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第五章
名付けの由来
しおりを挟むレクスを見送って帰ってきた次の朝、俺はやはり気になって、帝城にいる、聖女の元まで行くことにした。
ゾランはまだ調査中なのだろう、今日は姿をまだ見せない。
いつもは朝食前には挨拶に来る。
朝食が済んでも来ないと言うことは、調査に出ている、と言うことだろう。
もう体も万全なのだし、今回は一人で空間移動で行くことにした。
直接聖女の部屋へ。
帝城の、父上の部屋の近くの聖女のいた部屋を思い出し、歪みを作り出す。
しかし、その歪みの中には入れなかった。
何度も試みたが何かに阻まれている様で、歪みの先には行けなかった。
これは結界を張っているかもしれない……
今回の聖女を逃がす訳にもいかないから、こうやって聖女の身の回りを強化しているのかも知れない。
仕方なく、俺が倒れた時によく使っている部屋へ移動した。
そこから歩いて、聖女の部屋まで行く。
時々合う貴族からは、前とは違った反応が向けられた。
皆が俺をせせら笑う様に微笑んだ。
どうやら、俺が帝位につかない事が、もう知れ渡っている様だ。
その分俺に敵意を向ける者が少なくなって、前よりは過ごしやすくなっていた。
聖女の部屋までやって来て、前で見張りをしていた兵に面会を申し出る。
兵が扉を開けたので、中へ入る。
聖女はまた、窓から外を眺めていた。
俺に気づいた聖女が、ニッコリ微笑んで挨拶をしてきた。
「ごきげんよう。リドディルク様。」
「俺の名前を覚えてたんですね……失礼ですが、貴女の名前を教えて頂けますか。」
「私はラリサと申します。」
「聞きたい事があります。……貴女はアシュリーの母親ですか?」
「……!あの娘の事を知っているんですか?!」
「はい…旅先で知り合いました。やはり、貴女は……」
「……えぇ。私はアシュリーの母親です。」
「なぜアシュリーの前から姿を消したのですか?」
「それは……私といると、あの娘が狙われるからです……」
「狙われる?誰に……?」
「……その前に……貴方はなぜあの娘の事を『アシュリー』と呼ぶんです?」
「彼女は男を装っていますが、女性です。それに……」
「それに……?」
「俺はアシュリーの事を愛しています。」
「……っ!なっ!なぜそんな事にっ!」
「彼女の優しい感情が忘れられません。今の俺の、唯一つの安らぎです。」
「いけません!それはダメです!」
「何故ですか?!俺の何がいけないんですか?!」
「違うっ!そう言う事じゃなくて……あぁっ!どうしたら良いのっ!?」
「どういう事なんです?!何がいけないのか、教えて頂けますか?!」
「……リドディルク……強く、人々を導く者になれる様に名付けた……貴方は私の……」
「……え……?」
聖女が俺の頬に手をあてた。
それから意識が飛んでいく……
気づくと、俺は帝城にある部屋にいた。
もしかして、また俺は倒れたのか……?
俺は何をしにここまで来た?
ゾランも連れて来ずに一人で……?
思い出そうにも、頭にモヤがかかった様に、思い出せないままでいた。
とにかく、ここにいても、また気分が悪くなるばかりだから、後宮に帰ることにした。
歪みを作り出し、自分の部屋に戻る。
帰って来てからも、何かが腑に落ちない。
スッキリしない感覚が残る。
胸元がザワザワするが、原因が分からない。
胸に手を当て、そのザワザワの理由を探っていると、何かが手に当たった。
見ると、それはピンクの石の首飾りだった。
「なぜ今頃、俺はこんな物を着けている……?」
それはリーザが俺との連絡手段として使っていた物で、リーザが亡くなってからは着けなくなった筈なのに……
「俺はまだリーザを恋しいと思っているのか……」
自分に呆れて、首輪を取り、収納した。
ドカッとソファーに腰かける。
何かスッキリしない……
それが何なのかが、思い出そうとしても、全く分からない。
何故俺は今日、帝城へ行った?
行く必要があったのか?
いつ倒れた?
ゾランと一緒ではなく、何故一人で行った?
考えても考えても、答えが出てこない。
俺は何かを忘れている……?
誰かを忘れているのか……?
考えても考えても……
やはり答えは出ないままだった……
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