過去に囚われたあなたに惜しみない愛を

レクフル

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小さな女の子

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 小さなサラサは元気な女の子だった。

 よく笑い、よく働き、よく喋る。

 屈託なく笑うその笑顔は、あのサラサを思い出させる。だがそんな筈はない。この子をサラサの身代わりにしてはいけない。そう思いながらも、私はこの子にサラサと名付けてしまったのだ。

 サラサがここに来てから、邸中が明るくなったように思う。皆にも笑顔が増え、元気になったように感じる。たかが小さな女の子一人。だが、その存在は今までの邸の雰囲気を一気に変えてしまう程のものだった。

 世話しなくあちこちを駆けずり回り、どんな仕事も嫌な顔一つせずに積極的に取り組んでいく。誰に対しても笑顔で嬉しそうに話し掛ける。そんなサラサに皆が心を癒されていったようだ。
 
 それは私も例外ではなかった。

 短かかった髪は長くなり、馬の尻尾のように後ろで一つに束ねて元気よく働くその姿を、いつも目で追ってしまう自分がいる。
 サラサを見ていると暖かい気持ちになれる。それは懐かしい感覚だった。長年感じなかった感情だった。

 そんなサラサが私に告白をした。


「ヴィルさま、すきです!」


 それはサラサがここに来て一年程経った頃だろうか。私を見上げて、勇気を振り絞って一生懸命言ったように見えた。驚きながらも、私は思わず顔をしかめてしまった。
 
 サラサは私を好きだとは言わなかった。

 そんな事を考えてしまってハッとする。この子はあのサラサではないのだ。なのに、サラサと違う言動をしたからと言って、何を咎める事がある?
 小さな女の子の精一杯の告白を、私はそんな思いから無かったもののように振る舞ってしまったのだ。

 こんな小さな幼い女の子相手になんて大人げない。今も昔も、何一つ私は変わらないのだな。

 だが、それから毎日のようにサラサは私に思いを告げてくるようになった。それは幼い子が遠慮なく思った感情をそのまま話しているに過ぎないのだろう。そうは分かっていても、サラサのその気持ちが単純に嬉しかった。
 もしかして父親のように思って言っているのかも知れない。だがそれでも良かった。この子が元気で、何にも臆することなく思いを口にする事が心地良く思えたのだから。

 日に日にサラサは成長し、女性へと変わっていく。それは昔のサラサを思い出させる。違うのは髪色だけで、話し方や表情、性格も姿も、あのサラサと変わらないように感じるのだ。
 いや、そう思おうとしているのかも知れない。そう思いたいのかも知れない。本当に自分自身が嫌になる。この子をあのサラサと重ねるなんて、この子に失礼だ。

 分かってはいるが、心は勝手に求めてしまう。成長して美しくなっていくサラサを愛しく感じてしまうのだ。これは父性としてなのかそうでないのか……
 自分の感情一つどうにも出来ないとは情けない。何年生きても、私はまだまだ未熟者なのだろうな。

 そんなある日、私に久しく縁談の話が舞い込んだ。ウルキアガ伯爵令嬢の次女、エヴェリーナ嬢がその人だった。
 なにをもって今さらこんな話が持ち込まれるのか。何かしらの思惑があるのではないか。そう考え、私は密かにウルキアガ伯爵家を調べる事にした。

 王都にはジョルジュ家の諜報員がいる。王都だけでなく、近隣の街や近隣国にもだが、そうやって異変を瞬時に察知出来るように心掛けている。

 王都にいる諜報員に、ウルキアガ伯爵の最近の様子を聞き、調べさせる。そうこうしている間にエヴェリーナ嬢がこの地にやって来た。

 婚約したいとの申し出に早々と断りを入れたのだが、会ってもないのに断るのは失礼だと言わんばかりの内容が書面で届き、勝手に滞在する事が決まってしまったのだ。
 
 私に対してこうも強引に接してくる者は今まで殆どおらず、警戒しつつもその行動力に敬意を表した。だから滞在を許したのだが、それが間違いだった。

 エヴェリーナ嬢は朱に輝く美しい髪色をしていた。瞳は黒に近い茶色で、あろうことか自分はアンジェリーヌだと言ったのだ。

 それには流石に動揺してしまった。アンジェリーヌの名を知る者は限られている。何故彼女がその名を知っているのか。それとも彼女が言うように、エヴェリーナ嬢は本当にアンジェリーヌの生まれ変わりなのか?

