慟哭の時

レクフル

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第七章

自分の記憶

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やっと見つけた……

会いたかった……

すっげぇ会いたかった……!

けど、まずはアシュレイの警戒心を取り除かねぇといけねぇ……

俺はアシュレイの後ろをついて行く。
そうやって暫く歩いていくと、街外れの住宅地の、古びた一軒家の前でアシュレイは立ち止まった。
扉をノックすると、中から一人の男が出てきた。


「あぁ、リュカ。ん?……後ろの奴は誰だ?」

「……知らない。勝手について来ている。」

「またそんな目にあってんのか!いつも災難だなぁ……おい、お前!リュカに近づくな!兵を
呼ぶぞ!」

「俺は知り合いだよ!」

「皆そう言うんだ。……ったく、リュカの気持ちも考えてやれ!」

「今までもこう言う事があったのか?!」

「リュカ、俺が話をつけてやる。先に中に入ってろ。」

「…………」


アシュレイが部屋へ入って行くと、その男は俺の元までやって来た。


「リュカを見て魅入られたか?アイツはそうやって何度も襲われそうになってるんだよ。記憶が無いのを良いことに、自分は知り合いだって言って近づいてくるんだ。お前もそうだろ?!」

「ちょっと待ってくれ!アシュレイは自分の事も分かってねぇのか?!」

「……どう言う事だ?それに……リュカをアシュレイと言ったか?」

「そうだ。あれはアシュレイだ。忘却魔法をかけられたんだ。その……アシュレイの愛する人の事を忘れる様にって……俺達はずっと、突然いなくなったアシュレイの母親を探す旅をしてたんだ。」

「……アンタ、何て名前なんだ?」

「俺はエリアスだ。」

「エリアス?!アンタがエリアスか!」

「え?…あぁ、そうだけど、どうしたんだよ?」

「そうか……だからここまでついて来させた訳か……」

「どう言う事だ?」

「いや……まだそれは言えないな。リュカが信用しない限り、俺からは何も言わないでおく。」

「……ったく、二人とも強情だなぁ。アシュレイが強情なのは知ってっけどな……で?アンタとアシュレイの関係は何なんだよ?」

「俺は武器職人だ。だが、たまに魔物を倒しに行ったりもするんだ。武器の性能を確かめる為にな。でも、俺はそんなに強くないから、護衛を頼むんだよ。最近はよくリュカに頼んでいる。ま、俺はリュカの依頼人ってヤツだな。」

「でも、アシュレイは今、リュカを名乗ってGランクだろ?なんでアシュレイに頼むんだよ?」

「前に魔物に襲われている所を助けられてな。その剣捌きに惚れこんだんだ。それからは個人的に頼む事にしてる。」

「そうなんだな。」

「ところで、リュカはどうして忘却魔法なんぞかけられたんだ?」

「それは……まだアンタには言えねぇ。こっちにも色々あんだよ。」

「しかし……愛する人を忘れるって事は……それ以外の人を覚えているって事だろ?アンタの事を知らないリュカは、アンタを愛していたって事なのか?」

「そうであれば……こんなに嬉しい事はねぇ。けど……アシュレイは他に好きな奴がいたんだよ。俺はアシュレイに何度も自分の気持ちを伝えたけどな。……自分を忘れたって事は……自分自身を愛していたって事か……まぁ、その忘却魔法が本当に愛する人の記憶を無くしたんなら、だけどな。」

