黒龍の娘

レクフル

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第4章

ゾランの思惑

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 ゲルヴァイン王国に蔓延る呪いを防ぐ為に、引き続き黒の石をマルティンに用意させ、更にリフレイム島にあるエルフの村近くにある採石場で確保して貰った物を手にし、広がっている場所の境界線を探りながら結界を張るように黒の石を設置していく。

 これにより呪いは広がることなく、とどまっている状態だ。

 しかし、気になる事があった。

 呪いが蔓延し、その最中にある筈なのに、呪いに侵された者が一人もいなかった村があったのだ。その村の隣にある村もそうで、村人は誰もが健康そのものだった。
 不思議に思って聞くと、一人の少女が病気を治してくれたのだと言う。
 その二つの村人達は皆同じように言い、とてもその少女に感謝していた。

 その少女について聞くと、黒い髪に黒い瞳のとても可愛らしい女の子で、お礼をしようとすると、翼を出して飛んで行ってしまったと、夢でも見ていたのかと思うような感じで話してくれた。
 その姿は龍神のようだったとも、神の使いとも、龍姫とも言っていた。それを聞いて脳裏に浮かぶ人物がいる……

 リュカがここに来ていたのだろうか……?

 リュカは空間移動が使える。なぜここに来たのかは分からないけれど、思う所に来ることができるリュカであれば、遠い地であっても瞬時にやって来る事ができる。

 黒い髪に黒い瞳の少女……

 黒髪黒目の女は希少だ。男でも希少だが、女と言うのは何故かあまり生まれてこない事から、希少種とされている。だからよく誘拐されたりもする。高値で取引されるからだ。
 リュカも希少な存在で、何度か拐われそうになったと聞いた事がある。各国に幅広い人脈を持っている僕だけど、この容姿をした少女は今のところリュカ以外知らない。

 それに翼を出して飛んだと言うのは、もう龍になれるリュカ以外考えられないじゃないか。

 リュカが呪いを解いた? どうやって? そう言えば最近リュカは様子が可笑しくなかったか?
 体の調子が悪そうだった。エリアスさんが、リュカの成長期がやってきたと報告ついでに愚痴っていた。聞くと、今まで一緒にお風呂に入っていたのに断られ、一人で寝ると言い出した、と言っていた。

 もし、リュカがこの村を何らかの方法で助けていたとして、もしかしたらその呪いが体に表れたのだったら……
 いや、しかし……リュカは呪術は使えない筈だ。なら、呪いを解読できる筈はない。だから呪いを解除できる訳もない。ならどうする?
 リュカならどうやって呪いを払う事が出来る?

 ……呪いを……奪った……のか?

 いや、そうとしか考えられない。リュカは呪いを奪ったんだ。そうやって呪いをその体に受けて……だから体調を崩したのか?! 大丈夫なのか?! リュカは?!

 すぐに帝城の執務室にいるカルレスに連絡を入れる。ピンクの石で話が出来るのは限られているから、今はカルレスに動いてもらう他ない。
 カルレスはすぐに動いてくれて、僕の部屋まで様子を見に行ってくれ、それから報告してくれた。
 リュカはいつものように朝、僕の部屋までやって来て、それで帰ったとの事だった。その事をメイド長のマドリーネが報告してくれたそうだ。今は家に帰ったらしく、そうなればもうリュカに会いに行くなんて事は出来ない。

 ひとまずリュカが無事だったようで安堵した。

 エリアスさんが遺跡に入って六日、あれからまだ連絡もつかない。リュカの事を頼まれているのに、リュカの体の不調をそのままにしていては合わせる顔がない。

 今ゲルヴァイン王国では、この災害に尽力して働いているオルギアン帝国の兵達は、まるで英雄かのように崇められている。
 人手が足りないということにして(本当は充分こちらで賄えるが)、シアレパス国からも応援を呼び、この事態の終息に力を貸して貰っている。
 これでシアレパス国にも恩を売れた。

 そして付け入るように、マルティンにもゲルヴァイン王国に入り込む事が出来た。その事にとても喜んでいて、黒の石の代金をかなり割引いてくれた。その正規の請求額をゲルヴァイン王国に提出はしているが、これは何も悪いことではない。それ以上に兵や転送陣を多く貸し出し、救援物資も支給している。採算が合わないのはこちらの方なのだ。
 とは言え、その救援物資もマルティンにはかなり割引いて貰ってはいるんだけどね。

 王の側にはエリアスさんが護衛に付かせたゴーレムがいて、隙を見て王に近づこうとしている者は全て排除できている。
 これにより王を暗殺から守るばかりではなく、良いように懐柔しようとする官僚共から守る事も出来た。

 王は決して出来が悪い訳じゃなく、この数日僕が国を運営していく術を話して聞かせると、凄い勢いで吸収していき、その知識を多く自分のモノとしていった。
 ただ、少し気弱な性格であったが為、自分の発言に自信が持てなくて、いつも官僚の言いなりになっていたようなのだ。
 しかしキチンと教育していけば、この王は立派な王として、誰に恥じることなく国を築き上げていける筈だ。