 そして私の罪を知っているとも言った。何を知っているのか。本当にそうなのか。頭は混乱してしまう。今までこんなふうに言ってきた者はいなかったのだから。

 しかし、本当にエヴェリーナ嬢はアンジェリーヌの生まれ変わりなのだろうか。そんな目で見ようとしても、どうもアンジェリーヌと、あのサラサとは結び付かない。全く別の人物としか思えないのだ。
 とは言え、生まれ変わってしまったとしたら、前世の性格や容姿がそのまま引き継がれるのかと言うと、それはどうかも分からない。

 結局は何も分からず仕舞いだった。

 彼女がどう思ってそう言っているのか。本当に私に好意を寄せて言っているだけなのか。それとも何か思惑があって近づいているのか、それを見極める必要がある。だから諜報員にウルキアガ伯爵家を徹底的に調べさせた。
 
 そんな中、サラサの体調が思わしくなさそうだと知る。

 最初は躓いて転けた時に頭を打ったようだった。ゆっくり休むように言っても、すぐに仕事に復帰してしまう。しかしサラサは私の目の前で倒れてしまったのだ。
 心臓が止まるかと思った。サラサがどうにかなってしまうのかと思うだけで、急に恐ろしくなった。

 抱き上げてすぐに部屋へ連れていく。思ったよりもサラサは軽かった。その体の感触が、あの時の、私が刺してしまった後抱き上げた時の感触と似ているように感じてしまった。

 いや、それはただの思い込みかも知れない。そう思いながらも、気を失っているサラサを抱きしめるようにしてしまう。このまま目を覚まさなかったらどうしよう。もう二度と私に笑顔を向けてくれなかったらどうしよう。そんな事ばかりが頭をよぎり、怖くて仕方がなくなった。

 目覚めたのを知った時は本当に心から嬉しかったし、すごく安心した。もうこんな思いはしたくないと思った。

 しかし、それでもサラサは勝手に動き出す。私が休むようにと言っても、勝手に街へと行ってしまったのだ。そして何故か頭に傷をつけて帰ってきた。
 血に塗れたサラサを見ると、あの時の、そうと知らずにサラサを刺して、血塗れにしてしまった時の事を思い出してしまう。
 
 守らなければ……

 今度こそ、必ずサラサを守らなければ……

 サラサはあの時のサラサではない。だが、そんな思いは何処かにいってしまった。ここにいるこの女の子を、サラサを私が守らなければと強く思ったのだ。

 とにかく、ここにいるエヴェリーナ嬢を何とかしないといけない。思えば、エヴェリーナ嬢がここに来てからサラサに可笑しな事が起こっているように感じる。関係ないのかも知れない。だが早々にエヴェリーナ嬢がどういうつもりでここに来たのかを調べ、本当に彼女がアンジェリーヌなのかも解明させ、帰って頂こう。
 
 きっと違う。エヴェリーナ嬢はアンジェリーヌではない。それには証拠は無いが確信はあった。
 
 王都に行く事を告げ、サラサに必要な物は無いかと尋ねたら、薬草や魔草が欲しいと言った。言ってくれた。初めてサラサから私に物を求められた事が心から嬉しいと感じた。

 サラサの喜ぶ顔が見たくて、私は王都の花屋で薬草や魔草、その他にも様々な種類の珍しい草花を購入して、すぐに領地へ戻った。

 しかしそこには思いがけない事が起こっていたのだ。


 
 
 
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