慟哭の時

レクフル

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第一章

右手

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朝目覚めて、部屋を出る。

受付に部屋の鍵を返して、

「今日で部屋を出る。先に支払った分は返して貰わなくても構わない。」

そう言うと、宿屋の主人は申し訳なさそうにこちらを見る。、

「あら、そうなの?時間がある時にでも旅の話を聞きたかったわ。またお待ちしていますねぇ!」

おかみは笑顔で見送ってくれた。

宿屋の主人よ。おかみを見習うのだ。

そう心の中で叫びながら、朝食をとりに「風見鶏の店」へ足を運んだ。



「いらっしゃいませ……あっ!」

大きな声で、店員の娘が私を見て

「あ、あの、もう来てくれないかと思いました!」

と、顔を赤らめながら目も合わせずに言ってくる。

「母の事を知り合いに聞いてくれるって言ってくれてたんでね。そんな事を言ってくれたんだ、来ない訳にはいかないよ。」

私が微笑むと、バツの悪そうな顔になって、

「すみません!知っている人に片っ端から聞いたんですけど、誰も見かけた事がなかったみたいでっ!期待してましたよね!ごめんなさい!」

娘は勢いよく深々と頭を下げた。

私は焦って、

「顔を上げて!聞いてくれただけでも有難い事なんだ。謝ることじゃないよ。」

つい右手で彼女の肩を触ってしまった。




頭の中に、様々な情報が流れてくる。




不意に入ってきた情報に頭が追い付かず、処理されるまでに時間がかかり、軽く目眩を起こしそうになる。

そんな私を見て、娘は

「……?!大丈夫ですか?!」

と言って、よろめく私を支えようとする。

それをすぐに右手で制し、

「……大丈夫だ。問題ない。とにかく、母の事はいいから。あの、席に座っても構わないか?」

「え、えぇ、もちろん……」

そう言いながら、戸惑いの表情を浮かべる。

席について、一息つく。
やっと落ち着いてきた。

大丈夫なのか?と、心配そうに私の事を遠くから見ている店員の娘。





彼女の名前はアイリーン。

この「風見鶏の店」の店主の娘だ。

彼女の母はアイリーンが6歳の時に、街の外で出くわした、ラビットと言う頭に角の生えた魔物に襲われて、娘を守るために自分が犠牲になり亡くなったようだ。

それからアイリーンは、母がしてきたことを自分も出来るように、率先して父の手伝いをしてきたのだ。

3歳上の兄がいるが、彼は都会に行って冒険者になるんだと言い、父の反対を押しきり2年前この街を出て行った。

それからは音信不通で、今どこにいるのかも分からず、彼女はすごく心配している。

父親に兄の事を話すと

「あんなヤツのことは知らん!」

と言って、話しも聞いてもくれない。

仕事が終わってから、毎日の様にアイリーンは、剣の稽古をしている。
独自で練習しているので、剣さばきは一向に上手くならない。
それでも、目の前で自分の母を殺した魔物に立ち向かえる様に、剣を振るうのをやめられない様だ。

数ヶ月前にいた恋人は、アイリーンから金を借りると、姿を消した。

そんな事があってから、もう男は信じないと心に決めていたようだ。



ひとしきり、アイリーンの情報が頭を駆け巡る。

自分の右手を恨めしく見つめる。

私の右手は、触れたモノの事を知ることが出来るのだ。

これは持って生まれた力で、異能と言うモノだ。

魔法や、後から得た赤と黄色の石の力は、練習すると制御出来るようになったのだが、この持って生まれた異能の力は、制御することが殆ど出来ない。

触れたが最後、勝手にその情報が頭の中に入ってくるのだ。

知りたくなくてもだ。



ただ、自分が分かって触れた場合。



例えば、レクスと出会った時。

レクスを起こす時に右手で彼の手に触れたが、こちらも準備して挑んだので、然程さっきの様に目眩を起こしたりふらついたりしない。

不意討ちに頭を殴られるのと、頭を殴られると分かってガードした上から殴られるのとでは、感じる衝撃が違うのと一緒なのだ。

因みに、レクスと接触した時に、彼の生まれがどんなで、今は孤児院で暮らしていることや、シスターのこと、冒険者の知り合いがいること、緑の石についての情報を知る冒険者を知っている事などが分かった。



今回は、不意に入った情報なので、ひどく疲れてしまった。

でも、まだ革の手袋をしているから幾分かマシなんだろう。

これを素手でしてしまうと、もっと細かい情報や、過去だけではなく未来の事まで見えるのだ。



人の未来を見ても、何も良いこと等ない。



物心つく前は、私は触れてしまった人の事をベラベラと喋り、予見もしてしまっていたのだから気味悪がられてしまい、そうなると母は急いで街を飛び出したと言っていた。

その予見も、ほぼ100%当たるのだ。

最初は面白がっていた人達も、段々恐ろしい者でも見るような目付きに変わっていったと、私が成長して、自分の能力のことを分かるようになった時に教えてくれた。



だから母は、私が他の人と接触するのを嫌ったのだ。






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