過去に囚われたあなたに惜しみない愛を

レクフル

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知った想い

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 サラサは眠っている中、ポツリと寝言を言ったり、うわ言のようにうなされるように自分の気持ちを吐露していた。

 きっとそれまでは言えなかった胸の内なのだろう。それを聞いてると、胸がズキズキと痛んでくる。

 騎士団には入りたくなかったが、そうするしかなかった。戦争に行くのも、本当は行きたくなかったし、人も殺したくはなかった。

 それでもサラサはそうせざるを得なかった。私たちのいた孤児院を質に取られたのか。言うことを聞かないと、真っ先に孤児院を攻撃対象にすると言われて仕方なく、だったのか……
 サラサが戦争に加担しなくても、この殺し合いは無くならないし、これは義務だと言い続けられた。
 だから仕方なくサラサは戦争に行く事になった。

 そこでも常に監視の対象となっていたか。実力を知っている者は、サラサが手を抜かないように目を光らせていたんだな。そうして人々を殺してしまったサラサは日に日に罪悪感に苛まれていった。

 自分はなにを守っているのか。守れているのか。その為に人々を殺し続ける矛盾に、心が張り裂けそうになっていた。
 
 サラサの戦闘能力は高かった。しかし、それを良いように利用されている事に、サラサはいつも心を痛めていた。
 それを知り、ついシェリトス王国に苛立ちを覚えてしまったが、当時を振り返ればそうなってしまっても仕方がないと言う考えにも行き着く。恐らく我が国ウェルス国であったとしても、当時ならば同じことをしたのだろうから。

 サラサの悲痛な心の叫びとも言える胸中を聞くのは正直とても辛かった。だがそれでも受け止めないと。これはサラサが受けてきた傷なのだから。


「サラサ、もう戦争は終わったんだよ。だから安心すると良い。もうサラサは誰を手にかける事もなく、平和に過ごして良いんだからね」

「リノ……」

「ん? どうした? サラサ?」

「リノ、大丈夫? 今助けるからね」

「……サラサ?」

「うん、そうだよ。ほら、早くここを出よう」

「…………」


 サラサは私がシェリトス王国の地下牢獄に捕らえられていた時の事を思い出しているのか……?
 

「リノ、無事だと良いんだけど……ちゃんと帰れたかな……」

「ちゃんと帰れたよ。サラサが助けてくれたから、私は無事だったんだよ」

「あぁ良かった……良かった……」


 サラサは安堵したように微笑んだ。そんなに私を案じてくれていたのか。思わず握った手に力を込めてしまう。サラサの純真な想いが胸を暖めていく。

 しかし、その後サラサは拷問にあったようだ。それは聞くに耐えない事だった。 

 
「違います……私はスパイではありません……違います……何の関係もない人なんです……」

「サラサ、そんな事は思い出さなくていい! サラサ!」

「や、め……いや……いやぁっ!」

「サラサ?!」

「やめてエドガー! 来ないで! 触らないで! 嫌だ! 嫌! 嫌っ!」

「……っ!」


 落ち着かせようとサラサを抱きしめようとするが、それが嫌だとばかりに首を左右に振りながら自分の体を守るように縮こまり震えている。
 サラサ……君はそんな事までされていたのか……

 体に触れようとすると、ビクッとして更に震える。その姿が痛々しくて胸が抉られるように痛む。
 しかし、それを課せられたのはサラサなのだ。それに耐えてきたのはサラサなのだ。

 なにも言えずになにも出来ずに、ただ私はサラサの手を握りしめていた。
 

「……リノ……リノ……」

「サラサ……」


 サラサの唇からそれは呟くように零れ出る。涙も絶え間なく零れ出てくる。

 男達にいいようにされて……すがるように、求めるように私の名を呼ぶ……だが助けを求めはしない。サラサはただ一人耐え続けているだけだった。

 求めてはいけないと思ったか? 敵となった私に迷惑はかけられないと思ったか?
 

