慟哭の時

レクフル

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第七章

思い出

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執務室から出て、久しぶりにインタラス国の王都コブラルまで行く事にする。

空間移動でコブラルまでやって来たけど、これ結構魔力くうんだよな……

ギルドに寄って、アルベルトを呼び出す。


「エリアス!久しぶりだな!」

「よう!アルベルト!調子はどうだ?!」

「ここはいつもと変わらないぞ?あ、そうだ。アドルフがランクアップしてな。晴れてAランク冒険者になったぞ!」

「そうか!良かったじゃねぇか!」

「あぁ、エリアスが依頼を受けなくなってから、皆頑張ってくれていたからな。全体的にランクの底上げが出来た。いやぁ、結果エリアスが出て行ってくれて良かったよ。」

「んだよ、それっ!ひっでぇなぁ!」

「ハハハ!冗談だ!……ところで、まだ見つからないのか?アシュレイは……」

「あぁ……」

「こちらにも情報はない。すまないな。」

「いや、仕方ねぇ。あん時…俺がアシュレイを一人で行かしちまったから……」

「もう自分を責めるのは止めろ、エリアス。アシュレイは強い。それに、ずっと一人で旅をしていたんだろう?ちょっとやそっとでどうにかなる奴じゃない。そうだろ?」

「分かってる。けど……アシュレイが困ってる時に傍にいてやれねぇのが……な……」

「元気だせ!らしくないぞ!」

「分かってるよ!じゃあ、何かちょっとでも分かったら、すぐに知らせてくれな!」

「必ずそうする。エリアス、無理はするなよ!」

「あぁ!」


ギルドを出てから、食料を大量に買ってスラムへ行く。
そこで皆に料理を振る舞いながら、最近の事なんかを聞いていく。
ここでもアシュレイのことを確認したけど、何の情報も得られなかった。
買ってきた飯を食いながら、あちこちで口々に、アシュレイが作ってくれた物がまた食べたいって言い出す。
俺もそうだ、と言うと、それからは何も言わなくなった。
気、使わせちまったかな……

夜になってスラムから帰って来て、宿屋へ戻る。
ここはアシュレイと泊まっていた部屋だ。
いつアシュレイが帰ってきても良い様に、あれからずっとこの部屋を借りっぱなしにしている。
扉を開けるとき、いつもアシュレイがそこにいて、笑って俺を迎えてくれるのを想像しちまう。
けれど、扉を開けても、そこには誰もいない空間があるだけだ。

いつもの、アシュレイのいない部屋……

この2年間、どれだけこの虚しい感情に襲われてきたか……
一緒にいた時間より、いない時間の方が長くなっていっても、それでも俺はアシュレイを求めてしまうんだ。

アシュレイはずっと一人で母親を探していた。
ずっと一人で、誰にも頼らず、誰にも触れられず……
それはどんなに孤独だっただろうか……
どんなに虚しい思いをしてきていたんだろうか……
こうやって一人でアシュレイを探す旅をするようになってから、ちょっとだけアシュレイの気持ちが分かった気がする。

それでも俺には知り合いがいっぱいいるし、誰にでも触れる。
アシュレイとは違う。
アシュレイが唯一触れる事が出来た母親を探して旅を続けていた事を、今になってその気持ちが分かって、考える度に胸が苦しくなる……

ずっと……

アシュレイが一人で寂しいって、泣いていた様に感じとれてしまって……

今もそんな風に、一人で寂しい思いをしているんじゃねぇのかって……

だから探すのを止められねぇ。

それはもちろん、俺の為にもだ。

アシュレイの母親は、アシュレイから愛する人の記憶を消したって言っていた。
それから、親子で旅をしていた頃の楽しかった場所を思い出せって言っていたらしい。

ディルクの事だけを忘れてんなら、俺のところに帰って来た可能性はある。
けど、アシュレイは帰って来なかった。
もしかしたら、違う忘却魔法だったかも知んねぇ。
それを確かめようにも、アシュレイの母親は今、自分の事がよく分かってねぇ状態だ。


ディルクが言うには……


アシュレイがベルンバルトに襲われそうになっている時、母親に何故ベルンバルトの記憶を消さなかったのか聞きに行って、それから解いた結界を元に戻す事をしないまま、アシュレイを探しに行った。
だから、母親は自由に帝城を動き回れる様になっていたそうだ。
いくら慌てていたとは言え、自由にさせた結果がこれだ、と、ディルクは情けなさそうな顔をしながら言っていた。

アシュレイが母親に忘却魔法をかけられていた時、ディルクは咄嗟に雷魔法で母親を気絶させたらしい。
すぐにアシュレイを離して、その場に倒れた様だが、時すでに遅く、アシュレイは空間の歪みに消えていった。

その後、母親の意識が戻ってからディルクが聞き出そうとしたそうだが、母親は自分自身に忘却魔法を使ったらしい。
それからは、何を聞いても分からないと言うだけだったと、その時は辛そうな顔をしながらディルクが言っていた。

アシュレイの事も、ディルクの事も、忘れてしまっている。

しかし、元皇帝のベルンバルトの事は覚えているらしく、ディルクに老化させられて動けなくなったベルンバルトの世話を、率先して行っているとの事だった。

なんで、自分の運命をおかしく変えた男の世話をするのか……
その理由は未だに分かんねぇ……
何を聞いても、母親は穏やかに微笑むだけで、何も話さない。
感情も読み取れない。
ディルクがやりきれなさそうに、そう呟いていた。

しかし聖女の仕事は、言えばきちんとしてくれるみてぇだ。

ベルンバルトと母親の姿を見る時、ディルクの心はきっと痛みで苦しいんだろう……
時々、泣きそうな顔をして二人を見詰めている。
そう教えてくれたゾランも、辛そうに言っていた。

なんでこんなに上手くいかねぇんだ……?

ただ俺達は銀髪の血をひくってだけで、特別他の奴達と違う事なんて、何もねぇんだ。
そりゃ、異能の力はあるし、精霊の力を借りられるし、魔法にも長けているけど、それ以外は至って普通だ。
普通に皆と同じように、好きな人と共に生きて行きたいって、そう思っているだけなんだ。

ベッドに寝転びながら、つい今までの事を思い出して考えちまう……


「アシュレイ……会いてぇ……」


自然と口から溢れてきた……

夜になると少し疼く傷痕も、アシュレイとの日々を思い出させてくれるから、今はその痛みでさえも愛しく感じてしまう。

明日はシアレパス国まで行く。

俺は行ったことがねぇから、アクシタス国から船に乗って行く事にする。

陸路でも行けるが、迂回する形になるから、船の方が早くに着くからだ。

明日の日程を考えてると、緩やかに眠気が襲ってきた。

傷痕の痛みを感じながら、アシュレイとの日々を思い出して、俺はゆっくり眠りについていったんだ……






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