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第一章
アンネローゼの事情2
しおりを挟むマティアスと2人で夜の街を歩く。
もう夜も更けはじめた頃だと言うのに、酒場はまだ賑わっていた。
目についた酒場に入っていく。
客は冒険者が多く、ワイワイと賑わっている。
「お?見ない顔だねぇ?!2人は恋人同士か?」
隣にいる冒険者が話しかけてきた。
「い、いえ!私達は……」
「ああ、そうなんだ。今日この街に着いたばかりで。」
「マティアス!」
アンネローゼは少し顔を赤らめて下を向く。
「まぁ、何にもない街だけどさ、楽しんでってくれよ!」
「そうするよ。この街は、余所者が来たら分かるのか?」
「そうだな。あまり余所者の出入りが多い街じゃねぇからな。」
「最近はどうだ?知らない人を見かけたって事はあるか?」
「あぁ、俺は1人見掛けたぜ!スッゲェ綺麗な顔した兄ちゃんだったな!母親を探して旅をしているって話してたのを聞いたぜ。俺は母親じゃなくて、女に慰めて貰えって言ってやったんだけどな!」
ハハハっと男は笑って言う。
「母を探してか……綺麗な顔…さっき宿屋で見た男か。その人以外では見掛けていないか?」
「なんだ?!おめぇらも人を探してんのか?」
「ああ、そうなんだ。若い男でね。多分、今聞いた人とは違うと思うよ。髪が藍色の、背が高めの男でね。見てないかい?」
「俺は知らねぇなぁ。」
「そうか。色々とありがとう。」
「何でもねぇ事だ!」
そう言う彼に、マティアスは酒を注文して奢る。
「ここは余所者はあまり来ない街のようですね。知らない顔があればすぐに分かりそうです。」
「ええ。本当にリディには困ったものです。リディしかいないと言うのに……」
「…あいつらヒデェよ……」
不意に、さっきの男とは別の隣の席に座る男達の声が聞こえてきた。
「自分らだけで情報を独り占めしてるなんざ、許せねぇよ。」
「困っているヤツはいっぱいいるってのによ。」
聞くともなく、聞こえてきたので、何となく2人は耳を傾ける。
「とにかく、明日も行ってやる!俺はジュリの足が治れば、それで良いんだ!」
「俺だって、母ちゃんの容態が良くなってくれりゃあ、それだけで良い!」
「光って治そうが、薬で治そうが何だって良い、治ってくれさえすりゃ……」
聞いてて、2人は顔を見合わせた。
「ちょっとすみません!」
「な、なんだ?!いきなり!」
「今の話、どういう事ですか?!」
「な、なんだお前ら!盗み聞きしてたのか!」
「そんな大きな声では聞かずとも聞こえしまいます。それより、光で病気を治すとか……?」
「あ?あぁ。この街に孤児院があるんだけどな、そこにいるシスターが長い間病気だったのさ。日に日に悪くなっていってな、けど孤児院にゃ余裕は無いから医師に見せることも出来ないって事で、もう長くないかもな、何て言いながら心配してたんだよ。」
「それで?!」
「ところがさ、今日見たら急に元気になっててよぉ!」
「孤児院の子に聞いたらよ、光でシスターを治したヤツがいるってんだよ。」
「だから俺らは、ソイツを紹介して欲しくてシスターに聞いたんだけどな、シスターは知らない、薬で治したの一点張りでさ。」
「何でも良いんだよ。治し方なんて。ただ、俺は娘の足さえ治ってくれりゃあそれで……」
「その、治療した者とは……」
その時、バンって大きな音がして、店の戸が勢いよく開いた。
「アンタ!いつまで飲んでんだよ!明日も仕事があるだろ?!帰るよ!」
そう言って、話をしていた男の奥さんだかが来て、早々と勘定を済ませて、怒りながら男達を連れて帰って行った。
「アンネ様…まさか……」
「ええ。聖女がこの街にいるようです。明日にでも、そのシスターに話を聞きに行きましょう。」
思わぬ拾い物をした、とアンネローゼとマティアスは密かに喜ぶのだった。
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