262 / 363
第七章
ユリウスの気持ち
しおりを挟むエリアスをどうやって助けるか……
それはまだ思い付かないけれど、一人色々思いあぐねてそこら辺をウロウロしていると、ユリウスに落ち着く様に言われた。
椅子に座って、何とか心を落ち着かせようとする。
でも、胸に抱き締めたエリアスの服は離せないままでいた。
この匂いを……知っている……
エリアスの……温かくて優しい匂い……
なんで疑ってしまったんだろう……?
あんなに優しく話しかけてくれたのに……
私に魅了された人達とは、目付きが全然違ったのに……
「リュカ、そんなに力を入れたら……服がしわくちゃになるぞ?」
「え?……あ、本当だ!」
「アイツの事となると、リュカはまるで子供の様になるんだな。」
「そんな事はない……」
言われて、すぐに服を綺麗に手で伸ばして畳み直して、ギルドガードを上着のポケットに入れて、それからまた胸に抱く。
こうしていると、何だか安心するんだ……
「しかし……エリアスがオルギアン帝国のSランク冒険者って事は、リュカもオルギアンから来たって事なのか?」
「……どうだろう……母とずっと旅をしていたのは覚えてる……けど、それ以降の事は……よく分からないんだ……」
「今オルギアン帝国の皇帝は……たしか、リドディルクって言う奴だったな。」
「え……?」
「前のベルンバルト皇帝もかなりのやり手だったらしいが、そのリドディルク皇帝もなかなかのやり手らしいな。」
「リド……ディルク?」
「あぁ、今の皇帝の名前がな。」
「……ディルク……」
「どうした?リュカ?」
「え?あ、いや、何でもない……」
何だろう……
なんか一瞬引っ掛かったような感じがしたけど……
この辺りでは最強を誇る大国の皇帝の事なんて、私が知ってる訳がないな……
やり手って事は、きっと残忍で強欲な奴なんだ……
それよりも、エリアスを助け出す事を考えないと……
「まぁ、これでも飲んで落ち着けよ。」
ユリウスがお茶を入れてくれた。
「ありがとう……ユリウス……」
お茶を口にしようとした時に気付いた。
なんで……?
なんで睡眠薬が入ってるんだ?
お茶を飲む事が出来ずに、ユリウスの顔を見る……
「なんて顔で俺を見るんだよ……」
「ユリウス……なんで……?」
「気付いたのか……なぁ、分かってくれよ……俺はずっとリュカが好きだったんだ……!リュカは他の奴等とは違って俺には警戒心がない……だからずっと安心してたんだ……なのにっ!エリアスって野郎が現れて……っ!リュカは今アイツの事しか頭にないんだろっ!?許せねぇよっ!この2年間、気持ち隠してリュカと一緒にいたのにっ!一瞬でエリアスはリュカの心を持って行ってしまったなんてよっ!!」
「ユリウス……!だって……ユリウスには魅了が効かないって……!」
「魅了とかじゃないっ!そうじゃなくて!俺は純粋にリュカが好きなんだっ!!」
「でもっ!私は男で!だからっ!」
「関係ないっ!男だろうが女だろうが!リュカがリュカであるかぎり、俺はリュカの事が……っ!」
「やめろっ!そんな事言うなっ!!し……信じてたのに……ユリウスを信じてたのにっ!!」
「リュカ!頼む、大切にするっ!今まで通りでかまわないっ!だから!俺のモノになってくれっ!」
「ユリウス……っ!」
ユリウスの目が……私に魅了されて近づいてきた者と同じ様になっている……
違う……
私を好きだと言うのは、闇の力がそうさせているんだ……
本当に私の事を想ってくれている訳じゃないんだ……!
誰も本当に私を想って好きだと言ってる訳じゃないんだっ!!
ただ惑わされてるだけなんだっ!!
エリアスの服を胸にしたまま、私はユリウスの家を飛び出した。
走って
走って
走って
涙が溢れてきて
なんでこんななんだろうって
エリアス
エリアス……
エリアス……!
助けたいのに
何も出来ない
私にはなんの力もない
あるのは
人を惑わせる瞳だけ
誰をどう信じれば良いの?
エリアス
会いたい……!
エリアスを助けたい……!
もう私から
誰も去って行かないで……!
気付くと、知らない場所にいた。
ユリウスの家から走ったなら、温泉街辺りな筈なのに……
目の前には大きなお屋敷があった。
こんな場所……知らない……
何でこんな所に来てしまったんだ?
戸惑っていると、馬車がかなりのスピードでやって来た。
玄関辺りに着くと、中から女性が現れた。
「急いで!医療班の準備はちゃんと出来てるんでしょうね!一刻を争うの!急ぎなさいっ!!」
周りにいる者達も慌てた様子で、せわしなく動いている。
何があったんだろうと思ってゆっくり近づいて行く。
馬車から運び出されていたのは、血にまみれたエリアスだった……!
「エリアスっ!!」
「えっ!?」
女性が私を見付けて凝視する。
「貴方は誰なの?何故ここに……いえ、今は良いわ。貴方、エリアスさんの知り合いなの?」
「そうだ……!」
「じゃあ一緒に来なさい!」
言われて私は女性について行った。
部屋へ運びこまれて、ベッドにエリアスを横たわらせる。
「エリアス……っ!」
「酷い傷だわ!止血を急いで!絶対に彼を死なせないで!!」
「はいっ!!」
「治療は医師達に任せましょう。貴方もこっちへいらっしゃい。」
「でも……!」
「大丈夫。絶対に助けるから!エリアスさんの知り合いなのよね?彼の事を教えて欲しいの。」
言われて、私とその女性は別の部屋へ行く。
エリアスの事が気になったけれど、今勝手に動く事はしない方が良さそうだ……
エリアスを回復魔法ですぐに治療したいけど、人前では使ったらダメだって、エリアスに言われたばかりだ。
でも、もし本当にエリアスの命が危なくなったら、私は迷わずに回復させる……!
なぜそう言ったのか分からないけど、きっと私を思って言ってくれた事なんだろう。
それでも、エリアスを助ける為なら……
私なんかどうなってもいいんだ!
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる