慟哭の時

レクフル

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第一章

アンネローゼの事情4

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この街に聖女がいる。

……かも知れない。


国にとって、聖女を確保出来ることは戦力強化に大きな影響を及ぼす。
よって、聖女を見つけ出した者は、功労者として称えられるのだ。
貴族で無いものは爵位を、貴族であれば爵位が上がり、報酬も多大なものとなる。

こう言うことから、聖女の情報には皆目の色が変わる程に敏感になる。

アンネローゼは特に報酬等に興味は無いが、騎士として国の戦力アップを望むことと、今まで何の功績も上げられていなかった事から、聖女の情報に心踊るのだった。

思わぬ情報に、まずは情報を収集したいところだったが、もう夜も随分と更けてきたので、浮き足立つ気持ちを抑えて宿屋に戻ることにした。


「アンネローゼ様、今日はもう遅いので、明日この街に派遣している諜報員に連絡を取り、情報を聞き出します。皇子の件も、明日再度確認致します。」

「分かりました。マティアス。じっとしていられなくて遅い時間に出てしまったけれど、良い情報を得られて良かったわ。ここに来た甲斐があります。」

「そうですね。ただ、まだ未確定の情報です。諜報員からの情報を得てから、他の者にも報告しましょう。」

「分かりました。マティアス、今日はありがとう。」

「滅相もございません。御一緒できるだけで光栄に思います。」

「大袈裟よ……」

そうして2人は宿屋へ帰って行った。



翌朝、宿屋の一階にある食堂で朝食をとる。

まだ部下達は、口々に食事の文句を言っていた。
庶民的な食事だったが、味は悪くはない。
それでもストレスが溜まっているのか、彼達の口は止まらなかった。

周りにいる他の客達は、こちらを迷惑そうに見ながらも、誰も口を出さないでいる。
見るからに貴族と思わしき集団に、誰も何も言えないのは仕方がない事だろうが、この店の中は雰囲気がかなり悪くなっている。

あまりの事に見かねて、アンネローゼが

「黙って食べなさい。失礼ですよ。」

と注意した。

その一声で皆が静まった。

上官が言うことは、やはり従わなければならない。
部下達は渋々黙った。

少しして、席を立った男がいた。

昨日受付で見かけた男だった。

会計を済ませて出て行こうとしているところを、マティアスが

「おいお前。ちょっと待て。」

と呼びかけて彼の元まで近づいて行った。

「なんだ?」

「この街に病人だか怪我人が、急に元気になったって言う噂を聞いた。お前は何か知らないか。」

「私は旅人だ。この街に来て数日だから、よく分からないな。」

「そうか。何か分かれば知らせてくれ。」

そう伝えてから、席までもどってきた。


「マティアス、どうしたのですか?」

「余所者があまり来ない街に来た旅人なので、昨夜の件について聞いてみました。何か関係がある可能性を探ったのですが、今の反応では何とも…」

「そうでしたか。」

「どうした?マティアス。何の話だ?」

副長のヘルベルトは聞く。

「昨夜ある情報を得たんですが、それは諜報員に確認してから、また詳しく説明致します。」

「皇子の事か。何かわかったのか?」

「それはまた後程・・・。」

「まぁいい。今日は少しゆっくりさせて頂きたい。部屋にいるので何かあれば声をかけて貰えますか。」

そうアンネローゼに伝え、副長は部屋へと帰った。

子爵であるヘルベルトは、男爵位からこれまでの実績で爵位を上げた一人だ。
彼は野心家で上昇志向が高く、もし聖女の事が分かれば、我先にと出てくるだろう。

まずは情報をしっかりさせてから動くことにする。

アンネローゼとマティアスは2人で目を合わせて頷いた。








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