慟哭の時

レクフル

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第五章

アデルの恐怖

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アデルに触った瞬間、今までのアデルの置かれた状況が一度に頭に流れ込んできた。


「アシュレイ…?」

「あ……あ……っ……うっ………」

「アシュレイ?!」


そのまま、アデルの記憶に飲まれて、気を失ってしまった……




私は幼い頃は、裕福な家庭で育てられた。

お母さんは、「アデルって名前は、高貴な人って意味があるのよ。」って、私の名前の由来を、微笑みながらよく口にしていた。
お父さんも優しくて、私達はとても幸せだった。

8歳の時、家に強盗が入り、お父さんもお母さんも私を庇って殺された。

私を拐った強盗は馬車でどこかに向かっているようだったけど、止まっている間に何とか逃げ出せて、近くの街にあった教会まで助けを求めに行った。

それがいけなかった。

そこは教会が運営する孤児院で、私と同じ位の子供達がいっぱいいた。

それからは、孤児院の皆で鉱山に行って、朝から晩まで働かされた。

孤児院に帰ると、教徒に理由もなく殴られて蹴られる。
それをいつも庇ってくれたのがエリアスだった。

「アデルは可愛いからすぐに娼館に売られちまうから、いつも顔を汚していろ。」と言って、私の顔をいつも土で汚した。

そんな優しいエリアスの事が好きになった。
「大きくなったらエリアスのお嫁さんになる。」って伝えたらエリアスは、恥ずかしそうに頷いた。

そんな毎日が続いたある日、最年長のエゴールが、ここから逃げようって言い出した。

毎月報告会だかで、この教会に教徒が誰もいなくなる日がある。
その日を狙って、5歳未満の子達は置いて、逃げようって事になった。
残りたい奴は残れば良い、との問いに、誰も賛同しなかった。

決行の日、皆で裏口から、街の外へ走りながら向かった。

しかし、その逃亡はすぐに見抜かれて、瞬く間に追手がやって来た。

息も絶え絶えに走っていると、後ろから首が飛んできた。

それは妹の様に可愛がっていた、ルイジアだった。

声も出せずに立ち竦んでいると、エリアスが私の手を取って走り出した。

まさか殺されるとまでは思ってなかった私達は、恐怖に駆られながら、森の中を走り続けた。

時々、叫び声が聞こえる。

怖くて動けそうになくなった時も、エリアスがずっと引っ張って行ってくれた。

追手の男は、切り落とした子達の首を、わざと私達に投げてきた。
それも笑いながら。

2人で、ただ夢中で走った。

暫くして、追手が来なくなった。

やっと教徒達の手から逃れる事が出来た。

エリアスと私は、殺された仲間達を思って、抱き合って泣いた。

それから夜通し歩いて、近くの川で水を飲んで、木の実を拾って食べながら、ひたすら歩いて2日後、盗賊に襲われた。

私とエリアスは捕まって、奴隷として売られる事になった。

エリアスが先に買われて行った。

泣きながら、何度もエリアスの名前を呼んだが、その声は届かなかった。

それからすぐに私も買われたが、私を買ったのはあの教会の教徒だった。

マルティノア教国まで連れ戻され、それからは人として扱われなくなった。

首輪を付けられ、手で物を食べる事を禁止された。

それから、私は教徒達の慰み者となった。

毎日代わる代わる、男達が私を凌辱していった。

14歳になった頃、首輪が合わなくなったからと、交換するべく外した瞬間を狙って、思わずその場から逃げ出した。

今まで逃げた時は、必ず逃げられていた。

そんな記憶がそうさせたのだけど、私は街中で監視の対象だった様で、すぐに見つかって連れ戻された。

教徒の男は、もう二度と逃げ出さない様にと、私の脚を膝上から切断した。

あまりの激痛に、そのまま気絶した。

死んでもおかしくない状況にも関わらず、私は生きていた。

何日も眠り、目が覚めた時には、私の手足が無くなっていた。

あまりの事に気が狂いそうになり、大声で泣きわめいていると、そんな私を見て教徒達は笑い続けていた。

全身を襲う激痛に耐え、何度も殺して欲しいと懇願し、それでも男達は私を生かす事を喜んでいた。

それからは見世物として、テントの中の檻に入れられ、時々私を買った男に凌辱される。

私は自分の心を捨てた。

思い出すのは優しかった父と母の事。

母の言った、私の名前の由来が高貴な人だと言う事。

それから、私がお嫁さんになると言った時、エリアスが恥ずかしそうに頷いた事。

そんな僅かな幸せを思い出し、私は目の前の事から意識を無くした。


私は………何なのだろう……


何をされているんだろう………


なぜ生きているんだろう………


助けて………


誰か助けて………


エリアス………


助けて………


助けて………


お願い………


助けて………


……エリアス……





「アシュレイっ!」

「……エリアス?」

「アシュレイ、どうした?凄くうなされていた。」

気づくと、ベッドに寝かされていて、エリアスが心配そうに私を見詰めていた。

体を起こすが、すぐにアデルの記憶が全身を襲うように、私を恐怖に打ちのめす。


「いやぁぁぁぁぁっっっ!」

「アシュレイっ!どうした!アシュレイっ!」


エリアスが私を抱き締めた。

知らずに涙が溢れだし、ガタガタと体が震えだす。

「エリアスっ!助けて!エリアスっ!」

「大丈夫だ、アシュレイ!大丈夫だからっ!」

エリアスは私の背中を撫でながら、落ち着かす様にずっと「もう大丈夫だ。」と言い続けていた。

暫くして、少しずつ現実が理解出来てきて、落ち着きを取り戻してきた。

自分の手足があるのを確認して、それから安心した様に、また涙を流した。


「アシュレイ、落ち着いてきたか?どうしたんだ?」

「……エリアス……」

ずっとアデルの感情が残る。

こんなに焦がれて、やっと助けにきてくれたのに、自分はあんな姿で……

涙が溢れて止まらない……

「右手で……アデルを触って……アデルに今までに起きた事が分かって……」

まだ涙が止まらなくて、口を覆いながら震えていた。

「右手……そうか…そうだったな……」

「……アデルは…?」

「今はシスターがついてくれている。」

エリアスが私の隣に腰かけて、私の頭を自分の胸にあてた。

「そんなに酷かったか……」

「怖かった……痛かった……ずっと…ずっと助けを待っていた……」

まだ震える体を、エリアスが優しく撫でる。

「酷すぎる……こんなこと……人間のする事じゃない……」

「アイツ等……許せねぇっ……!」


暫くして、ようやく落ち着いてきた。


「エリアス……アデルを治してあげたい……」

「アシュレイ……ありがとう……」


それから2人で、アデルの元まで戻る事にした。





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