慟哭の時

レクフル

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第八章

父さん

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アシュレイとウルを置いて、俺は空間移動で村までやって来た。

アシュレイから離れるのはすっげぇ心配だし、もちろんウルも心配だ。
けど、どうしても村が気になって仕方ねぇんだ。

俺が生まれた村で、父親がいる村で……
全然覚えてねぇし、全く歓迎されねぇし、なんだったら嫌われてるし……
けど、やっぱり見過ごせねぇ。
このまま放っておくことは出来なかったんだ。

この辺りは薄暗くなっていて、吹雪いている状態だった。
村に入ると、家等の建物は殆どが凍りついて、木も氷に覆われているような感じになっている。
家々に灯りはなく、人の気配が全くない。

歩いて様子を見る。
……倒れている人が……所々にいる……
側に行って確認するけど、既に事切れていた。
もう……この村は……誰も……?

辺りを見渡しながら歩いて行くと、木が生い茂っている下にある大きな建物に灯りがついていた。
木が雪を遮ってくれていて、少し小高い場所にあるこの建物だけが無事でそこにあった。
急いでそこまで走って行く。
扉を叩くと、暫くして少し扉が開いた。


「誰だ?いや、誰でも構わん!とにかくすぐに中に入れ!」


扉が人一人分開いたから、すぐに中に入る。
中には人が大勢いて、厚着をして身を寄せ合うようにして寒さを凌いでいた。
それでもこの中は寒くって、暖炉に火はついてるけど、それだけじゃこの寒さに耐えられない状態だった。

突然やって来た俺を皆が見る。
その中に俺を知ってる人がいた。


「エリアス……っ!」

「なっ!なんでアンタがここにっ!!」

「うわぁっ!!殺さないでくれっ!!」


そんな事を聞いたからか、他の人達も俺を恐ろしい者でも見るようにして、ザワザワしだす。


「待ってくれ!俺は……!」

「何しにきた!エリアスっ!!」


俺を睨み付けてそう言ったのは父親だった。
前に出てきて、他の人達を守るようにして俺の前に立ちはだかった。


「この辺りの様子を見に来た……ここより西の街で、この界隈で魔物が増えたから冒険者に依頼を出したけれど、この辺りに来た者達が誰も帰って来ないと聞いたから……気になって来たんだ。」

「本当にそれだけか……?」

「他に俺が何をするってんだよ……?」

「お前は……俺を恨んでいるんだろ……?」

「恨む?俺が?何でだよ?」

「俺はあの時……ラビエラが燃えてしまって……我を失った俺は……お前を殺そうとしてしまって……っ!我が子なのにっ!!ラビエラが……っ!お前をあんなに大切にしてっ!愛していたのに!!愛していた筈なのにっ!!」

「……え……」

「守ってやることも出来ず……!愛してやることも出来ず……っ!俺はただ何もせずに!お前を探しもせずに!!」

「……どうでも良い……」

「……なに?!」

「んな事、もうどうでも良いんだよ!俺は母親を殺しちまったんだ!俺こそ恨まれても仕方ねぇんだよ!けどっ!!……けど俺は……!……この村を放っておけなかったんだよ……!」

「……エリアス……」

「何が出来るか分かんねぇ!けど、出来る限りの事はする……!今の状況を教えてくんねぇか?」

「……お前に何が出来る……?」

「聞いてみねぇと分かんねぇよ。」

「……分かった。」


まだ俺を警戒する村人達は俺に近づく事もせず、寒さに震えながら縮こまっていた。
俺は火魔法でこの部屋の温度を上げた。
すると、少しずつ皆の表情が和らいできた。
けど、急に温かくなってきたからか、皆が不思議そうにする。
その様子を見て、父親は俺を凝視してくる。


「……これは……お前がしたのか?」

「少し温度を上げただけだ。」

「そんな事が出来るのか……」


温かくなってきたら、気持ちも穏やかになってくるもんだ。
少し安心したのか、父親の緊張した顔も和らいできた。
それから、この村の状況を教えてくれた。

寒さを感じたのは三週間程前からで、それでも最初はそう気にならなかった。
ところが、山へ向かって行った者達が帰って来なくなった。
山へ行く者達は、事前に予定を聞いておく事になっていて、帰って来ない場合は任意により捜索される事になる。
こんなに立て続けに帰って来なくなることは今までなく、村人の救助隊が山に向かうが、その者達も戻って来ない。
経験に長けた者達の筈なのに、この状況は異常だとして警戒しだしたのは二週間程前。