「君は……なんて……」


 なんて不器用で無垢で健気で……そしてこんなに私を想ってくれていたのかと、今になって、こうなって初めて知ってしまう。
 
 気づけば自分も涙を流していた。私が泣く権利等ないのに。 
 それでもサラサの受けた傷があまりに痛ましく、自然とそうなっていた。

 しかし、それに目を背けてはいけない。サラサの受けた傷を知る必要がある。そうなったのは私のせいなのだから。

 それから突然サラサは悲鳴を上げた。ハッとしてサラサを見ると、顔を半分押さえて震えていた。 
 あぁ……顔を焼かれてしまったのだな……

 
「サラサ……サラサ……大丈夫だよ。大丈夫だ。今は何もないんだよ。サラサは綺麗なままなんだ」

「リノ……もう……ダメ、だ……」

「ダメなんかじゃない。サラサでありさえすれば、私はそれでいいんだからね」

「私はこんなに……汚い……」

「そんな事はない。サラサは綺麗だ。今も昔も綺麗だよ」


 顔の片側を手で覆って泣くサラサは弱々しい。その手の上に私も手を重ねて、何でもないと、もう大丈夫なんだと何度も囁く。それしか出来ない自分がもどかしく、そして情けなかった。

 こんなに苦しんでいるのに、救ってやる事が出来ない。また自分は何もできないのか……

 
「あぁ……リノだ……」

「え?」

「また戦争に駆り出されちゃったんだね……ゆっくり休めなかったの? 怪我はもう大丈夫?」

「それは……もしかして……」

「アッシュブロンドの髪はやっぱり綺麗……藍色の瞳も陽に当たると夕暮れの空みたいで綺麗だって、ずっと思ってたの……」

「サラサ……?」

「会いたかった……ずっと会いたかったの……」

「それは私も……!」

「リノ……こんなところで死なないでね……ちゃんと好きな人と結婚して家庭を作って、幸せに暮らして一生を終えてね……それが私の願いなの」

「君はあの時、そんな事を思ってくれていたのか……?」

「リノ……どうか自分を責めないで……私は今、凄く幸せなんだから……」

「なぜだ……? なぜ幸せ等と……っ!」

「最後に会えて……リノに触れられて……リノの手で私を終わらせて貰えて……本当に嬉しいの」

「そんな事っ!」


 そんな事が幸せなはずがない……!

 だがサラサの受けた事を考えると、死を選びたくなる気持ちも分からなくはない。私も同じように思っていた時もあったのだから。
 
 私に刺された後、私の腕の中で意識を失っていく時に、サラサが思っていたのはこんな事だったのか? 
 そんなふうに私を想ってくれていたのか?

 こんなにも愛しい存在。それに気づかずに素っ気ない態度でいた自分はなんと愚かだったのか。

 サラサにだけではない。他の者にも、私はそうだった。誰にも心を開かずに一人で居続ける事に慣れて……いや、慣れるしかないと思っていた。それが置いていかれる自分の心を守る唯一の方法だと……

 結局は自分の事しか考えていない。私は昔のまま、何も変わっていない。

 そのままサラサは幸せそうに眠りについたようだった。
 
 私に殺された事が幸せだったと言うのか……?

 それが本当に幸せなのか?! ならなぜまた私の元へ来てくれたんだ……!

 眠るサラサを優しく抱き包む。壊さないように壊さないように……

 やっとこうやってまた私の元へ来てくれた。なのにその命が絶えようとしているなんて、考えられない。


「サラサ……君に魔力を返すよ」


 それは古の魔法。なぜサラサが知っていたかは知らないが、魔力の高い者であればそれは可能とされていた。
 ただ解明されていない事も多く、今は禁忌とされている魔法だった。

 自分の魔力を譲渡する事で相手を守る魔法。

 サラサがしたのはそれだ。その魔法が不老不死となる等、誰も知らなかった事なのだろうが。そしてこの魔法は与えた本人に返す事ができるとされている。

 しかしそれはまだ誰もしたことがなく、何事もなく正常に与えられた魔法を返すだけで終わるのかが分かっていないのだ。

 もしかしたら、私の命が無くなるかもしれない。それならまだ良い。私は充分生きたのだから。だが、サラサの身に何か起こるかも知れないと思うと、容易く試すと言うことが出来なかった。

 しかし、それがサラサを救う唯一の方法なのだとしたら、そうするしかないと思った。

 そうして私はサラサの唇に自分の唇をゆっくりと重ねた。
 
 
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