。領民にとっては」

「うん。ヴィル様は贅沢はなさらないものね。余分なお金があるのなら、貧しい人にって考える方なんだよね。それも好きな要因なんだけど」

「それをあのお嬢様は分かっていらっしゃるのかしら? 自分が育ってきた環境をここに持ち込もうとされているのよね。それは勘弁してほしいわねー」

「本当に。きっと使用人達を総入れ替えするつもりなんじゃないかな。でもそうなったら、ここにいる人達はどうなるんだろう……」 

「ご主人様は本当にご婚約なさるのかしら?」

「分かんない……でも今日、ヴィル様が王都に行ったのは婚約の件でってエヴェリーナ様は言ってたし……ヴィル様には幸せになって欲しいけど……」

「そうねぇ……ご主人様の決定に私たちは何も出来ないわねぇ。とにかくこれは皆には内緒にしましょ。余計な事を言って混乱させたくないわ」

「うん、私もそう思う。皆、エヴェリーナ様を思って一生懸命働いてるから、その気持ちを今は無下にしたくない」


 二人で頷いて、手をしっかり握り合った。何となく同盟を結んだっぽい。元々そうだけど! ヘレンさんが分かってくれるだけで何だか百人力って感じ! 

 だけど私達ができる事なんて何もない。ただ日々の仕事を全うするだけなんだよね。ここの皆はヴィル様の幸せを願ってる。だからエヴェリーナ様にも、この邸で何不自由なく楽しく過ごして欲しいと思っているの。だけどそれは空振りだったんだな。本当に残念でならない。

 ヴィル様がいない邸で、エヴェリーナ様は何をするのかな、と思っていたら、各部屋やこの邸のあちこちを見回っていたみたい。お付きの侍女さんに、
「ここは壁紙の色を変えて」
とか、
「この家具も変えましょう」
とか言ってて、侍女さんはエヴェリーナ様の言うことを逐一メモに書き記していってた。

 部屋の内装や調度品や設置も気になるようで、あちこち見渡して値踏みしては、古い物は新しく変えるべきだとか指示をしていた。

 確かに、ここにある家具や調度品や絵画なんかは、私が知る限り一度も変わった事はない。だけど毎日ちゃんと丁寧に磨いてるし、管理はキチンとしているんだよ? 古きよき物ってのもあるんだよ?
 
 用事をしながらチラチラと様子を見ていると、エヴェリーナ様からはそんな言葉が止めどなく溢れてくる。何だかこの邸を……ヴィル様を全て否定されているみたいで悲しくなってくる。でも私が言えることなんて何もないんだよね……

 一頻り邸内を見て色々チェックしながら侍女にメモを取らせ、エヴェリーナ様は庭園へと赴かれた。
 ちょうど庭園での仕事に来ていたので、私はエヴェリーナ様の様子を遠目に見ていた。
 
 この庭園は綺麗でしょ? 庭師が毎日一生懸命剪定したり肥料をあげたりして世話してるもの。それでも手が足りないから私が水やりとかに手を貸してるんだけど、それもちゃんと指示を受けてやってるんだよ? 雑草もちゃんと抜いてるよ? ここは自慢の庭園なんだよ?

 そんな気持ちでエヴェリーナ様の様子を伺う。ここは問題ないよね?
 ヘレンさんは御手洗い中で、その間に私は雑草を抜きつつ、チラッチラッとエヴェリーナ様に目を向けていた。

 でも、エヴェリーナ様は眉間を寄せて花々を見定めて、真っ赤な薔薇が咲き誇る場所で足を止めた。
 気になった私は、悟られないように少しずつ少しずつエヴェリーナ様のそばに忍び寄る。


「薔薇は虫が寄るから嫌いよ。花屋で買ったものを貰う分にはいいけれど、栽培する必要はないわよね」

「はい、お嬢様。ではここに別の花を植えましょう」

「え……」


 薔薇はダメだよ! だって……だって……!

 
「きゃっ! なに?! この虫っ!」

「あ、お嬢様、大丈夫でございますか?! これはカミキリムシです!」

「だから嫌なのよ!」


 そう言うとエヴェリーナ様は、薔薇を上から踏みつけた。その時、薔薇のトゲが足を傷つけてしまって、エヴェリーナ様は更に苛立ったようで、侍女さんに
「わたくしを傷つけるなんて許せないわ! 全部へし折ってしまいなさい!」
と、凄い形相で命令された。

 侍女さんは戸惑っていたけれど、主人の言うことは聞かなければならないとばかりに、横から薔薇の茎目掛けて薙ぎ倒すように踏みつけて行った。
 耐えきれず、気づけば私は駆け寄っていた。

 
「や、止めてくださいっ!」
 
「なんなの?! こんな所にいるなんて、わたくしを見張っていたのね?! 鬱陶しい子!」

「薔薇はっ! 薔薇はダメです! お願いします! 止めさせてください!」


 あまりの事に気が動転して、私はエヴェリーナ様の両肩を掴んでいた。もちろん、それにエヴェリーナ様は嫌悪感を抱いたように眉間を寄せた。


「平民ごときがわたくしに触れるとは何事ですか?! 穢らわしいっ!」


 そう叫んで、エヴェリーナ様は私を思いっきり突き飛ばした。突き飛ばされた私は咲き誇る薔薇の花の中へと仰向けの状態で落ちていった。
 トゲが顔や腕、脚を掠め、至るところがピリピリと痛む。だけどそんな事より薔薇を自分自身が傷つけてしまった事が悲しかった。

 目の前には手折られてしまった幾つもの真っ赤な薔薇。美しい花弁はボロボロになってぐったりと頭を下げている。そのボロボロの姿が自分自身みたいに見えて、私は何を必死になっているんだろうって、何だか情けなくなってきて……
 

「何をしている?!」


 あ……ヴィル様の声……

 もう戻ってこられたんですか? 早かったんですね。申し訳ありません。ヴィル様の大切な薔薇をこんなにしてしまって。
 あ、違うか。大切に思っていたのは私の方か。勝手にこの真っ赤な薔薇を自分に向けられている愛だと思い込んでいたんだから。

 なんて愚かなんだろうか。

 エヴェリーナ様が怒るのも無理はない。

 ごめんなさい。エヴェリーナ様。

 ごめんなさい。ヴィル様。
  

 
 
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