慟哭の時

レクフル

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第六章

祖父ダレル

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帝城の地下3階。

東端にある、牢獄。

地下へ行く程に暗くなり、湿気も多くジメジメしていて、夏でも薄ら寒い状態になる。

地下一帯は迷路の様になっており、もし抜け出したとしても、簡単には地上に出られない様に策が練られてある。

知らない者が迷い込もうものなら、至る所にある罠によって、直ぐにでも絶命してしまうだろう。

俺とゾランとジルドは案内人に連れられて、この地下の牢獄へと向かう。

今この帝城には、次代皇帝と皆が認識している俺の言う事に逆らう者は、誰一人としていなかった。

地下へ降りて行く度に、醜悪で悲惨な感情の渦に引き込まれてしまいそうになる……
ゾランが、心配そうな面持ちで俺の側を離れない様にしてついて来ている。


「こちらです。リドディルク様。」


拷問部屋へたどり着いて、中へと案内される。
ここまで来る必要は本当はないのだが、牢獄や拷問部屋等といった場所を確認しておきたかったのだ。
この帝城の闇の部分にも、俺は目を向けて行かなければならないだろうから。

拷問部屋には、様々な拷問をするであろう器具があちこちに置かれてあった。
至る所に血痕があり、その数だけ痛ましい感情がこびりついている……
この部屋の中の感情だけでも、目眩で倒れてしまいそうになる……

中には、一人の男がいた。


「……貴方がダレルか?」

「はい。私がダレルです。」


ゾランに目配せをして、案内人の兵を外に出す。
それから周りに防音効果のある結界を張る。
ダレルと名乗った男は、目が虚ろで、何の意思も無いような、ただそこにいる、と言った状態であった。
彼からは、何の感情も読み取れなかった。


「初めてお目にかかります。俺は……ラリサ王妃の……」


ラリサと言う名前を聞いたダレルは、一瞬眉がピクリと動いた。


「ラリサ王妃の……息子です……」

「……ラリサ……息子……」


何かを思い出そうとしているのか、それを拒否しようとしているのか、ダレルの心の中は、何かに抗う様な感情が見えだした。


「そうです。俺はラリサ王妃の息子です。貴方は俺の祖父です。」

「……ラリサ……」

「貴方とキアーラの娘のラリサですっ!」

「……キアーラ……」


ダレルの表情が変わり出した。
苦痛に耐える様な、恐怖におののく様な、後悔と懺悔の感情も合わさって、ダレルの心が大きく動く。


「……キアーラっ!……キアーラ!!」


頭を抱え込み、嘆く様に声を絞り出す様に、ダレルは苦しんでいる。

俺はその感情にあてられつつも、ダレルの側に行って、そっと彼の肩に手を置いた。


「リドディルク様っ!そんな事をしてはっ!」

「黙っていろゾラン!」

「……っ!」


ダレルから様々な苦痛が俺に入り込んで来る……
圧し殺していた感情が、俺に流れて来る……
物凄い苦痛の感情が、俺を襲う……!


「これ以上はいけませんっ!リドディルク様っ!」


ゾランが俺をダレルから引き離した。

俺の口と鼻からは血が流れ出ていた。


「あぁ……っ!キアーラっ!すまないっ!キアーラぁぁぁっ!」


やっと人としての、当たり前の感情を思い出したダレルは、そこに伏して泣き叫んだ。
もう何年も前の事が、昨日の事の様に、そして堰を切った様に感情が溢れ出した。
  
ふらつく俺を、ゾランが支えた。


「また……日をおいて会いましょう……それまでは……ここで仕事をする必要はありません……」


そう言って拷問部屋を後にした。

ジルドに指示を出して、それからゾランと共に後宮へと帰った。

俺はまたそれから意識を失い、2、3日寝込む事になったが、その間にゾランとジルドは体よく動いてくれていた様だった。

動ける様になってから、ダレルを俺がいつも使っている帝城の部屋へと呼び出した。
ダレルは幾分か落ち着いている様だった。
しかし、その表情は暗かった。


「俺を覚えていますか?」

「いえ……申し訳ありません……」

「それは仕方がありません。俺は……ラリサ王妃の息子です。」

「何っ!?それは本当ですか?!」

「はい。この事は、俺自身最近知りました。」


そう告げてから、自分の左手首にある腕輪を見せた。


「それはっ!村の宝の!」

「えぇ。能力制御の腕輪だそうですね。それに精霊の加護がつくとされる青の石を、ラリサ王妃が錬金術で着けた物です。」

「お……ぉ……そんな……しかし…これは間違いなく……っ!」

「俺が赤子の時にこれを着けて、ラリサ王妃はもう一人の赤子を連れて逃げたんです。俺達は……双子だったんです。」

「そうだったんですね……!そうだったんですね……っ!」

「貴方は俺の……祖父です……」


涙を流すダレルにそう告げる。
ダレルは肩を震わせて、何度も頷いた。
それから俺達は、確め合う様に抱き合った。

ダレルにはラリサ王妃から聞いた、事の経緯を話して聞かせた。
ダレルは涙ぐみながらも、静かに聞いていた。

ひとしきり話してから、腕輪の外し方を確認する。
腕輪は対になっていて、もう一つないと外す事が出来ないのだそうだ。

もう一つは、確かラリサ王妃が持っていた筈だ。
また確認しにいかなければいけないな……




そして、その日から10日後に、俺の皇位継承の儀が行われる事が決まった。




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