その頃には、村の周りに魔物が多く出没していて、ここに向かっていた客もたどり着く前に魔物に襲われていた様だし、村人達も村の外でここら辺にはいなかった狂暴な魔物の餌食になっていた。
迂闊に村から出ることも出来なくなって、村の周りを強化させるべく魔物の侵入を防ぐ様に柵を村人達総出で作るが、日に日に気温が下がってくる。
この時期にあり得ない程の寒波に、暖炉に使う薪も足らず、村人が集まって話し合った結果、一つの場所に集まって暖をとることになった。

その準備をしている最中に、山の方で大きな魔物が空を飛んでいるのが見えた。
あんなに大きな魔物は見たことが無かったから、村人達は皆恐怖に怯えた。
しかしここから逃げ出す事も出来ず、魔物が飛んでるのを見てからは更に気温が下がり、吹雪く中やっとの事でこの建物までやって来た。
けれど、ここにたどり着く前に寒さで生き絶えてしまった者達もいる。

この建物に篭ってから五日程経ったが、暖炉にくべる薪も残り少く、食料もいつまで持つか分からない状況で、何の助けもなく、助けを求める事も出来ず、ただ皆で身を寄せあっていただけだった。
そう言って悔しそうに下を向いた。


「分かった……俺が様子を見てくる。」

「様子を見てくるって……何のだ?」

「その魔物のだ。」

「何を言ってる?!凄く大きな魔物だぞ?!空を飛んでたんだぞ!!」

「恐らくそれは、フロストドラゴンだろうな……」

「フロスト……ドラゴン?!」

「あぁ。さっき鳴き声を聞いた。この異常な寒さに、恐れて他の魔物が逃げて来たって事から考えても、ほぼ間違いねぇだろうな。」

「そんな……ドラゴンなんて……!あぁ……もう無理だ……俺達は助からない……!」

「……俺がやっつけて来る。」

「……何言ってるんだ……?そんな事無理に決まってるだろ!」

「俺、これでもオルギアン帝国のSランク冒険者なんだ。こう見えて結構強いんだぜ?」

「オルギアン帝国のSランク冒険者だと?!お前がか?!」

「あぁ。だからここは俺に任せてくんねぇかな?」

「それでもお前に何かあったら……!」

「大丈夫だ。元々俺はいない存在だったろ?気にしねぇでくれ。」

「そんな訳には……」

「なぁ、一つ頼みがあんだけど……」

「……なんだ?」

「……アンタの事……父さんって……呼んでいいか?」

「エリアス……俺をそう……呼んでくれるのか……?」


そう言われて、思わず俺に笑みが溢れた。
父さんも色々思うことがあったんだな。
ここに来て良かった……


「じゃあ行ってくる。」

「エリアスっ!」

「なんだ?」

「死ぬな!必ず戻って来てくれっ!!」

「あぁ。分かったよ。父さん。」


俺は笑顔で答えて、それからすぐにそこから出て走り出した。

フロストドラゴン……

こいつはかなりヤバい奴だ。
正直俺が勝てるかどうかは分かんねぇ。
けど、このままにはしておけねぇ。
この脅威はいずれ広がっていく。
そうしたら、隣接している国であるオルギアン帝国にも被害が及ぶ。
俺はオルギアン帝国のSランク冒険者なんだ。
ゾランにもアシュレイの事を頼まれていて、それはオルギアン帝国からの依頼だとは言われたけど、敢えてそう言ってくれてるだけなんだ。
なんも貢献しねぇで、オルギアン帝国のSランク冒険者だなんて大きな声で言えっかよ!

アシュレイ……

俺がいなくなったら、またディルクがいなくなったって泣くか?
俺じゃなく、ディルクを想って泣くか?
それでも……!
俺はアシュレイをこれ以上泣かせる訳にはいかねぇんだよ!

必ず戻る……!

そうウルにも約束したんだ。

ちょっと大暴れしてくるだけだから、待っててくれ!

アシュレイ!

ウル!






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