「その忘却魔法をかけた奴に、確認はしなかったのか?」

「忘却魔法をかけた人物は……その後自分にも忘却魔法をかけて……アシュレイの事も分からなくなってる……」

「複雑そうだな……それが全て本当の事ならな。」

「俺は何一つ嘘なんて言ってねぇ。……この2年間……ずっと探してたんだ……やっと見つけたってのに……」

「そうか……アンタは他の奴らとは違う感じはする。けど、やっぱりリュカが信用するまでは、俺もアンタを信用しない。」

「分かったよ……けど、アシュレイにはついて行く事の許可は貰ってる。俺はアシュレイとは絶対に離れねぇ。アシュレイが出てくるまで、悪いがここで待たせて貰うぜ?」

「分かった。」

「あ、そうだ、アンタの名前はなんて言うんだよ?」

「俺はユリウスだ。邪魔にならん所で待つようにな。」

「あぁ。」


ユリウスは家へ入って行った。

そうか……

アシュレイは自分の事も分かってなかったのか……

それはさぞかし不安だったんだろうな……
けど、俺の事も忘れちまってる。
戻って来なかったって事はそう言う事かって可能性として考えてたけど、やっぱりそうだったんだな。

ったく……どんな忘却魔法を使ったんだよ……
けど、もし愛する人を忘れるって事が本当だったら……アシュレイは俺の事もそう思ってくれていたって事なのか?!
そうだったら……すげぇ嬉しいんだけど……!
あ、ダメだな、自分の良いように考え過ぎたら、またレクスに怒られちまう……

しかし、髪色が黒になってるって事は……考えられんのは、テネブレがアシュレイに入ってるって事だ。
その力を使いこなしたって訳か?!
そうなら、すげぇ事だけどな。

けど、ディルクが言ってた。
魅了は闇の力だ。
それを光の力で抑制していたって。
テネブレがアシュレイと一つになった時の、あのアシュレイの魅了の力は半端なかった。
俺には魅了は効かねぇ。
けどそんな俺でも、テネブレと一つになったアシュレイの魅了には、何度も飲まれそうになった。

光の力で抑制していたとしても、まだ魅了は抑えられねぇって事か……
魔力制御の石のベルトは、今俺が持ってる。
アシュレイは魅了を抑制できずに振り撒いてたって事なんだな……
そりゃぁ、誰彼構わず引寄せちまうよな……
それにあの容姿じゃあ、そうなるのも仕方ねぇ。

けどそのせいで、アシュレイに近づこうとした奴が多くいて、アシュレイは今誰も信じられなくなっているんだな。

自分を知ってる奴が現れて、安心したところで襲われたら……そんな事を何度も繰返しあったとしたら……そりゃぁ誰に対しても警戒するよなぁ……

もっと早くにシアレパスに来りゃぁ良かった……

アシュレイはきっと怖かった筈だ。

自分の事が分からないって、どんだけ不安でいたんだ……

その事を思うと、胸がズキズキ痛んでくる。
あれだけ、ずっと一緒にいるって、約束するって言ったのに、俺はそれを守れずにいた。
だから、今度こそ絶対にアシュレイからは離れねぇ!
何があっても、アシュレイからは離れねぇっ!


家の前にあった木にもたれかかって腕を組んでそんな事を色々考えていると、アシュレイが家から出てきた。
アシュレイは俺を見ると、ハッとした感じで一瞬立ち止まったけど、すぐに何でもない感じで立ち去ろうとした。
俺はすぐにアシュレイの後ろをついて行く。
しばらく歩いて行って、教会あたりで足を止めた。

俺の方ををチラっと見てから、教会横にある孤児院の扉をノックした。
すると、中からシスターが現れた。


「あら、こんばんは。リュカさん。」


シスターが言うなり、後ろから子供達が続々と出てきて、アシュレイの周りに群がった。
けれど、誰もアシュレイには触らねぇ。
触んねぇ様にちゃんと言ってたんだな……


「リュカ兄ちゃん!また来てくれたんだ!」

「美味しいご飯作ってっ!」

「お腹すいた!」


口々に子供達はアシュレイに思いを伝えている。
アシュレイはそれを微笑んで見ている。

やっと……

やっとアシュレイの笑顔が見れた……

俺は嬉しくなって、胸になんかが込み上げてきて……

思わずその場に立ち尽くしてしまったんだ……








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