慟哭の時

レクフル

文字の大きさ
43 / 363
第一章

アンネローゼの事情2

しおりを挟む

マティアスと2人で夜の街を歩く。

もう夜も更けはじめた頃だと言うのに、酒場はまだ賑わっていた。

目についた酒場に入っていく。

客は冒険者が多く、ワイワイと賑わっている。


「お?見ない顔だねぇ?!2人は恋人同士か?」

隣にいる冒険者が話しかけてきた。

「い、いえ!私達は……」

「ああ、そうなんだ。今日この街に着いたばかりで。」

「マティアス!」

アンネローゼは少し顔を赤らめて下を向く。

「まぁ、何にもない街だけどさ、楽しんでってくれよ!」

「そうするよ。この街は、余所者が来たら分かるのか?」

「そうだな。あまり余所者の出入りが多い街じゃねぇからな。」

「最近はどうだ?知らない人を見かけたって事はあるか?」

「あぁ、俺は1人見掛けたぜ!スッゲェ綺麗な顔した兄ちゃんだったな!母親を探して旅をしているって話してたのを聞いたぜ。俺は母親じゃなくて、女に慰めて貰えって言ってやったんだけどな!」

ハハハっと男は笑って言う。

「母を探してか……綺麗な顔…さっき宿屋で見た男か。その人以外では見掛けていないか?」

「なんだ?!おめぇらも人を探してんのか?」

「ああ、そうなんだ。若い男でね。多分、今聞いた人とは違うと思うよ。髪が藍色の、背が高めの男でね。見てないかい?」

「俺は知らねぇなぁ。」

「そうか。色々とありがとう。」

「何でもねぇ事だ!」

そう言う彼に、マティアスは酒を注文して奢る。

「ここは余所者はあまり来ない街のようですね。知らない顔があればすぐに分かりそうです。」

「ええ。本当にリディには困ったものです。リディしかいないと言うのに……」




「…あいつらヒデェよ……」




不意に、さっきの男とは別の隣の席に座る男達の声が聞こえてきた。

「自分らだけで情報を独り占めしてるなんざ、許せねぇよ。」

「困っているヤツはいっぱいいるってのによ。」


聞くともなく、聞こえてきたので、何となく2人は耳を傾ける。


「とにかく、明日も行ってやる!俺はジュリの足が治れば、それで良いんだ!」

「俺だって、母ちゃんの容態が良くなってくれりゃあ、それだけで良い!」

「光って治そうが、薬で治そうが何だって良い、治ってくれさえすりゃ……」


聞いてて、2人は顔を見合わせた。


「ちょっとすみません!」

「な、なんだ?!いきなり!」

「今の話、どういう事ですか?!」

「な、なんだお前ら!盗み聞きしてたのか!」

「そんな大きな声では聞かずとも聞こえしまいます。それより、光で病気を治すとか……?」

「あ?あぁ。この街に孤児院があるんだけどな、そこにいるシスターが長い間病気だったのさ。日に日に悪くなっていってな、けど孤児院にゃ余裕は無いから医師に見せることも出来ないって事で、もう長くないかもな、何て言いながら心配してたんだよ。」

「それで?!」

「ところがさ、今日見たら急に元気になっててよぉ!」

「孤児院の子に聞いたらよ、光でシスターを治したヤツがいるってんだよ。」

「だから俺らは、ソイツを紹介して欲しくてシスターに聞いたんだけどな、シスターは知らない、薬で治したの一点張りでさ。」

「何でも良いんだよ。治し方なんて。ただ、俺は娘の足さえ治ってくれりゃあそれで……」

「その、治療した者とは……」


その時、バンって大きな音がして、店の戸が勢いよく開いた。


「アンタ!いつまで飲んでんだよ!明日も仕事があるだろ?!帰るよ!」


そう言って、話をしていた男の奥さんだかが来て、早々と勘定を済ませて、怒りながら男達を連れて帰って行った。


「アンネ様…まさか……」

「ええ。聖女がこの街にいるようです。明日にでも、そのシスターに話を聞きに行きましょう。」


思わぬ拾い物をした、とアンネローゼとマティアスは密かに喜ぶのだった。


  



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...