 それにはまず悪い膿を出す必要があり、そこは宰相であるイェスベル侯爵が尽力してくれるようになった。
 彼もまた宰相でありながら前に出る性格ではなかったそうだが、それではこの国は立ち行かない旨強く言い、それに納得して貰えて何とか気丈に振る舞ってくれるようになった。
 
 そして、他にも協力者を見付ける事ができた。

 エリアスさんはここに来る前、ノエリアと言う女性からこの国の事を聞いている。
 その時にノエリアのご主人であるレイグラフ伯爵が、母君の実家に行ってから戻って来ていないとの事で、その捜索も頼まれていたそうなのだ。
 確認すると、呪いに侵されたこの土地一帯を取り仕切っていたのがそのレイグラフ伯爵の母君のご実家だったらしい。
 そのご実家、ヴレトブラッド伯爵の領地で起こったのが、この呪いの騒動だったって訳だ。

 ヴレトブラッド伯爵が従兄弟にあたるレイグラフ伯爵に助けを求めて彼はここに来たそうだが、レイグラフ伯爵はこの状況を見て流行り病だと思ったらしい。
 そうであれば迂闊にここから外にウィルスを持ち出す訳にはいかないと、シアレパスには帰らなかったそうだ。そうしてくれて本当に助かった。
 そしてこの件を早くに報告させ、手を打つように進言したのだが、話は上まで通らなかったのか、何度言っても何も動いてくれなかったらしい。
 もちろん領主としてこの事をおさめるべく動いていたそうだが、被害者が日々多くなり対応できなくなっていたそうだ。
 その内部下にも、自身の体も黒くなっていく。かなり切羽詰まった状態だった。
 
 この事に憤りを感じていたヴレトブラッド伯爵は、オルギアン帝都がこうやって助けに来た事を物凄く感謝していて、イェスベル侯爵と共に動いてくれる事になった。言うなれば、こちら側の人間になったって訳だ。

 それにはジルドも協力していて、暫くはゲルヴァイン王国に出向という形を取って貰うことにした。

 この国を立て直す事から始めないと、この国に未来はない。オルギアン帝国でなくとも、この国を奪うのは現状容易い。なぜなら軍事力は低いし、官僚共が皆馬鹿ばかりだからだ。だからと言って攻めこむなんて事は勿論しない。

 そんなゲルヴァイン王国とオルギアン帝国は、まだ王との口約束にしか過ぎないが、友好を築けている。
 王には自国の事をもっと知る必要がある。
 人々の暮らしは満ち足りているのか、税金は重くのし掛かっていないのか、軍事の状態はどうなのか、特産品は何か、何が足りていて何が足りていないのか、輸出入は必要か、他国とはどう付き合っていくのか、等をもっと知り、国を動かして行く術を取得していかなければならない。
 
 それに力を貸すつもりだが、勿論旨味もないと困る。

 この国には珍しくドワーフがいる。獣人も多いがドワーフの村も多くあって鍛治が盛んだった。只の村人なのに凄い剣を持っているし、普通に使っている包丁やナイフ等の作りが物凄く、どれもが一級品なのだ。とにかく鍛治の技術が素晴らしい。この技術を提供して貰う事にするつもりだが、各国との仲介をさせて貰うよう交渉する予定だ。
 これにより、かなり武器や防具のレベルが上がる筈だし、この技術を囲いこむ事ができる。

 勿論他にも財源はあって、この地域でしか採れない高級なメロリンという果物がある。その栽培場所を増やして特産物として輸出していく。勿論オルギアン帝国には格安で、だ。それから輸入も必要だ。

 あぁ、考えただけでワクワクしてくる!

 国を立て直すってなんて楽しいんだろう!

 前皇帝であったリドティルク様が皇帝になられた時もそうだったと、ついその事を思い出し、懐かしく物思いに耽ってしまう。

 いやいや、こんな事をしている場合ではない。

 とにかく今のこの状況をなんとか打破しなければ。全てはそこからだ。

 呪いを食い止める事はできた。黒の石を装備させる事で亡くなっていく人を減らす事もできた。ただ、撲滅できた訳じゃない。食い止めただけだ。だからここからは、エリアスさんに任せるしかない。この呪いを解除するすべを見付けて貰う他ないのだ。

 きっとエリアスさんなら、どうにかしてくれる筈だ。僕はそう信じている。
 けれど、まだあれからエリアスさんと連絡は取れない状態が続いている。信じているけれど、やはり何の連絡もないと心配してしまう。
 簡単には死なない……いや、死ねない人だ。あんなに強い人はいない。他にいるとも思えない。
 分かってはいるけれど、彼は僕の友人だ。友人の身を案じてしまうのは仕方のない事なんだ。

 そんなふうに考えてると、不意にピンクの石が光り出す。これはカルレス用の石だ。

 リュカに何かあったのかと、慌てて石を握る。

 しかし、僕が思っていたより事は深刻な状況になっていたのだ。
 


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